第6話
「玄海町は限界です」
その言葉を瑛斗が口にすると、町の人に怒られた。
身内の冗談ネタとして言うのはいいけれど、よそ者の瑛斗が語ると腹立たしいと。
「人が怒るのは、痛いところを突かれたからです。東京が限界だなんて言われたって、東京の人は鼻で笑いますよ」
町の人は瑛斗に何もわかっていないと答えた。
「そうですね。でも、僕はこの町で頑張りたいと思いました。理由ですか・・・?今、私がここにいるからです」
ふざけている、考えが浅いと言われても、瑛斗は町に残り、町を知り、町の活動に参加し、町の人とコミュニケーションを続けた。
「あっ、そうそう。席が一つ空いるなら、座ってもいいですか?」
2021年9月。
50年以上の歴史を持つ玄海町議選で初めて定員割れを起こした際に、瑛斗は言った。
なら、始めから立候補しろよ、となじられたりもしたが、
「僕だって、人にどう思われるとか気になりますし、怖いんですよ。本当に何かをできるかどうかだって…。だから、今立ち上がるんです。昨日は勇気が無くて立ち上がれなくても、今日は立ち上がれる。昨日立ち上がらなかったことを理由に立ち上がるのをためらいたくはないですね」
時には大きいことも言う。
けれど、時には素直に限界だと言う。
それが成長した瑛斗だった。
現状のままじゃいけないと思って、旅に出て、変わりたいと思いながらも、本当に変われるのか不安になりながら、旅を続け、素直でありたいと辿り着いた瑛斗。
東側の山から吹き下ろす風が玄海町に吹いた。
すると、風車は少しだけ、ほんの少しだけ力強く回った。
佐賀にはもしかしたら、遠方から行きたいと思えるほど、どうしても行きたいと思えるような名所を探せないかもしれない。玄海町はただの限界集落であり、わざわざ行くまでではないと思っているかもしれない。
でも、そこにはちゃんとある。
来ればわかる。
来れば……あなたがいる。
ここは今日も風が吹く。
平原の風車と共にあなたのモヤモヤを少しずつ吹き飛ばす風が吹く。
ここは今日も西の水平線に太陽が沈む。
写真では決してわからない涼しげに見えるのに肌を焼く夕日の暑さと海へと沈もうとしている夕日の切なさはあなたの心だ。
都会の人間関係のすれ違いや忙しない仕事のせいで生まれた心の中の怒りや寂しさを一緒に海へと誘い、洗い流してくれる。
耳で、目で、鼻で、口で、肌で、そして心で玄海町を感じてほしい。
ここでは、あなたを見つけられるのだから。
玄海は今日も西の海で、変わりたいあなたを、疲れたあなたを、そして、自分を探しているあなたを待っている。
【完結】限界なんてない。あるのは玄海だ。 西東友一 @sanadayoshitune
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