第15話 王太子領

王太子領中央都市ハルージャ。

その市場街にグリンとイエルの姿があった。


「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい、ファイブスター饅頭にファイブスター菓子だ、旨いよ」


「ほらほら、そこの奥様、憧れのグリンさまサインいり(偽物)ハンカチ、他の英雄の分もあるよ」


「あ、そこのお嬢ちゃん、五英雄人形買わない?今回、新商品三頭身タイプ、かわいいよ、五人揃えると今なら従者シンが貰える。さらに買った人に抽選でリンちゃんが当たるよ、どう?!な、なにあんた達?は?」


「「すまん、リンの人形が見たくて」」


「なんだ、客なら並んでくれ、ご覧のとおり順番待ちなんだ。それにリンちゃんは抽選だよ、プレミアム、見たければ当てなきゃ駄目駄目、どいたどいた、はい、いらっしゃい。え、ブラック人形?これですよ、え、三頭身でも目が怖い、いや、」


「「……邪魔したな」」


グリンとイエルは市場街を通り、先にある路地にある食堂に入っていく。

かっぷくがいい店の女将が応対する。


「いらっしゃい」


「「店のお勧めでいい」」


「あいよ、あんた、日替わり二つ」


「おう、日替わり二つな」


剥げた店主が奥から顔を出して返事する。


店内はほどほどに満席だ、グリンが外を眺めていると、後ろの席で二人の中年女性の話が聞こえてきた。


◇◇◇


「…それでね、王都の従兄弟が王都の土地を売ってそのお金でここで商売用の土地を買ったんだけど、間もなく完成予定の闘技場の近くなのよ」


「良かったじゃない、人が集まるところなら商売しやすいでしょ」


「ところがそうでもないのよ、王太子殿下が運営するあの闘技場で、奴隷を闘わせるらしいの」


「ええ?!禁止されている奴隷を闘わせる?」


「なんでも奴隷は全て獣人なので❪獣人は獣扱い❫として、奴隷はいないということらしいわ」


「ええ!凄い乱暴な話しね、王さまは許可しないでしょ」


「遊興施設としか王都には伝わってないようよ」


「な、なによ、それ、始まったら獣人国の反発や奴隷反対派に襲われるじゃない!」


「それだけじゃないわ、奴隷商売に関わったって狙われ兼ねないわよ、王太子殿下は何を考えているの?!」


「しっ、声が大きいわよ」


◇◇◇


「ルケル兄さんは何を考えているんだ?!イエル、真偽を確認しよう」


「はい、グリン兄上!」


「はい、日替り二つ、お待ち」


「「……………………」」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ガーウガウ、カウカーウ?」


「山田、僕は大丈夫。必ずメディちゃんは助けるから、ん、だから森の家で待っていて。そう、僕には星のつるぎがついてるから」


あれから僕が山田と盗賊達を追いかけようと出て行こうとしたら、ギルマスに止められた。


隣国の事情も違うし、従魔獣もテイマーも魔法使い並みに少ないらしく、かなり目立つことになるからだ。


相手が 人間盗賊相手になるだけに慎重にいきたい。


僕の地理の疎さも問題だった。


だから僕の護衛兼道案内として男爵がギルドに正式に依頼し、お互いに見知っている星のつるぎに依頼し、了承された。


最後までカリスさんには反対された。

でも、僕の決心は揺るがない。


二人の悲しみと苦しんでいるメディちゃんの為、仮面マンは頑張るのだ。


だから、山田よ、今、暫しの別れだ。

我慢してくれ、山田!僕も辛い、辛いよ。


山田と森の入口で別れ、今、ランス王国に向かう。


「アオーン、アオーン、アオーン」


山田が鳴く、山田、ごめん、メディちゃんを助けたら必ず迎えにいくから。


僕が堪えていたら、カル君が無言で抱き留めた。


「カル君、なんかごめん。ぐす、今だけ、う、胸かし、てね」


「堪えないで、悲しい時は思いっきり泣いたらいい」


ああ、なんて男前なんだ、まだ、子供な君に頼る大人を許してほしい。


ぐすっ



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「すると、ここに聖女さまがいて?あなたの娘を助けに向かったと」


