第6里 協力 ▷ ため撃ち
次の日、昨日と同様に砂浜近くを移動していると、島の反対側から黒煙が上がっていることに気づいた。3人が何か燃やしているのだろう。今までは木で見えなかったのかな。
みるみるうちに黒煙が大きく、木の上から火まで見え始めた。これは火事。
最大出力で放水してみると、後進しつつも木を越えるほどの弧を描いた。スクリューを回しながらでなければダメか。
とりあえず近場から奥へ放水し続けると、黒煙が見えなくなっていった。進化で飛距離も水量も向上しているようだ。鎮火したか? 遭難したからとヤケになったのだろうか。
ほどなくして、ずぶ濡れで
「えっと、言葉は通じるの?」
ニコラが赤茶髪をいじりながら聞いてくる。ボロトは黙って見守り、テアは目をキラッキラさせながらこちらを見てくる。通じていても話せない。五感に必要な器官が、無いから。
ノズルを左右に振ると、しびれを切らしたテアが汚れた手でイカダを触ろうとした。
それは嫌だな。
両方のノズルを高速回転させ、シャワーをテアに浴びせた。
小さな悲鳴が聞こえ、ボロトがテアをイカダから離した。ニコラが2人の前に立ち、木の棒をこちらに向ける。
テアは目をぱちくりさせ、ボロトと2人で水だと分かると、また近づいてきた。今度は良し。
「いきなり触ったら危ないですよ」
「だいじょぶー」
イカダ中央の丸太にしがみつくようにして座るテアと慌てるニコラ、まるで保護者なボロトとの奇妙な共同生活が始まった。
衣食住の問題。3人の寝床は砂浜傍の木の後ろに作っていた。ヤドカリが不定期に落ちてくるから。食はニコラとテアが果物を、ボロトが漁を行うことになった。服は替えが無いので洗って着るしかない。しばらく放水し続けるのは面倒だが、まぁ眼福だろう。
ニコラもテアも満足に食べていないのかもしれない。ボロトが石と太い木を用意して準備を進めていた。
『”1回荷物を運ぶ”のアチーブメントを獲得』
イカダに乗ったのはテアだけ。人も荷物か。
『進化項目を選択してください
——砲
——門
——翼
――波(破損修復) 』
推進は十分だろう。放水ノズルを進化させていくと何に変わるのか興味がある。
『砲が選択されました
進化終了まで3.2.1……終了』
放水ノズルの口径が20cmになった。ノズル長は1mにもなり、中央の丸太の前後に1門ずつ配置された。イカダがさらに大きくなり、3m四方の若葉マーク状だ。
試しに放水してみると、高さ20mに達した。これはもう放水砲ではないか。ちなみに砲身を上下に振れるようになった。一度撃つと1分ほど待たねば撃てないようだ。試射しておいて良かった。発射前に、ため続けることができるらしい。
ニコラの「うわぁ……」という声と、テアの「にじーきれー」という声が聞こえてくる。ボロトは立ったまま気絶していた。よだれは洗い流してやろう。
少し漁に変化があった。イカダという足場があるので入り江から出て、島を一周した時 ”なぶら” を見つけたのだ。海面近くに浮上した魚の群れにより海面がざわついていた。ため始めた放水砲を向けると、ボロトが察したのか中央のマルタにしがみつく。
10秒ためた放水は衝撃波とともに撃ち出された。
イカダが浮き上がるほどの反動でボロトが吹き飛ばされそうになりながらも
たくさんの浮いた魚を偶然見つけたボロトが回収していく。大小それぞれ大漁、大漁。
何か言いたげなボロトの視線を無視して一度島に戻ることにした。
「……で?」
「事実だ」
「ここから水柱が見えてたから信じるしかないけど――」
「どれから食べるー?」
「――そうですね、食べましょう。ボロト、あとで話あるから」
「分かった」
食べたい雰囲気を出しているテアは魚が恐くないようだ。焼く以外の調理法が無いので焼き魚ばかり。生のまま食べる文化が無いのだろう。耐熱の器があれば煮ることもできるのになぁ。
お腹一杯で寝たテアを寝床に運ぶ二人の声が聞こえてくる。こちらに聞こえないように小さい声で話しているようだ。なぜか聞こえてしまっているが。
「あんたが指示しての水柱じゃないなら危険かもしれないでしょ」
「俺が丸太にしがみつくまで待っていたように思う」
「それだけ?」
「おそらく全力ではない」
「……は?」
「撃つ前に両方の筒の上部分が光っていた。枠のようなモノが半分ほどだ」
「……敵対しないようにしましょう」
やり過ぎたかもしれない。自身の性能を知る機会だったと思うことにする。筒の上部分は見えない所なので新発見だ。10秒で半分だから20秒が全力か。明日誰も乗せずに沖で撃ってみよう。波がいつもよりもざわついているように感じた。
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