第2里 呆然 ▷ 遭遇
大学生にもなって水鉄砲で時間をつぶす。字面は最悪。ツッコミ不在。泣きたい。
特にやることも無いので、しばらく水を出して飛距離を伸ばしたりしていた。1mも飛ばない。私の涙も撃っているのかもしれない。あわよくば達成し文字が表示されるかと水鉄砲を撃っていたが、出ない。条件が視えれば頑張れるのに。砲口を回転させることはできる。何の役に立つのだろう。
夕方になっても何か起こるわけでもなく、イカダの半分が海水に浸かり始めていた。
ピュ――――――――――――――――……
無駄に長めに撃ってみる。暇なのである。5秒ほど出し続けられ、10秒で水が補充される。原理は分からないが、実に都合の良いオモチャだと思う。
潜っていたヤドカリは無駄撃ちしている水を浴びてじっとしている。何か気に入ったのだろう。補充する合間にハサミをワキワキさせるのは催促か可愛さか。しびれを切らし水鉄砲をツンツンし始めたのでピュ——してやった。
ん? 波の音に乾いた音が混じった気がした。周囲を確認すると沖に何か浮いている。どうも目線が低いので見にくい。
陽が落ちた頃、砂浜に打ち上げられた木片を見る。木材の表面が平滑に削られている。人工物だ。人がいる……でも救助は、期待できない。どこの世界にイカダを助ける人が存在するのか。意思疎通の手段もないし。
あっ、でも進化の先に意思疎通が、可能に……なればいいなぁ。はぁ。
ああ、はいはい。ピュー。私はスプリンクラーじゃ、ああ、はいはい。ピュ――――――。
『”100回攻撃する”のアチーブメントを獲得』
お、来た来た。ヤドカリへの放水は攻撃判定らしい。時間ではなく回数だったよう。
『進化項目を選択してください
——砲
——門
——翼 』
前回は砲だったから次は門かな。翼も気になるけれど、イカダに翼はイメージできない。
『砲が選択されました
進化終了まで3.2.1……終了』
あるぇ? 砲になっちゃったぞ? 門だよ、門! と考えている間に終わったらしい。水鉄砲が庭に水を撒くホースに付けるような放水ノズルになった。切り替えてシャワーも出せる! はい、シャ――――。ちくしょぅ。
イカダの丸太それぞれも一回り大きくなった。より砂に埋もれた気がする。砲を進化させるとイカダ自体も進化? 肥大? 変化? するらしい。砲に合わせた成長なのかは分からない。
ちなみにノズルの旋回は水平方向のみ。砂を押し流して沖に出ることはできなさそう。
水量を少なくしてボタボタとイカダのそばに落としていくと、くぼみはするがイカダを動かせるほどにはならない。しばらくは散水かなぁ。
『”1000回攻撃する”のアチーブメントを獲得』
『進化項目を選択してください
——砲
——門
——翼 』
やった。3日もかかったがやり遂げた。水をやりすぎてヤドカリが逃げたので時間がかかった。おっと、要らん事を考える前に門、門、門……。
『門が選択されました
進化終了まで3.2.1……終了』
よし。今回は門を選択できた。イカダの中央に丸太が生えた。何で中央に丸太? 門は? 丸太が門なのか? 門は開いたりするのか? どこからどう見ても丸太にしか見えない。
進化で大きさなどが変わるかもしれない。次は1万回か? ハハ……。
遠い目で空を見ると、黒い雲が遠くに見えてきた。海が少し荒れてきたように見える。雨が降るのかな。雨ざらしは仕方ないが、移動できたりするかもしれない。
ノズルを回転させ、霧状に水を飛ばす。虹が見えた。そういえば他のもあったなーとノズルを回転させると「じょうろ」になった。ヤドカリが喜んでいる。
ヤドカリが癒しになっていまいか、と思ったところで文字が現れた。
『”5種類の武器を撃つ”のアチーブメントを獲得』
『進化項目を選択してください
——砲
——門
——翼
――波 』
お? 波が追加されてる……あっ。
『波が選択されました
進化終了まで3.2.1……終了』
やってしまった。考えただけで選択してしまうんだった。毎度、選択肢が簡潔過ぎるんだよ。次は翼、次は翼。
とりあえず進化で変わった所を確認するとイカダの後ろ――海に近い部分に鉛筆のような丸い筒が2つ生えていた。筒の中には返しのついた金属棒が装填されている。銛だな、魚を刺して漁をするアレ。波って何だろうな。
試しに撃ってみると1mほど飛び、着水した。分かっていたがショボイ。しばらくすると筒から伸びた紐が筒に回収されていった。
ヤドカリにイカダをポンポンとされ、ちょっと泣きそうになった。
何度か進化すればきっと使える武器になるはず、と気持ちを切り替え確認に戻る。
銛の装填された筒は旋回できない。獲物が正面に来たタイミングか。
連射は、と2発同時に撃ち観察する。ふむふむ回収し終わるとすぐに撃てるが、10秒以上かかるようだ。微妙だ。進化すると変わるだろうが、翼を選択できていない。
攻撃回数と武器の種類のアチーブメントがあることは分かっている。他にもあるかもしれないが、未確認にかけるよりは確認できている事を反復していこう。ノズルでシャワーとストレートを、筒で銛を撃ち続ける作業が始まった。
水面を叩く音が、月明かりの砂浜に響いている。星があまり見えない夜は暗い。明日には雨が降りそう。沖の方は月明かりが届かないようで水面は、ほぼ黒色に見えた。
だからだろうか、水面から背ヒレを出したまま静かに近づくモノに気づいたのは。
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