第11話

(なんで、みなさん。そんな簡単に受け入れるのでしょうか?)


 私は思わず苦笑いしてしまいます。

 確かに王家に養子に入る方々がいらっしゃいます。

 けれど、女性で入るなんて言うのは私は聞いたことがないのですけれど・・・。


 私は周りを見渡しますけれど、それにはみなさん、満場一致で賛成のようです。そこまで期待されると、困ってしまいます。


「いいんじゃないか・・・?」


 私が悩んでいると、ローカス王子がポツリと呟きました。

 不貞腐れたような顔をしているローカス王子の顔と言葉を聞いたら、吹っ切れました。


「わかりました。お父様とお母様と相談させていただきます」


「おおっ、ありがとう、ありがとう」


 国王様が私の手を両手で握りしめました。

 とても冷たい手でした。

 再び拍手が沸き起こりました。


「でもなぁ、ローカス王子は・・・」


 誰かが言いました。

 

「そうよ、アン様を陥れようとしたのよ」


「自分は不貞を働いて、相手を断罪しようとしていたのは許せないよな」


 再びざわつくみんな。

 まだ、王家でない、ただの貴族の令嬢でしかありませんが、ここは私がなんとかしないといけませんね。


「あの、みなさん・・・」


「大変ですっ!!」


 土まみれの男が血相を変えてやってきました。


「どうしたんだ?」


 国王様はその男と顔見知りのご様子で、名乗らせることもなく用件を聞きます。


「東国のオリエンタル王国が我が国を目指して、進軍していますっ!!数はおよそ5万っ!!」


「「「5万っ!!?」」」


 貴族のみなさんが騒ぎ始めました。

 国内の問題が起きた矢先に、国外からの敵襲とは、内憂外患ってやつですね。


(と言っても・・・政治はいざ知らず、戦は全くわかりませんわ)


「国王様、とりあえず、それから同盟国に文章をお送りましょう」


「それだと間に合わない」


 私の進言を遮るようにローカス王子が否定し、立ち上がり、私を見て、覚悟を決めた顔をしたローカス王子は国王様を見る。


「父上・・・いいえ、国王陛下。俺が倒しに行きます」


「・・・言っていることはわかっておるのか?オリエント王国と言えば軍事国家。オリエント兵は他国の兵の3倍強い。アン殿が言う通り、同盟国への応援を・・・」


「俺は罪を犯しました。けれど、アンは許してくれた。それでも、俺の罪は消えない。だから、王家を捨て平民として戦に出ます。なんせ、俺に代わる優秀な後継者が見つかりましたからね」


 目を伏せながら私を見るローカス王子。


「わかった。だが、ぶっきらぼうのお前にも戦の才能がある。兵隊長として軍を率いろ」


「はっ!!」


 元気に返事をするローカス王子。

 いつも国王様にワガママに物を言うローカス王子ではなく、新兵隊長としての返事でした。それを寂しそうに見つめる国王様と、覚悟を持った顔のローカス王子。


「よろしいかな、アン殿」


「ええ、お願いします、ローカス王子」


 私はローカス王子を見た。


「王子じゃない、ただのローカスだ。アン姫」


 これが本当の名誉挽回ですかね。顔が生き生きしていますよ、ローカス。


「国家の危機じゃ・・・。10万の兵を・・・」


「それでは、勝てません。1万の精鋭をください。ガランの谷で対峙し、防いで見せます」


 ほっとした国王様がローカスに伝えると、ローカスはきっぱりと答えました。


「うむ、わかった。すぐに軍をまとめて、出発しろ」


「はっ!!」


(なーんだ、様になってるじゃないですか)


 その背中は自信に溢れておりました。

 ただ、勇猛と蛮勇は違います。

 死ななければよいですが・・・。






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