「はい、何度も助けていただきました。娘は心配ですが、あの方も心配です。」


ベクターは、男爵夫妻から娘が誘拐された経緯を聞いていた。

その過程で、聖女の話しが出るとは思わなかったが。

取り敢えず、皇太子に報告に向かう。


「聖女?特長は?」


「木の仮面を被っているそうです」


「分かりやすいな、だが何故、仮面を被っている?」


ここはヤナ町冒険者ギルド、その待ち合い所にロープを被ったブラックがいた。


マリン達は直接、ランス王国に向かっていた。


「分かりません、ただ、テイマーの力がありジャイアントベアーを従わせていたようです」


「回復魔法が使えてテイマー、そんなお伽話しな人物、会ってみたかったな」


「はい、私も是非。」


「他、情報はないか?盗賊達のランス王国への逃亡ルートは?」


「はぁ、その辺りは今一つで」


「私が教えてあげれるわ」


「「!?」」



そこには大きな眼鏡を片手で支えながら、二人を見つめるギルドの受付嬢の姿があった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ここは魔の森に隣接するとある林、二人の小さな人影が必死に走っていた。


「タン、早く!奴らに捕まっちゃう」


「ミン、待って!あ、足が痛い、ちょっと休ませて」


「駄目よ!ここは隠れられない、もう少し頑張って」


どうやら二人は姉弟のようだ。

しかも、頭から狼の耳とお尻に狼のしっぽ。

獣人である。


「おい、いたぞ!こっちだ!」


「「?!」」


「手こずらせやがって、捕まえろ!」


後ろから数人の男たちが追ってきていた。


「タン、早く立って!捕まっちゃう!」


タンは首を振った。


「ごめんミン、ぼくは、動けない、一人で逃げて」


「あなたを置いて行けるわけないじゃない!」


タンを支える為ミンが伸ばした手を、追いかけてきた男が掴んだ。


「!はなして」


「へへっ捕まえたぜぇ」


「止めろ、ミンを離せ!」


「うるせぇ、おらぁ!」


ドカッ、ごろごろっ


「グッ!」


男の足蹴りでタンが蹴り飛ばされる。


「いやぁ、タン!止めて!」


「やっと捕まえたか、随分、手間取らせてくれたなぁ」


後から追いついてきた男が、倒れているタンの身体を踏みつける。


「っ!」


「こいつは怪我してる、つかえねぇ、もう奴隷は一人でいいな」


追いついてきた男達は全部で三人、内、二人がタンの周りを取り囲んだ。


「な、何をするつもりなの?タンに酷いことをしないで!」


「嬢ちゃん、怪我や病気で動けない奴隷はどうなるか知ってるかい」


「知らない、知りたくない」


「やれ!」


ドカッ、ガスッ、ゲスッ


男達は小さなタンを左右から蹴りだした。


「!!っ……………………………………」


「いやーっ?!、止めて、止めて、タンが死んじゃう、やめてーっ!、うわーん」




「桶魔法!」


ガンッ、ゴンッ、ガンッ

男A「ぐわっ?!」、男B「げぇっ?」、男C「はがっ!」


カル「リム、気絶した男達を縛りあげるんだ!」


リム「わかった!」


カル「メイサ、その蹴られてた子をお願い!」


メイサ「ええ、わかったわ!」


僕は、あまりの惨状に怒りが止まらない。


僕らは魔の森の外縁部の林を、ランス王国に向けて進んできた。


あと少しでランス王国に入るところで子どもの悲鳴が聞こえたから、急ぎ来てみたら大の大人が小さな子どもに二人がかりで、リンチを加えているところだった。


カル「仮面ちゃんはその子についてあげて。ぼくは周りを警戒してるから」


「うん、わかった」


カル君は若いのによく気がきくし、リーダー肌でホント、頼りがいがある。


「君、もう大丈夫だよ、怖い大人はみんな捕まえちゃったから」


え?!この子ってもしかして、けも耳??え、獣人?!っているんだ、ふぇーっ


あ、震えてる、!仮面のせいかな、不味い、怖がらせたかな。

ちょっとだけ、仮面をずらして、カチヤッ


ミン「?!あ、あなたは?」


「ごめんね、僕、こんな変な顔だから、あ、仮面つけるね」カチッ


ミン「???」


メイサ「大変よ!この子、息してない!!」


ミン「タン!」


ダッ、獣人の女の子が獣人の男の子のところに駆け寄る。

僕も一緒に駆け寄った。
































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