第9話 メディちゃんと山田(ガウガウ)

ヤナ町警護兵士が遠巻きに見守る中、山田と馬車がゆっくりと町の中に入った。


ふう、山田が災害級魔獣である事を忘れていて、兵士さん達に取り囲まれた時はどうなることかと思ったけど、ハウエルさんやメディちゃんのお母さん、カリスさんが懇切丁寧に説明してくれて誤解を解消してくれた。


もちろん、山田にも一役買ってもらったよ。


何をさせたって?僕がテイマー、魔物使いと証明する為にいろんな体制をとってもらったんだ。


裏返しの服従のポーズとか、お座りとか、ロダンのポーズとか。


そしたらメディちゃんが目を輝かせて山田に乗りたがっちゃって、宥めるのが大変だった。


乗せても良かったんだけど六歳児だし、カリスさんが心配そうに見ていたから、やっぱり親からは心配だもんね。


ああ邪魔な荷物の盗賊は、引き取って貰いました。


それと知らなかったんだけど、この世界って魔法使いがすっごく少ないらしい。師匠、教えてくれなかったよ。それで回復魔法なんて伝説級だった。


あの時、一か八かだったけど僕の魔法はカリスさんや足を引きずっていたハウエルさん、倒れていた兵士の人の傷を完全に治すことができたんだ。


それで、神様みたいに崇められて大変だった。


正直、気を失いかけたけど山田が戻ってきて騒ぎになりそうだったから根性で起きていたけど、山田が戻って説明ができたら山田の背中で爆睡しちゃった。


とにかくヤバそうなので、皆さんに魔法の事は内緒にしてもらいました。


「ハウエルさん、ここまでありがとうございました。ここで別れさせていただきます」


「仮面様、どうかご領主さまにお会いくだされ。恩人をお連れ出来ないとなれば、私や奥様が領主さまに叱られてしまいますだ」


ハウエルさん、狭い御者席で土下座しちゃったよ、器用だ。弱ったな、買い物したら直ぐ帰りたいんだけど。


僕はチラっと先に見える市場を確認して悩んでいると、メディちゃんがカリスさんの制止を振り切って馬車から降りて来た?!


「メディ!」


「仮面マンさま、いっしょにきて、いかないで、だいすきなの」


う、涙目で見上げてお願いする金髪美幼女、凄い破壊力だ。仕方ないかな、それに大好きって言われたら。


「ガウウ??!」


あれ?メディちゃん、山田の前足にかじりついちゃったよ?


「ヤマダがだいすき、ヤマダだけおいていって」


………ものすごーく複雑だが、ハウエルさん土下座しっぱなしだし、やむお得ないかな。


「分かりました、いっしょに行きましょう」


「ありがとうございますだ、ありがとうございますだ」


いやハウエルさん、分かったからもう土下座止めてほしい。

その後ろで、カリスさんがお辞儀をした。


「無理をいってすみません」


「やった、ヤマダ、ずっといっしょだよ」


「ガウ!」


メディちゃん、山田の首に抱きついた。

山田がメチヤ喜んでいるのが分かる、お前、ロリコンだな。



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「ブラック、たった今戻りました」


ギガール帝国、それはエンペリア大陸最大国にして最強の軍事大国である。


その国を統治する皇帝が住まうここガリガン城、その広大な謁見の間には数百人の衛兵が左右に配され、中央赤の絨毯にブラックが膝をつき騎士の礼をする。


六段ほどの上段に鎮座するは、齢よわい八十八、しかしながら鋭い眼光、長い白髪、口髭も胸下までさがる、壮麗な佇まいな老人。

皇帝フィリップ▪フォン▪ギガール、その人である。


皇帝はゆっくりと右手を上げ、左側に立つ赤茶髪チョビ髭の帝国宰相、ゲールに合図した。

ゲールは会釈し書面を読み上げる。


「オリポス神殿の神託に従い、集いし五英雄として見事その役目を全うした事、まことに大義である。今後も皇太子として、英雄として、日々精進し我がギガールのため、尽くすべし。第百六十七代皇帝フィリップ▪フォン▪ギガール」


