子分、お前、女だったのか……!!

 俺のもとに子分が他のワイバーンを連れてきた。

 どうやら子分より格上らしいその二頭のワイバーンは、俺を様々な角度から見やり、何か言いたげに「ギャーギャー」と鳴いてくる。

 悪いが、ワイバーンの言うことは分からない。

 察しろ、ということなら頑張るのも吝かではないが、ちょっと今回は意味が分からないんだよね。

 

 二頭はしばらく俺のことを嗅ぎ回るようにしていたが、満足したのか「キュー!」と鳴いて飛び去っていった。

 子分を残して。

 

 ……一体、なんだったんだろう。

 

 子分はモジモジしながら、お尻をこっちに向けて尻尾を振り始めた。

 しばらくして、それが求愛行動なのだと、俺は気づいてしまった。

 子分、お前、女だったのか……!!

 

 股間が熱くなる。

 どうやら求愛行動につられて俺の本能が反応してしまったらしい。

 お尻を突き出す子分に、俺は後ずさることしかできない。

 

 ここで本能に任せて子分と交尾するのは、人間の意識を持つ俺としてはちょっとどころか、大変なショックを受けること間違いなしだ。

 獣姦趣味はない。

 ここは一戦を超えてはならない場面だろう。

 

 俺は熱くなる股間を無視して、子分から逃げるように飛び去った。

 否、逃げたのだ。

 

 そうか、いま思えば、子分が連れてきた格上の二頭は、彼女の両親だったのかもしれない。

 両親の許可が出たから、彼女は俺に嫁入りしに来たのだろう。

 

 いやいや、そんなワイバーン事情を察したところで、悪いけどワイバーンはノーカンなんだ。

 すまない、子分。

 俺に色々な食べ物を差し入れしてきたのも、プレゼントだったんだな。

 気づいてやれなくてすまない。

 

 ともあれ、全力で逃げた。

 

 * * *

 

 数日ほど全力で飛んで、巨大な森を発見した。

 魔物が豊富で、食べ物には困らなさそうな場所である。

 綺麗で大きな川にはワニが生息しているので、水浴びついでに食事もできる。

 サービスがいい。

 

 森の中心に住居を構えることにする。

 平地は落ち着かないので、巨木の枝の上に巣を作った。

 巣といっても、枝を組み合わせて寝床を作っただけだが。

 

 他のワイバーンがいないのも高ポイントだ。

 子分のような事件に遭遇しないで済むなら、それに越したことはない。

 

 だがしばらくして、ワイバーンがいない理由に気づいた。

 この森には主がいて、そいつが強い魔物を追い払っていたのだ。

 

 獅子の身体に、ドラゴンと山羊と獅子のみっつの頭部をもち、蝙蝠のような被膜の翼をもち、蛇の尻尾をもつ魔物といえば?

 キマイラだ。

 前世のRPGに出てきたから知っているぞ。

 

 キマイラは俺のことも追い払おうとしてきた。

 どうやらコイツを倒さなければ、森には住めないらしい。

 よし、ここは俺が二代目森の主を襲名してやろうじゃないか。

 

 自慢じゃないが、喧嘩には自信がある。

 もちろん前世の話ではなく、ワイバーンの身体でのことだ。

 

 森の中心部。

 俺の寝床にしている巨木の根本で、俺たちは対峙していた。

 せっかくの寝床を壊されるのが嫌なので、少し場所を移動しよう。

 

 俺は風の精霊に呼びかけて飛び立つ。

 キマイラも同様に風の精霊を翼に宿して、追ってきた。

 

 少し飛んだところで、俺は反転して急襲した。

 足の爪で翼を狙ったが、回避される。

 なかなか機敏じゃねえか!

 

 キマイラのドラゴンの頭が火を吹いてきた。

 俺は炎の精霊にそれを防ぐようにお願いして、こちらも息を大きく吸う。

 

 山羊の頭が何か魔法を放ってきたが、光と闇の精霊が打ち消してくれた。

 

 準備完了。

 キマイラが焦れて突撃してきたので、外すことはないだろう。

 炎の精霊に威力の増幅を頼み、俺は炎の息吹を吐いた。

 

 ゴウ!!!!

 

 巨大な火炎がキマイラを飲み込む。

 どうだ、精霊とのコラボレーション。

 

 ボロボロになったキマイラは地上に落下する。

 どうやら翼を痛めたらしい。

 俺は急降下して、キマイラにトドメの足の爪攻撃を課した。

 

 そしてかぶりつく。

 こんがり焼けた肉の味。

 強い魔物の方が美味だと感じるのは、俺がワイバーンという魔物だからだろうか。

 ともかくコイツを喰らって、俺が森の主であると周囲に喧伝しなければならない。

 

 バリバリ。

 モシャモシャ。

 

 お、魔石発見。

 みっつの首の根本にあった魔石を食らう。

 カっと身体が熱くなる。

 美味、美味!

 

 俺は夢中でキマイラを貪り食った。

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