第14話 おじさん、湿布をくれた人に学校案内される
マスク女子高生さんは校庭の中央で立ち止まった。
「ここは第一校庭。部活動や運動をする場所で、基礎訓練の授業もここでする」
「基礎訓練?」
「筋トレモルよ」
「あー」
筋肉トレーニングの授業があるんだ。
「でもどうして筋トレを?」
「魔法少女やってると週刊誌や雑誌に写真を撮られるからね。魔法に頼らないプロポーション維持の方法を先に学ぶの」
「大変ですね」
「うーん、君が言うのは違う気がする」
「え?」
「むしろどうやったらその体型を維持出来るのか教えて欲しい。普段は何してる? やっぱり若いから?」
距離を詰められて、後ろから体を触られる。
腰周りやバストのアンダーに手を差し込まれて、無駄肉を探し当てるように。
「えっと、特に何も……ひぁっ」
「くぅー天性の肉体持ちなんだぁー、羨ましいなぁ」
「あはは、はぁ……」
困った声音で答えると、マスクさんはすっと離れた。
「じゃあ続きね。後ろに見えるのが四連校舎。全三階層。屋上に登るのは校則違反。左の二つは中等部用で、右の二つは高等部用。三階の連絡通路で繋がってるよ」
「どうして三階だけなんですか?」
「さぁ? 私は荷物の移動に便利だなーって思ったくらいで、どうしてか考えたことなかった。あ、中等部の職員室や家庭科室、食堂なんかは、まとめて隣の校舎にあるから忘れないでね」
「隣の校舎? どこの隣ですか?」
「これだから四連校舎の説明は嫌なんだぁー……」
マスクさんは頭をぐしぐしと掻いて、中等部は中等部校舎の隣で、高等部は高等部校舎の隣なの、と答えた。学年を基準に考えればいいらしい。
「よし。じゃあ次は部活棟の案内かな」
「どこにあるんですか?」
「この近く。でもその前に食堂の購買部でジュース買おーよ」
「はい。いいですよ」
案内してもらう前に中等部の購買部に寄った。
マスクさんのおごりでいちごミルクを買ってもらう。
「良いんですか?」
「いいのいいの。経費で落とせるし」
「経費」
一体なんの経費なんだ。
私とマスクさんはその場でジュースを飲み始める。
マスクさんの口元が見えないのが悔しい。
「あ、ダントさんも飲みます?」
「飲みたいモル」
ジュースの残りはダント氏にあげた。
意外としっかり持てるようだ。
「じゃ、部活棟にしゅっぱーつ」
「はーい」
マスクさんと一緒に部活棟に移動する。
言われていたとおりに第一校庭近くの倉庫の裏手に立っていた。
「ここが部活棟だよ。第二、第三校庭はこの先にある」
「どんな部活があるんですか?」
「娯楽系が多いかなー。ゲームとか。運動系は校庭で勝手に集まってやってる感じ」
「どうしてですか?」
「分かんないけど、魔法少女より面白い部活って無くない?」
「うーん、まだ活動したことがないので……」
「じゃあやってみたら分かるよ。学期末の魔法少女試験とかめっちゃおもろいから」
「魔法少女試験?」
「簡単に言うとゲームだね。ま、詳しくは先生に聞くといいよ」
「はい」
どんな試験なんだろうか。
「じゃ、最後の場所に移動しよっか」
「はい」
マスクさんはルンルンとスキップで、私も少しだけ駆け足で移動する。
最後に訪れたのは、正門近くで見えていた白亜の校舎だった。
「最後はここ。正門前の中央校舎!」
「中央校舎?」
「そう! 中央だから中央校舎!」
「普通の校舎と何が違うんです?」
「ここには歴代の魔法少女の衣装や武器、功績が飾られてるの。実質博物館だね」
「特別な場所なんですね」
「うん。学院生、先生、支援者の人たち、みんなにとっても特別な場所なんだ。だから正門前にあるの」
「いいですね……」
「うん」
私は感慨深く、マスクさんはキラキラと静かに見つめていた。
「あ、そうそう。魔法少女ランキングがあるのもココだよ」
「魔法少女ランキング?」
「君が巻き込まれた派閥争いに関係あるんだ。せっかくだから見に行こうか」
「ああ、はい」
ようやく派閥争いが起こっている理由が知れるようだ。
