え、マジでこれ食うの?

 大きめの山々が連なる場所を、安住の地として定めた。

 ここには野生の猪や鹿が生息しているので、食べ物には困らない。

 

 魔物を食らうのには抵抗があるので、普通の動物がいるのは重要なのだ。

 

 川で水浴びをして、一日が始まる。

 水の微精霊で身体を乾かしてから、食べ物を探す。

 燃費の悪いこの身体は、一日を狩りに費やさねば飢えてしまうのだ。

 なにせ食べられるものの種類が少ないので、なかなか満腹にならない。

 

 そんな狩り三昧の日々を送っていたある日、俺は別のワイバーンに出会った。

 そのワイバーンは俺より大柄で、恐らくは年上だと思われる。

 なぜか俺を見て気に入ったらしく、「キューキュー」と可愛らしい鳴き声を上げながら俺の後をついてくるのだ。

 

 年上の子分ができたらしい。

 

 俺は狩りの邪魔にならなければ、特に気にせず放置していた。

 子分はついてきていたと思ったらどこかへ飛び去っていったり、数日ほど姿を見せなかったりと気まぐれだ。

 

 俺が現在、寝床にしているのは一番大きな山の山頂だ。

 屋根もないアウトドアな場所だが、この身体は頑丈なので雨風に当たっても平然としている。

 風邪を引いたことはない。

 

 そんなある日のこと、俺の寝床に子分がやって来た。

 口になにかを咥えながら。

 それは巨大なムカデだった。

 

 子分はそれを俺の目の前に放ると、「キューキュー」と鳴きながら端っこをかじって食べて見せた。

 え、これを食えってことか?

 

 俺が躊躇していると、悲しげな声で「キュー……」と鳴いて鼻面でムカデを俺の方に押しやる。

 どうしても食べさせたいらしい。

 

 しかしムカデかあ。

 ちょっと大きすぎてキモイんだよなあこれ。

 子分が食べてたから、大丈夫だと信じて食べてみるか?

 

 巨大ムカデは山にもそれなりに生息している。

 食べられると分かったなら、狩りの獲物が増えるのは確かだ。

 ええいままよ。

 

 俺はムカデの頭部にかじりついた。

 ゴリゴリ、ボリボリ。

 歯ごたえが心地よい。

 味は……正直なところ猪や鹿に劣るが、まったく食えないほどじゃなかった。

 

 胴体部分もボリボリとかじる。

 うん、こっちも悪くないぞ、食べられる。

 

 子分は満足したのか、俺がムカデを食べ終えると飛び去っていった。

 

 明くる日も、子分は獲物を咥えて持ってきた。

 巨大ナメクジだ。

 子分はナメクジの端っこをやはり食べて見せて、これも食べろと勧めてくる。

 

 え、マジでこれ食うの?

 ナメクジだよ?

 

 躊躇していると、またしても悲しげな声で鳴く子分。

 分かったよ、食べればいいんだろ、食べれば!

 

 俺はナメクジをチュルリと食べた。

 滑らかな舌触り。

 味は……イマイチだが、食えんほどじゃない。

 

 ふと気づいたが、巨大ナメクジの頭部付近に小さな固いものがあることに気づいた。

 ガリ、と噛むとじんわりと暖かな感触が広がる。

 なんだろう、これは。

 ちょっと新感覚だ。

 

 その後、ナメクジを平らげると、子分は満足したのか飛び去っていった。

 

 このようなやり取りが何度か続いた。

 俺は山で食べられるものが大きく増えていた。

 というか、食べられないものがほとんどないことを知った。

 

 ちなみにナメクジの頭にあった固いものだが、自分でナメクジを狩ったときに吐き出してみたところ、小さな石ころが出てきた。

 かじると身体に暖かな何かが満ちるような気がする石は、他の魔物の体内にも見られるもので、最初に食べたときには気づかなかったがムカデにもあった。

 

 ……前世の知識からすると、魔石とかそういう器官じゃないだろうか。

 

 魔力を溜め込む器官だ。

 多分、ワイバーンの体内にも魔石はあるのだろう。

 食べて身体がポカポカするのは、魔力が回復しているということじゃなかろうか。

 

 とはいえ俺は魔力を消耗するようなことは何もしていない。

 空を飛ぶのも風の精霊に手伝ってもらうので、こちらは何の対価も渡していない。

 他の精霊についても、頼めば大抵、なんでも言うことを聞いてくれるのである。

 

 魔力というものがあるなら、魔法もこの世界には存在するのだろう。

 王様が凄いジャンプしてたし、きっとあれが魔法なんじゃないかと疑っている。

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