第2話
「んだよ…あいつ。言いたいことだけ言いやがって…」
瑛斗は通話画面を閉じる。
すると、楽しかった学生時代の集合写真がアプリの下に表示された。そこには瑛斗と蓮と、そして…彼女が写っていた。
「行ってやろうじゃねぇか…」
瑛斗はネット検索を再開する。もちろん検索ワードは佐賀だ。
蓮に煽られただけで行くこと決めるわけではない。瑛斗のことは瑛斗自身が一番よく知っている。佐賀だけ行かないのはきっと後悔するのは分かっていた。
「どこだ、どこだ…俺様が行くにふさわしい場所は!?」
変わりたい。
漠然とそう思って訪れた九州の地。九州に訪れただけでも進歩なのだけれど、旅が終わりそうになっても、瑛斗の心は未だに満たされていなかった。
「おっ、ゲンカイ?」
画面をスクロールしていると、ゲンカイという言葉が目に入った。瑛斗は前後の文を読むと、どうやら「玄海」と言う漢字の読み方だとわかった。
「ゲンカイ…いいじゃん」
限界を目指す俺カッケー。
蓮に話すにもネタになる。
そんなどうしようもない理由で瑛斗は玄海町のリンクページへ行き、画像を流し見した。
気が昂った彼の中では思考はすでにロックされており、よっぽどの否定的な理由がなければ行く気満々になっており、詳しい内容を全く読んだり見たりもせずに、景色が良さそうなのを確認した。
「よし、限界目指してレッツアンドゴーだ」
玄海町の漢字が玄海だと言うことなど、ほとんど関心も示さず瑛斗は電車に乗った。
瑛斗にとっては、ただの田舎の一つ。
北関東と同じような山林や田畑、千葉や神奈川の海辺と同じような景色にほんの気持ち程度に町の個性があるだけ―――
そう侮っていた。
だから、わざわざ東京からこの町へ向かうことになったのも、九州旅行でただのおまけ。なんなら、ただの思いつきのダジャレで決めた。
玄海町には棚田百選に選ばれた、浜野浦の棚田がある。
けれど、サラリーマンとして平日は働き、2日あるうちの1日は家事、1日は身体や心を休むのに充てている瑛斗のような若者が棚田のことをきれいだと感じたとしても、わざわざ遠方の玄海町を選ぶという選択肢が生まれるのは難しい。
ひとえに、ただの偶然。
瑛斗はリュックサックからノイズキャンセルのヘッドフォンをつけながら、音楽をかけて、車窓から景色を覗く。
ネタにするだけという浅い気持ちで玄海町を目指す彼の瞳は、わくわくしているわけでもなく、ぼーっと冷めた目でただただ外を眺めていた。
この時、彼はこの旅の当初の目的などを忘れていた。
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