第4話
「ふぃーーーーっ」
瑛斗は温泉に肩まで浸り、思わず声が出る。
おばあちゃんを見送った後、瑛斗は近くにある温泉施設、玄海海上温泉パレアにやってきていた。
「極楽、極楽」
見渡す限り水平線、というわけではないけれど、露天風呂から見える景色が日本海に、世界に繋がっていると思えば、遠くまできたと感じる瑛斗。周りから聞こえてくる言葉も少し訛って聞こえる。
「よいしょっと」
お風呂を十分に堪能した瑛斗は個室休憩室の畳の上に腰を下ろす。
個室休憩室と言えば、薄暗い2畳もあるかないかのスペースにパソコンが置いてあるような閉塞感があるイメージがあった瑛斗にとっては、外の景色が見えて、開放感があるその部屋は身体だけではなく、心も休まった。
「家族用にはお風呂もついてるんだ・・・へぇー・・・っ」
フロントにあったパンフレットを見ながら、まだ見ぬ家族をイメージする。会社でのピリピリした感じではなく、心が温まるような笑顔が溢れる家庭・・・。
「おっ、うまそっ」
ページをめくっていくと、新鮮な魚料理や肉料理が並んでいた。
「よーしっ、食いに行こっと・・・っ」
そう言いながらも、語尾は弱々しく、瑛斗の瞼は重く、バスで寝ていたけれど、座った窮屈な姿勢でイライラしながらで全然身体も心も休まっていなかったので、その安心感に瑛斗の心はさらに柔らかくなっており、眠くなってしまった。
「うーん・・・悩む・・・」
瑛斗は食券の自販機と睨めっこしていた。
(寝落ちしてしまった・・・。あぁ、くそっ。寝落ちしなきゃ、昼飯と夕飯で魚と肉の両方食べれたのにぃ~)
「ぐぬぬぬぬっ」
左、右、左、右・・・左右に目が行く瑛斗。どっちも、甲乙つけがたく決めることができない。
『やらかったことをうじうじ…』
すると、蓮の言葉を思い出してしまった。
「…たろうじゃねぇかっ」
ピッ、ピッ
魚料理の紀水セットと肉料理の和牛サイコロ鉄板焼きセット両方押した。
「限界突破じゃっ!!」
後ろで待っていた人たちがようやく食券を買えるのにホッとしていた。
後ろの人たちは鼻息を荒くしている瑛斗を微笑ましく見る。大分毒気が落ちてきたと言っても、心が疲れ切っている若者が元気を取り戻そうとしているのを玄海町の人々は温かく見守った。
「んーーーっ」
瑛斗は目を閉じ、佐賀牛を味わい、悦に入る。
美味しすぎて、噛むのを止めることができず、すぐに溶け込んでいってしまう。
「今度はこっちだ」
今度は魚料理の鯛の刺身を醤油につけて、口へ運ぶ。
今度は逆にぷりっぷりの鯛がその新鮮さを主張し、歯ごたえを堪能する。
「おっと・・・」
2人前あった料理はあっという間に瑛斗の前から姿を消していた。
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