「は、謹んで承ります」


聖歌がながれ、式典は粛々と執り行なわれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ブラック執務室


「はーっ、さすがにこういった事は肩が凝る」


ブラックは、大きなソファーに深く腰をおろした。


「ご活躍、聞き及んでおります。帝都での殿下の人気はとどまるところが知れません」


側近のベクターが、茶器を出しながら言った。


「は、俺はなにもしていない」


ブラックは、ソファーに倒れ込んで伸びをする。


「あまり謙遜し過ぎると、嫌みになりますよ」


「フン、事実を事実といったことの何が悪い」


天井を見ながら小声でささやく。



「例の件は?」


「は!十三年前に取り潰しになったオルブライト公爵家には当時、一歳の娘がいたそうです」


「やはりか、それで?」


「当主の公爵夫婦は自害、その際、屋敷に火を放ったそうで、その後、長男夫婦、娘は行方不明です。」


「取り潰しの罪状は?」


「反逆罪でしたが、公爵には動機もそういった動きもなかったことから、冤罪だったとの見方が濃厚です」


「仕掛けたのは?」


「宰相派だったのではないか、との情報です」


「老人の仕業か、妖怪め!」パンッ


ブラックは、起き上がってソファを叩いた。


「宰相と言えば、最近やたらに隣国に送金しておりますね」


「ランス王国、王都か?」


「いえ、王太子領です」



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「あいわかった!レッドの件はお前達に任せる、頼むぞ。」


「「はい!」」


ランス王国王城、謁見の間、エバンス▪フォン▪ランス王はため息をついた。


「あやつにも困ったものよ、いまだ王族としての自覚がたらぬの。実直で信義に厚いだけではまだまだよ」


かっぷくがよく、品のいい髭を蓄えたイケオジである。


グリンが王を、見据えて話す。


「それでぼくらもレッド兄さんを探しにいくつもりなんだけど、城を離れる許可をお願いいたします」


「お願いいたします、彼女を探したい」


イエルは、懇願した。


「止めても無駄のようだの、だが、当てがあるわけではあるまい?」


グリンが言う。


「前に彼女と出逢った土地や場所くらいかな、レッド兄さんが立ち寄るとしたら」


「ならば、見てきてもらいたいところがある。王太子領に行ってもらいたい」


王は二人を見つめて言った。


「「!」」


「ルケルの悪い噂はワシのところにも届いておる、あれがなにを領地でしようとしているのか、お前達で見てきてほしいのだ」



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ケプラ男爵邸 玄関


「私がこのレブン領、領主のケプラです。この度は我が妻と娘を助けていただき、感謝にたえません。私に出来る事なら何でもさせていただきます、本当にありがとう」


「あ、いや、あの、僕は人として当たり前の事を」


「ありがとう、ありがとう、君のおかげです。感謝しても感謝しきれない、本当に、本当に」


「あ、ははは、はぁ」


うう、握手した手をぶんぶん振られて離してくれないよ、細身だがしっかりした細マッチョなイケメンミドルだ。

メディちゃん、パパ似だな。


「とにかく中に、あと、ええっと」


男爵が邸内に案内しようとして、山田の大きさに躊躇していると、メディちゃんが飛び出した。


「ヤマダよ、パパ、ヤマダはメディがあんないするの」


ガシッ、と山田の前足にかじりつくメディちゃん。


「ガウ!」


山田、お前、本当に嬉しそうにして、このロリコン野郎!


「ガウ~?」


「なんでもないよ」


「ヤマダ、こっちよ、はやくきて」


「ガ~ウ♫」


「………………」


メディちゃんが山田の毛を引っ張りながら、庭の方へ連れていく。

幻覚か?山田がスキップをしてる??


「仮面様、どうぞこちらです。あなた、後は私が」


「そ、そうか?では、仮面様、いつまでもゆっくり滞在なさってください。私はこれで」


「はい、あ、あの」


「仮面様、さ、どうぞこちらに」


男爵が下がり、カリスさんに部屋に案内されながら横目に山田の方を見ると、お尻をふりふりさせながら、メディちゃんの後をついて行く山田がそこにいた。

僕は思った。


山田、今後、お前との関係を見直す必要があるなと。




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