第15話 おじさん、担任の先生が誰か知る
体育館では中等部一年生が全員体育座りで待っていて、先生はようやく帰ってきた私に一年A組の列に座るように、と伝えた。
「今朝と変わらないじゃないですかダントさん」
「これから発表されるんだモルよ」
「あ、はい」
論破されて静かに座ると、隣に金髪の代表生が座っていた。
「こんにちは?」
「……っ、えっち」
なんで……?
「えー、これより組分けを開始します」
私が困惑している間に、先生が組分けの発表を始めた。
理由はエモ力にばらつきがあり、成長速度に差があるから――と素晴らしい演説だったが、実際は先生の好みの生徒を集めるための組分けだと私は知っている。
「はぁぅ、うちの生徒かわいっ……」
何故なら。
先生たちの。
目が興奮しているからだ。
「ダントさん」
「なにモル?」
「先生はどうして女の子が好きなんですか?」
「僕に聞かれても……」
理由はダント氏にも分からないらしい。
でも、さっき中央校舎で知った歴史のことを考えると、きっととても深い事情があるんだろう、と疑惑を振り切って納得させた。
「463番、夜見ライナ! 校長先生から話したい事があるそうだ!」
「はい!?」
すると唐突に名前を呼ばれる。
計測係をしていた妙齢の先生が手招きしていた。
「なんですか?」
「これから校長室に行く。ついてきなさい」
「は、はい!」
私は先生と一緒に別行動することになった。
体育館から高等部の校長室に向かう。
「どうして私だけ呼ばれたんですか?」
「魔力テストで5000なんてとんでもない数値を叩き出したんだ。校長が驚いて呼んだんだよ」
「そ、そんなに凄いんですか?」
「当たり前だ。厳しい実戦をくぐり抜けた高等部の二年と同レベルの数値だぞ。それも魔王の次に匹敵するほどだ」
「誰ですかそれ……」
「なんだ、案内して貰ったのに聞いてないのか?」
「えっと、そういうのは全然教えてもらえませんでした……」
「名前も聞いてないのか? あの子の。ずっと学校案内してくれただろう?」
「え? ……えええ!? あの人、魔王って呼ばれてるんですか!?」
「ホントに何も聞いてないんだな……ま、詳しい話は後だ。先に校長先生に挨拶してきなさい」
「は、はい」
私は先生に見送られながら校長室に入った。
奥には白髪の女性校長が待ち構えていて、私を見るなり笑顔になった。
「えっ……これもう主役じゃろ……尊い……」
「……えっ」
反応に困る。どう返せば良いんだ。
「こ、校長先生」
「声も完璧とか……死ぬ……」
「あの……」
「すー……ふぅ……落ち着け……」
「あの、校長……」
「ごめんよ、いきなり呼び出して。先にどうしても顔を知っておきたかったからね」
「あっ、はい」
校長先生はいきなり元に戻って話し始めた。
「改めて確認するけど、夜見、ライナちゃんだよね? 君はたしか」
「はいそうです」
「実はね、君の担任は私たち先生じゃないんだ」
「え? では誰なんでしょうか?」
「
「あの人が私の先生に!?」
驚きすぎて大声を出してしまう。
校長先生は満足そうに笑ったあと、こう教えてくれた。
「ただ、彼女の元に行くには案内人に出会う必要がある」
「案内人?」
「生徒会長さ。彼女に認められないことには、会うことは許されない」
「えええー……どうして……」
「生徒会長は生徒会室で待っているよ。詳しいことは彼女たちに聞くといい」
「は、はぁ……」
「ああ、君のクラスは一年Z組に決まっているから安心しておくれ。友だち作りの邪魔はさせないよ」
「おお、それなら良かったです! 行ってきます!」
「ああ。君の学院生活に幸あれ」
私は深くお辞儀をして退出し、今度は生徒会室に向かった。
生徒会室はこの校舎の三階中央にあり、道筋を教えてくれた緑腕章の先輩には感謝の念が尽きない。
コンコンコン。
『入場を許可する』
「失礼します」
生徒会室は校長室に負けないほどの豪華さで、金髪・金腕章の生徒会長と、黒髪に赤いメッシュが入った銀腕章の副会長が待っていた。
二人ともびっくりするくらいに大人びた美人さんだった。
「わ、わわ、凄い、お二人とも凄い美人さんですよダントさん……」
「夜見さんも負けてないモルよ。落ち着くモル」
「そそそ、そんなこと言われても」
私とダント氏がコソコソ話をしているのを聞いたのか違うのか、会長は硬い表情を和らげてくれた。
「その髪色……君が夜見ライナくんだね」
「はいぃ!」
「私の前の椅子に座るといい」
「失礼します!」
「そう緊張するな。取って食おうってわけじゃないんだ」
「ごめんなさいぃ!」
「はは、面白いな。君は」
「会長」
「ふむ、すまない」
会長は副会長の声で崩した顔を元に戻す。
「さて、夜見くん。校長からある程度の話は聞いていると思う。覚えているかい?」
「は、はい。なんでも、私の担任の先生が魔王って呼ばれてる凄い人だって……」
「その理由を説明しておきたい。我々の直面している問題に関わるんだ」
「ど、どういうことですか?」
「陣営間の対立問題。聞いたことはあるか?」
「はい。かなりしっかりと。魔王さんから」
「よろしい。実はね、それによって魔法少女の正義感と義務感が低下し、全体の質が下がっているんだ」
「はぁ」
「そこで我々生徒会は、新入生への対応を厳密に定めた校則を打ち出した」
「こ、校則」
「ああ。初回の魔力テストで1000エモーション以上の者は、経験が豊富な現役魔法少女を担任に付けることを義務付ける、という校則をな」
「な、なるほど。その方が強くなれるってことなんですね!?」
「……おそらく、な。魔法少女の力の源であるエモーショナルエネルギーについてはまだ分かっていない事が多い。賢人と呼ばれる先生方も全て知らないほどに」
「会長、そのくらいで」
「ああ」
副会長の一言で話は打ち切られた。
会長は椅子を回して背中を向き、さらに一枚の手紙を渡された。
「これは?」
「それは会長から赤城恵に向けての手紙だ。案内は私が受け持つ」
「分かりました」
「行くぞ夜見」
「は、はい」
私は副会長と一緒に、新しい担任になるというマスクさんの元に向かうことになる。
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