アチーブメント

あるまたく

いかだの可能性

第1里 転生 ▷ 漂着

 日付も変わろうかという頃。スマホとタブレット、パソコンの明かりが照らす室内で、数日続けた目標達成が見えてきた。


「あと……20周。」


 可愛らしいトゥーンなデザイン——デフォルメされた平面絵――の船に武器を搭載し、PvP1:1にてスコアを得る。単純だけどもハマったアプリ。

 PvPは海マップで、左右移動と武器の一斉射しかできない。武器をどこに付けるかで封殺されることもある。


「あと10周……zzz。」




 閉めたカーテンの隙間から差した光がまぶしくて起きた。もう朝。寝落ちしたらしい。昔から夜更かしできないのがネックだな、と髪を手ぐしで直す。

 入れてあったスケジュールの通知に目を通すと、今日は講義がある。30分前にタイマーかけておいてっと。オンライン講義になったので楽なもの。レポートを先輩に見せてもらいにくくなったのは困るけれど、人付き合いは最小限で良いと思ってるので。楽なのよりも、やっぱ寂しいし。


「やった、間に合った!」


 ほどなくして達成した目標を喜び、達成報酬を確認する。おお? 新しい武器と船! 今のより良い。入れ替えなきゃ。


 ピピピッ


 あっ、タイマーだ。用意しなきゃ。着替え忘れて下着を晒した同期の二の舞はごめんだもの。最低限、着替えないと。

 カーテンから光が一条漏れてる。

 立ち上がりカーテンが閉めるため手を伸ばす。のぞかれ、るほど無いけど一応。


「うあっ!……って、え?」


 いきなりカーテンの光が、私の目に差してきた。両目を瞑った時、足元まで光った気がする。




 すぐに目を開けると、周囲が様変わりしていた。なぜか私は太陽の下で海に漂っているらしいイカダで。快晴。まぶしい。ウイテル。

 波が体に当たるのが分かる。慌てて上体を起こそうとして、全く動けない事に気づく。波が視界を通り過ぎる。


「な、何で? 部屋にいたのに、あれ?」


 腕も足も首も動かないというより動く気配が無い。まるで胴体しかないかのような……でも空が見えてるし。波が再度、目の前を通過する。イカダであることを受け入れにくい。たくない。


 一通り叫んだのち、しばらくアレコレ試してみる。

 視覚、触覚、聴覚は機能しているらしい。波が邪魔で視野は水平方向に1m。は広い。水が目に触れても痛くないので海中も見放題。海底まで1mもなく砂が見える。


 さざ波の音が聞こえる。もしかして浜が近い? 精一杯水平方向を見てみる。

 あっ、見えた。上陸……じゃなかった漂着できそう。




 何度目かのアタックで砂浜に乗り上げた。良かった。ずっと漂流とかシャレにならない。できれば誰か助けてくれると良いんだけど。

 三日月型の砂浜のそばには背の高い木々がある。鬱蒼と茂ってる。人工物は……砂浜にも森にもない。

 相変わらず自力では移動できない。「誰かー! いませんかー!」と声を出そうとしても発声できなかった。助けが呼べない。


 あれ? もしかして詰んだ?





 しばらくして満潮が過ぎたらしいことを知る。波が当たらなくなってきたから。日が傾いてきた。誰も通らない。青空。日光に長時間当たっているけれど痛みは感じない。何でだろ。

 砂浜近くの木はマツの様だ。ヤシ? も数本あるが、何か色が違う気がする。ヤシって紫色だっけ? 落とした実って足が生えて動き出すっけ? ヤドカリみたい。近くに落ちた他のヤドカリとベシンベシンやりあってる。あ、負けた方が海に走って行った。家の交換は、しないみたい。振動がここまで届くなんてヤバ……。

 勝った方のヤドカリが、じりじりとこちらに近づいてきている。ヤドカリがイカダを食べたらどうしよう。動けない現状、虫や昆虫が近づいてくるのは恐怖でしかない。

 近づいてくる……ヤドカリなんて10cmくらいのはず。

 あれ? 目の前にまで来たヤドカリは体長30cmくらいってデカ。間近で見ると1mほどもある触覚が鞭のように、黒い目が私を品定めでもするかのように、ギチギチと鳴る口が——


 ——あっ、やっぱ詰んでた。


 ザリ、ザリ、ザリ……


 ……どういう事だろう。ヤドカリは目の前で穴を掘り始め、砂に潜ってしまった。食われる危険からは脱したのだろうか。心臓に悪いから、もう出てこないでほしい。心臓ないけど。


 ひと息ついた時、ポンっと単発音が鳴った。目の前に半透明の文字が出現し、小さな花火エフェクトが繰り返されている。


『”残存1日”のアチーブメントを獲得』? 


 いつ達成した? 太陽の位置やら空の色から、時間にすると15時くらいか。覚えておこう。

 と、心のメモに残しているうちに文字が変化した。


『進化項目を選択してください

 ——砲

 ——門

 ——翼           』


 説明足りなさすぎ。制限時間は無さそう。3択らしい。共通点はあるのだろうか。砲って大砲のだよね。門は……と考えているうちに再度文字が変化した。


『砲が選択されました

 進化終了まで3.2.1……終了』


 選んでもいないって考えただけ、とカウントダウンが始まった。あっ、終わった。短時間に変化がありすぎて理解が追い付かない。進化って何だ。

 すぐに文字は消え、次の文字は出てこない。とりあえず何か変わった所を探すと、イカダの上に2つの水鉄砲が配置されていた。いつ生えた? というか進化してコレか?

 こんなのどう動かすんだ、と考えると水がピューっと出た。わーい。


 水が落ちた所からモソモソとヤドカリが顔を覗かせ、嬉しそうにハサミを鳴らした。

 出もしない涙が、心の涙が流れた気がした。

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