第7里 10回目 ▷ 20日目

『”1回の攻撃で5体以上に当てる”のアチーブメントを獲得』


 お、来た。次は50体同時だろう……厳しい。


『通算10回の進化となります。進化項目を2回選択してください

 ——砲

 ——門

 ——翼

 ――波(破損修復)    』


 10回。濃密な2週間だった。現状、砲以外の選択もアリだ。しかし次を見てみたい気もする。やはり砲だろう。


『砲が2回選択されました

 進化終了まで3.2.1……終了』


 2回の進化。3cmの口径が20cmになるような進化を2回もすれば、相応に火力が増すだろう。だが、まさか本物の艦砲になるとは。見た目は、まんまカロネード砲になった。砲身3m、口径20cm。2門という数に変化は無かった。

 イカダも大きくなり、全長10m、楕円形の細長いボディになった。木のボディで反動に耐えられるのかは気になる所だ。さらに木は2段になり、少し船らしくなってきた。イカダ脱却も近いかもしれない。ちなみに木の1段目は水面下に沈んでいる。艦砲の重量だろうか。


    ――――――――――

  /          銛 \

〈  砲    丸太    砲  〉    →沖

  \          銛 /

    ――――――――――


 次の日、ボロトとニコラの顔が引きつっていた。イカダが一晩で倍以上の大きさになっていれば驚くかもしれない。しかし不可抗力だ。イカダの上を走り回っているテアを見習ってほしい。


「ねぇ、ボロト」

「何だ」

「結構早い段階で帰れるかもしれないわね」

「……だと良いな」


 砲身によじ登るテアを滑り落としている様を見ながら気になる会話をしてる2人。沖を通る船があったら連れて行ってあげるのも良いかもしれない。

 イカダが大きくなったためか、進む速度は遅くなったように思う。水平線まで10kmもないだろうから、十分追いつけるかな。次の進化は翼かな。


 昨日は偶然大漁だったので中断した島の外周探索。今日は、なぶらを見なかった。代わりに島の裏側が遠浅になっていることを知る。水面下に無数の半球状のくぼみが広がっている様は、自然にできたというより爆発で吹き飛んだかのような。




「一つ一つのくぼみで魚が群れを作っていた」

「魚は問題なさそうね?」

「ああ、そっちはどうだ?」

「いくつか実がっている木を見つけたわ」

「いっぱーい」


 昼前に戻った3人が状況を報告していた。テアの両手で抱える果物を見るに十分な量があるようだ。口の周りの食べカスは後で洗い流そう。

 3人が食事を終えたところで砂浜に広く水を撒き、放水砲を沖に旋回させる。無いとは思うが、砂が舞うかもしれない。

 砲をため始めつつ沖に動くイカダを見て、ボロトとニコラがテアを避難させてくれた。言葉が通じないからこそ行動で、というのは色々と問題があるな。


 砂浜から500mほど離れたところでスクリューを島へ向け、全速前進しつつ発射してみる。沖に船がいないのは確認済。

 1分以上ためていたが、前回よりも小さなが水平線の彼方へ飛んでいく。……飛距離おかしくない? 20cmの口径なのに10cmくらいの弾じゃなかったか?

 色々と考える時間がある程度に、なかなか着弾せず飛んでいった砲弾が着弾すると、昨日見たような水柱が立ち、雲が押しのけられていった。

 あれ? 雲って海抜何mくらいにあるんだっけ?


 20秒ほど遅れて轟音が差した。音は340m/秒だから7km以上か。もはや兵器だろ。とりあえず数発、時間計測のため準備する。

 20秒以上の”ため”は、意味がないようだ。次弾装填は20秒ほどかかるので40秒ごとに最大火力だな。1:1ならば十分かもしれない。

 相変わらずのストレートやじょうろ、シャワーにキリも切り替えられた。どういう構造なのか気になったが、動かせるのは砲とスクリューだけなので気にしないことにした。


 砂浜に戻ると、3人が砂浜に立っていた。テアはいつもどおりだが、2人は真剣な顏だ。


「あんたは何と戦う気なの?」


 聞かれても困る。図体が大きいだけなら恐くないが、無言で武力行使するイカダは恐くもなるか。3人にシャワーでも浴びせてやろう。「こいつ殴って良い?」「やめとけ」という不穏なやりとりが聞こえたが無視しよう。




 次の日。ボロトが余った魚を干している間、ニコラが沖を見ながらつぶやいた。


「定期船がそろそろ通るはずなのに航路を変えた? それなら軍が動くはず……」

「ニコラはー、たまに難しいことをぶつぶつ言ってるんだよー」


 と、銛の近くに移動してきたテアが言う。定期船の航路やら軍の事は難しいかもしれない。航路を変えさせた要因が放水砲の試射だったら申し訳ないことをした。

 キリで虹でも出しといてあげよう。




 次の日から。大型船が水平線付近を航行するようになった。しばらく停船し帰っていく。何度か空高く放水したが近寄って来なかった。ニコラが言うに定期船ではないらしい。5km先を判別するってスゴイな。


「大型の魔獣のいない内陸の海に船がいないなんて」

「止めている、か」

「下手すると戦争に巻き込まれるかも」

「どことどこかが分かれば、逃げようもあるんだけど」


 きな臭くなってきた。大型船を何隻も相手にするなんてごめんだ。進化しにくくなってきたのに、翼の進化は急務だなぁ。

 テアの寝顔越しに見る日が傾き始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る