第10話 聖女

女神イリス、創世神話にて創造神オリポスとともに世界を造った産んだとされるニ神のひとり。


この世界においてこの二神は全ての国家、民族にとってすべからく信仰の対象であり、主神の対象は変わることがあれど、それは変わらない。


そのなかにあって女神イリスを主神とする国家、民族にとってはエンペリア大陸中央にそびえる三千メル級の山々が連なるエトナ山脈、そのふもとにある女神神殿は唯一の聖地である。


そして神殿には定期的に癒しの魔法の素質を持つ者を召喚し❪聖女❫として認定、信仰の対象とした。


ただ、現在、前任の聖女が三年前に急死後、癒しの素質のある聖女候補は見つかっておらず、その職は空位になっている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ここが女神神殿!」


マリンは、あまりに荘厳な神殿に思わず絶句した。

純白の五重の塔、それは現存する建築物のなかで最も美しい建物ではないだろうか。


「これはこれは、ファイブスターの英雄であり、我が女神イリス様のもっとも敬虔な国であるエンポリア公国のピンクマリン第一王女殿下、よくお出でくださいました。わたくしは、神殿長のリーテリアと申します」


百八十セムcm長身でスレンダー、髪は銀髪で腰までありゆったりとした神官服、白い肌、まるで女神のような美しさの女性、ただ、目は終始開かない。


マリンは会釈をし、顔を上げた。


「あの、目を?」


「お気になさらず、見えている方より見えることもあります」


スッ、何もない空間を指し示す。


「!」


ふぅっ、マリンは観念したように目を瞑った。


「マデリン」


「はい」


スーッ、リーテリアが指し示した空間に突然、短髪、茶髪、細目な女性が現れる。


「神殿長、申し訳ありません。この者は私の護衛の従者でありますが、影の技術をもっており私を守る為に姿を隠しておりました」


「分かっております、王族、まして五英雄の一人、何かとあると理解します。聖女の事ですね?」


「!はい、前任の聖女の事で伺いたい事がありまして」


「では、私の自室へ」


リーテリアが立ち上がり、マリンが後に続こうとした時、マデリンが口を開いた。


「魔道レターが届いております。差出人はランス王国シン様です」


「え?シンから?!」


振り向きぱぁっと笑顔を作ったマリン、案内されていることを忘れて手紙をあわてて開ける。


「!!」


「どうされました?」


リーテリアが聞いているが、マリンは食い入るように手紙を読んでいて、反応がない。

マデリンが、心配そうに覗きこむ。


「姫さま?」




「リンちゃんが生きている?!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ここは、とある宮殿内。


「フェッフェッフェッフェッ、まさか影に監視されているとは思うまい」


「こちらが、ブラック皇太子宛ての魔道レターです、渡る前に手に入れました」


「フェッフェッフェッフェッ、成る程、成る程のぉ、あのクォーターエルフめ、最後によい仕事をしたようじゃの」


しわしわの手が手紙を握り潰した。


「あの娘は最初から最後まで我のものよ、この国もなぁ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あれ?」


一瞬、背筋に寒気を感じたよ、ええっと、まさか風邪なのかな?んーっ、このハ年、病気した事なかったけど。


「あの、仮面様、ここは私しかおりません。その、仮面様は皇族の方なのでしょうか?」


応接室に通され、扉の内鍵をしたカリスさんが僕に聞いてくる。


皇族?皇居?宮内庁?はれ?なんでカリスさん、日本の皇族の事を知っているのかな?でも僕を皇族ってあれかな?観光で行った時に皇居前で自撮りしてSNSにUPした事があったけど、門から出てきた様に見えたかな。


「あの、カリスさん、なんで僕を皇族と?」


「あ、いえ、その、たぶん主人もですけど、仮面様を見た町の者は、皇族と見ていたようです、その黒髪が皇族の特徴ですから」


?????黒髪で皇族なら日本人は全員が皇族になっちゃうけど?


「ええっと、カリスさんはいつ日本に行ったんですか?」


「ニ、ニホン?それはなんですか?」


「えっ?」


「え?」


あれれ?日本を知らないみたいだ。


「あの、この国、ギガール帝国の皇族だけが黒髪に生まれる事があるんです」


「え、そうなんですか?」


「はい、ですから黒髪は皇族の証なんです」


はい、またヤバそうな話しがでてきたよ、なにその案件?!師匠!イエローカード、いや、レッドで退場、さようならじゃん!ちょっと!そこの奥さん、聞いてよ、は?じゃ、僕は知らずに五英雄の皆と過ごしてたって事?そういえばブラックは黒髪だったな、名前がブラックだから黒髪かなってなに、その安直って思った事もあったけど。


そういえば、あいつ皇太子じゃん!初めて会った時から気づかれてたんじゃん!


「あ、あのちなみに今の皇族で黒髪な人は何人くらいいらっしゃるのですか?」


「いまは五英雄の一人、ブラック皇太子殿下だけですね」


はい、アウトぉっうう、きっと今後ろを振り向くと僕のスタントが見えるよ、駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄って。


「それに、貴女さまは聖女様ですよね」


「は、はい?僕がですか?僕は男ですよね?」


「あの、癒しの魔法は女性しか発現しないんです。まして貴女は奇跡の様な力で私達を助けてくれました。聖女様以外にあの力を使える人間はおりません」


「……………」


これはあれかな?辛子明太子にマスタードとわさび漬けをかけて、タバスコ追加する?って言われて、いまさら味変わるかなってそんな心境かなって、食えるかそんなモン、死ぬわ!


コンコン


「はい、なにかしら」


「奥様、ハウエルですだ。仮面様に面会を求めて来られた方が」


「如何します?」


「只今、留守にしております。ピーッと」


「聞こえたわね、帰ってもらって」


「それが、来られたのは冒険者ギルドのギルドマスターの方で、なんでも魔獣の事で相談があると」


「山田の?」


中庭からメディちゃんの歓声が聞こえる。


バルコニーから見ると顎を地面につけ、お尻を突き上げたスベリ台な山田の上をメディちゃんが楽しそうに滑ってた。


僕は誓う。

山田の背中のチャックを必ず見つけてやると。

中身はきっとキモデブオタクだろうと。


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