第8里 翼 ▷ 偵察

『”20日生存する”のアチーブメントを獲得』


 お、来た。良いタイミング。


『進化項目を選択してください

 ——砲

 ——門

 ——翼

 ――波(破損修復)     』


 今必要なのは機動力。


『翼が選択されました

 進化終了まで3.2.1……終了』


 イカダが3段に増え、さらに大きくなったようだ。全長15mほどか。未だに木造だが金属製になるのだろうか。後方(銛の搭載されている方)の形が角張り、全体としてホームベースのような5角形になった。イカダの外周に手すりが増設され、着実に船へと変わっていく。底部は流線形になった。新しくできた空間は、浮力を得る目的以外に使い道は無さそうだ。さらに進化すると、隔壁などができるのだろうか。

 全体に灰色になり、他の船から見ると不気味かもしれない。ん? 横っ腹に文字が彫られている? まぁ、支障ないだろう。


 肝心のスクリューは馬力が上がったのか、大きさは変わらず推力が向上している。

 そして――


「えっと、何なのこれ?」

「知らん」

「私かなー?」


 ――なぜか丸太に、祈っているテア似の女性像がつけられていた。船首につけるような像か? 確か航行の安全を祈願する物だったと記憶している。

 布を巻いた服装は、近隣では見ない格好だそうだ。ギリシャ神話とかでは出てきそうだ。進化すると、この像も大きくなるのだろうか。


 ボロトを乗せ、島から5km圏を航行する。着実に速くなっている。時速20km弱といったところか。陸上では遅いだろうが、海上では十分だろう。遠くで停船していた船にも追いかければ追いつくだろうが、一目散に逃げて行ったので今日は許してやろう。


「テア様の救助が目的ではない、か……いよいよまずいな。」


 とボロトが漏らしていた。テアがニコラやボロトよりも身分が高い可能性はある。東西の陸地が見えるまでは偵察すべきか。夜であれば街の明かりを見つけやすいだろう。夜更かしできないので早めに寝る。




「どこ行く気なの? って聞いても答えないでしょうけど」


 なぜバレた。じわりじわりと後進していた深夜。入り江から出ようかというところでニコラが話しかけてきた。いつも寝床から出てこないのにどうした。


「もし行くなら、あの赤い点を目指すと大きな港があるわ。夜も明るいし。明け方は商船が多いから気を付けて」


 指差された赤い星は、地球で言う北極星だろうか? 内陸の海なのだから、沿岸をざっと見てくるのは簡単だろう。

 汽笛のように霧を2回飛ばし、夜の海へスクリューを回していく。


 久しぶりの単独行動。ここ最近はテアたちに合わせて実験していなかったからなぁ。全速前進~。

 夜風が気持ちいい。やっぱ動けるのはいい。早い段階で翼を進化させて良かった。

 星を見ながらの航行を1時間もしていると、暇になってくる。変化があまりないのだ。島はギリギリ見える程度に離れた。人が泳いで渡るには広いな、と思う自分はイカダ生活が板についてきたようだ。

 後方に放水しつつの前進も試す。波で全身が空中に投げ出される感覚を忘れたわけではないが、やってみたい気がした。後方の砲を放水し続け、前方の砲を後方やや上方に撃つようにしよう。


 やってみると、モーターボート並みに加速した。少し楽しい。小刻みに振動するが、問題なく進めるようだ。ただし直進のみだとすぐに理解する。方向を変えようとするとギギギギと異音が鳴った。無理して玉砕は、したくない。




 明け方、ちらほらと船が見えてきたので減速する。見える範囲で武器は無いので商船なのだろう。こちらは、武器は見えても人がいないので逆に恐いかもしれない。積み荷の中身は分からない。旗や位の高そうな人の顏などを覚えておこう。


「おい、何だアレ……大砲か?」

「誰か乗ってるかー?」

「帆が無いぞ? 襲われたのか?」


 多くて4人の乗る帆船がたくさん。緑十字に赤▷◁と白▽△……どの船にも掲げられているのは国旗だからか? ひげが天を衝く勢いの人がいる。モンマス帽も他とは違い真っ赤だ。目立ちたがりか、覚えておこう。

 帆が無い船は珍しいのか寄ってこようとする奴もいるな。これ以上近づけなさそうなので移動するか。沿岸部には平屋しかない。奥には複数階層の建物もあるようだ。それなりに発展していそうだ。

 急に方向変換し、加速し始めた無人船に商人たちがざわめく。起こした波でいくつかの船から人が落ちたようだ。放っておいても誰かが助けるだろう。




 ん? 単縦陣から弓形陣に変えながら追ってくる帆船がいる。大型船が5か。先ほどの旗と、薄青地に青射線と白いいかりマークの旗。全速で振り切ることもできるだろうが、手の内を見せる意味は無い。あちらさんの速度に合わせて諦めさせよう。


 ひゅ~~~~~~~~~~~


 気の抜けた音。引き続き重低音が鳴り響いた。おいおい、撃ってきたか。彼我の中央に着弾したようだ。弾も小さいし射程も短いな、2kmも飛んでいない。大したことないな。


 しばらくして豆砲艦隊は、あきらめて帰って行った。ご苦労さん。

 朝日が照らす前方に、波止場と思われる細長い建造物が見えてきた。小屋が一つある奥まった砂浜。左右の背の高い木々が、砂浜に大きく影を落としている。隠居しているのだろうか。

 小屋から人が出てきた。せき込みひざを折ったぞ、大丈夫か? 巻き角がヒツジみたいだ。ニコラも来ていた服と白髪のボサボサ具合から生活の質が伺える。小屋からもう一人が出てきてヒツジ角を連れ戻した。こちらに気づき逃げ帰るような動きだ。威圧するつもりは無かったが、威容かもしれない。離れよう。


 その後もいくつか回り、昼前に島に向かい針路をとる。周りに他の目が無いので全速で戻ることにした。

 こちらの様子をうかがう目が、雲の高さにあるとも知らずに。

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