第3話

「山ばっかじゃん」


 唐津駅からバスに乗り玄海町に進んでいくと、林や畑などの景色が広がっていた。長崎駅を出てからすでに3時間は過ぎている。


(あーぁ、時間の無駄だったかな?)


 はぁっ、とため息をついて瑛斗はむすっとしながらリュックサックを抱きしめながら、眠りについた。


(見たら、さっさと帰るか)


 ガッタンっ


「んんっ」


 瑛斗がバスの揺れで目を覚ます。

 外を見ると、山間部を抜けて、田畑が広がっていた。


「んんっ~~~っ」


 背伸びをして、もう一度外を見る。


(さっきよりは悪くない景色だ・・・)


 すっきりしたかったので、窓を開けるとほどよい風が入り込んでくる。


(うん、悪くない)


 ピンポンッ


 瑛斗は降車ボタンを押した。

 バスが停まった停留所は金の手。


「おぉ」


 バスを降りた瑛斗を迎えるように風が瑛斗にじゃれ合ってくる。

 少しだけ瑛斗の気持ちをわくわくさせた。風を感じながら、瑛斗は少し歩くと、


「あっ」


 暴走をしない、させない、見にいかせない


 そんな看板が目に入った。


(しない、させないはわかるけど、見に行かせないって・・・)


 この風を感じながら、車やバイクを走らせるのはたいそう気持ちが良いだろう。そして、それを楽しそうに運転している暴走族?は子どもからすればかっこよく見えてしまうのかもしれない。


「でも、そんなことをしたら風に嫌われる・・・なんちって」


 社会人になってそんな冗談を言わなかった瑛斗だったが、玄海町の空気がそうさせたのか、瑛斗の心が少し柔らかくなり、そんなことを言わせた。すると、風は嬉しそうに瑛斗にさらにまとわりついた。


「ここは、学校か」


 ものの5分ぐらい歩いていると、玄海町立玄海みらい学園が見えた。


「へぇ、綺麗な校舎・・・おっ、それに海に近いのか」


「こんにちわっ!!」


「おっ、あっ、こんにちわ」


 子どもたちが楽しそうに走り回っている。

 子どもたちもゴールデンウイークで学校は休みだったけれど、体育館や球場、公民館などのスペースがあり、ちょっとした、出島のように道沿いから外れているため車通りも少なく、自由に子どもたちが飛び回っている。


「もう、愛されてるじゃん」


 瑛斗にはその姿が何者にも捕らわれることなく、風を愛し、風に愛された天を舞う天女や天童のような感じた。


「よいしょっ・・・おっとっと・・・っ」


 瑛斗も真似してジャンプしてみるけれど、背中のリュックサックが重いのと、旅の疲れで少しよろめきた。


「おっ、陽気だねぇ」


「…っ」


 ふるさと発想館から出てきたおばあちゃんが瑛斗の楽しそうな姿を見て、笑顔で話しかけてきた。

 

「楽しんでください。旅の恥書き捨てと言いますから」


 瑛斗は照れて何も言い返せなかったけれど、会釈を返しておばあちゃんを見送った。

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