私は警戒しながらも後に続いて中央校舎に入った。
中央校舎の一階は展示室になっていて、私も知らない大先輩たちの衣装や武器が飾られていた。マスクさんが語る魔法少女ランキングとは、展示室前の電光掲示板のことらしい。
「これですか?」
「これがランキング表。名前ごとに色分けされてるの分かる?」
「はい。でも、誰がこんなものを?」
「物好きな支援者さんだよ。魔法少女になった子は全員ここに表示される」
「えっと、ここには百人しか」
「明日になったらマジタブが支給されるよ。今はそれのランキングアプリが主流なんだ」
「マジタブ」
「いわゆる学校支給のスマホのこと。そしてこの動かない掲示板は、今まで何度も世界を救ったとされる先輩たちへの追悼碑であり、記念碑」
「みんな、お亡くなりに」
「うん。この学校が出来る前から平和を願い、魔法少女として戦い続けていたんだ。誰にも言われてないのに、凄いよね」
「ですね」
とてもしんみりとした空気になる。
「で、話は戻るけど――」
「話題の温度差がすごいですね」
「あはは。でも、この学校は彼女たちという礎があったから、という前提は覚えておいてね。負けられない理由になるから」
「はい。忘れません」
「よろしい」
頭を撫でてもらった。とても温かい手だった。
「で、色分けの話ね? 魔法少女の派閥は先人の意思を継いた五色と、新参の一色っていう六つに別れてて、一番人気の紺、それに敵対している緑、中立の赤、生徒会の金・銀色、そして私の陣営である紫があるの」
「各陣営の特色は何ですか?」
「んー、紺は人気だから数が多いね。集団戦術を得意としてる。弱点は秀でた強さを持つ子がいない」
「だから私を狙ったんですか」
「そうそう。で、敵対してる緑陣営は後方支援や索敵が得意な子が多くて、紺の統制を取ってたんだけど、現場での判断ミスで反発されてからずっと敵対中。だから新入りの君の味方をしてくれる。シャッターを開けられたのも緑のおかげ」
「なるほど……恩をうられたんですね」
「気にするほどでもない恩だけどね。で、中立の赤はヒロイックな精神の子が多いからこの派閥争いには興味無し。まぁ、君を助けようと生徒会にはたらきかけてくれたみたい」
「赤は味方でいい人の陣営、ということですか?」
「私から見ればまだまだかな。もう少し賢い子がリーダーになれば、紺と緑陣営をまとめることが出来て良いチームワークを発揮するようになるね。君、ためしに赤陣営になってみたら?」
「え、嫌です……」
「ガチ拒否じゃん。あははは」
マスクさんは面白そうに笑った。
私は慌てて言い繕う。
「だ、だって、人間関係が大変そうなので、つい。絶対に嫌われる役ですし……」
「うん、だから紫陣営が生まれた。魔法少女同士でにらみ合い、互いの足を引っ張りあう状況に疲れた子が、ソロで活動するための陣営なんだ」
「……えっ、先輩も、大変だったんですか?」
「私の過去は語らないよ。教えて欲しい時は……」
ちゅっ。ちゅっ。
マスクさんはチークキスでどうすればいいか示した。
この女学院こわい。
「最後は金銀の生徒会陣営について。生徒会はねー、全生徒の、全魔法少女の模範だからね。ほんとに凄いよ。隙がないし負けないし、学院最強! ……って感じ」
「何となくそんな気がしてました」
「でしょ? あはは。語る余地なし、ただ凄いと噛み締めろっ」
そう言って掲示板に視線を向けられた。
「それは誰の言葉なんですか?」
「この掲示板を作り上げた人の名言。その人、私のファンなんだ」
「なんだか、先輩のその一言で『魔法少女』という言葉の重みが分かった気がします」
「でしょ? 私の魔法少女語りは長いぞー?」
「うわあ。わわ」
私はマスクさんに頭をぐしぐしされて、頬をむにむにと遊ばれた。
学校外にもいくつかの施設があるらしいが、それは私の役目じゃないから、とマスクさんは私を体育館まで送り届けて去っていった。
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