第6/8話 日常に潜む非日常
工藤刑事はすぐさま水道局に出向き、石破俊博の入居してからの水道使用量を確認し、俊博の出勤後に現在の使用量を玄関わきのメーターから調べ上げた。数値は予想通り、事件発覚後、異常なほど数倍に膨れ上がっていた。その結果を鑑識の服部に連絡した。
「的中したよ」
「そうか」
「石破俊博の指紋採取を頼んだぞ」
「分かった」
事件から1ヶ月後に再び警察は、石破俊博の指紋を採取した。その際には、皮膚は再生しており、被害者女性の部屋で発見された指紋と一致した。捜査本部は、事件解決への安堵と被害者の消息の不安に包まれた。それを現実のものにしたのは工藤刑事だった。
「よろしいですか」
「何だ、工藤君」
「実行犯は石破俊博に間違いないと思われます。被害者である双葉弥生さんの行方がわからないままほぼ一ヶ月。生存の可能性があるとすれば長期の監禁で衰弱が激しいと思われます。私は石破をマークしていましたが取り立て多くの食料品や女性ならではの製品を買った形跡を確認できませんでした。考えたくはありませんが弥生さんは既にお亡くなりになっている可能性が高いと考えています」
工藤刑事の発言は捜査員が思っていても口に出しにくい言葉だった。
「弥生さんがマンションを出た気配がない以上、あのマンションにいると考えたいがある可能性を疑い調べた結果、その可能性も低いかと」
「可能性…とは」
「弥生さんは石破の部屋に連れ込まれた時点では生きていたがその後、絶命。処理に困った石破は、弥生さんをバラバラにして遺棄したものと考えています」
「また、勝手に…。まぁ、いい、確証があるのか」
「大きな荷物の持ち出しも確認されていない以上、自宅で処理したと思われます」
「どのように」
「切り刻んでトイレに流した。流せない分は、鞄に入れ運び、どこかに遺棄した。行動を把握する限りでは、通勤途中か勤務地付近のゴミ箱かと推察されます」
「…。よし、石破俊博を双葉弥生さん宅・住居侵入の疑いで引っ張る。鑑識さんは、石破の住居の各所及びトイレと下水管の捜索に重点を置いて行ってください」
「では、令状が出次第、石破俊博逮捕に向かってください。それまで、逃走されることなく気づかれないように監視するように」
「はい」
令状が捜査員のもとに届いた頃に合わせるように、石破俊博はいつもと変わらず出勤時間を迎えマンションエントランスから出てきた。
「石破俊博だな、7時31分、双葉弥生さん宅の住居侵入容疑で逮捕する」
「何の間違いです、証拠はあるんですか、双葉弥生さんって誰ですか」
「事情は、署で聞く」
捜査員は、パトカーへと乗り込ませ、石破俊博に手錠を掛けた。事件から一ヶ月が過ぎ進展の乏しい中、マスコミの張り込みもほんの一部だった。パトカーの中で石破俊博は太々しく、証拠は?動機は?と嘲笑っていた。捜査員は、一言も語らず署に向かった。その間、鑑識による捜査が入念に行われていた。
石破俊博の逮捕後、鑑識が下水管などを調べた結果、わずかに残った遺体肉片と被害者女性のDNAが一致した。また、石破俊博の部屋の一室や浴槽から採取された血痕と被害者女性のDNAが一致した。その他、被害者女性が所有していた財布や免許証などの切断された一部を発見した。
「何か見つかりましたか」
「ああ、お前を捕まえる為の十分な証拠が見つかったよ」
「へぇ~、そうなんだ」
「改めて、殺人死体遺棄事件としてお前を再逮捕してやるよ」
「こんな時、弁護士を呼んでくれ~って叫ぶんですか、初めてだからわからないや、ねぇ、刑事さん」
何かを吹っ切ったような俊博の態度は太々しく、取り調べの暗雲を予期せざるを得なかった。
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