多分、異世界転生した俺が例外なのだろう。

 食っちゃ寝しながら成長していく。

 身体はどんどん大きくなる。

 気味が悪いくらいに、成長が早い。

 人間と違って野生に生きるワイバーンは、独り立ちするのもきっと早いのだろう。

 

 他のワイバーンとは会話が通じなかった。

 俺が「キュイ」と鳴いても、意味の有りそうな返答はなかった。

 

 逆に人間たちの会話を聞き取っているうちに、なんとなく意味が分かるようになってきていた。

 

「餌の時間だぞ、エーデルアルト」

 

 餌やりの言うエーデルアルト、という単語がどうやら俺の名前らしい。

 口を開けてやると、桶から切り身の肉を流し込まれる。

 咀嚼しながら、肉の味を楽しむ。

 しかし大量の肉を食べさせてもらっている。

 他の大人ワイバーンはもっと食べているはずだから、食費がすごそうだ。

 

 ふと厩舎の中が騒がしくなった。

 王様がやって来たらしい。

 齢五十か、六十か。

 とにかく老境に入っているのは確かだが、その鋭い視線には力強さを感じる。

 さすがは一国の王様だ。

 

「エーデルアルトはもう飛べるのか?」

 

「翼も発達しているし、飛べると思います」

 

「よし、ならば練習飛行といこう」

 

 どうやら王様は俺に乗るらしい。

 騎士団の人たちが俺に鞍を装着させていく。

 邪魔なことこの上ないので思わず身震いしてしまったが、騎士たちも慣れたもので、すぐに装着された。

 

 そして初めて、厩舎の外に出ることになった。

 日差しが焼けるように皮膚にしみる。

 光の微小精霊と闇の微小精霊に働きかけて、日光を遮断した。

 

「日の下で見るとやはり美しいな」

 

 王様が飛び上がり、俺の背中に跨った。

 今、なんか凄いジャンプを見た気がするけど、こちらの人間たちはみんなこんな凄いのかな?

 

 背中に王様を乗せて、手綱でピシリ、と王様が俺を叩いた。

 飛べ、ということだろう。

 

 俺は風の精霊を翼に宿すと、羽ばたきながら走り出す。

 そしてふわり、と地上から足が離れると、空に飛び上がった。

 

 空を飛ぶのは初めてだが、身体が知っていた。

 自然と行うことが出来るようだった。

 

 そうそう精霊についてだが、いつの間にか自在に扱える様になっていた。

 空を飛ぶために翼に風の精霊たちが群がっている。

 呼べば光の精霊と闇の精霊も来てくれるし、風の精霊に頼んで遠くの声を拾ってもらうことだってできた。

 

 ただ他のワイバーンはそんなことはしない。

 精霊を自分の手足のように使うワイバーンは、厩舎の中で俺だけのようだ。

 薄々感じていたことだが、ワイバーンの知能は動物並みのようなのだ。

 多分、異世界転生した俺が例外なのだろう。

 

「どうだ、エーデルアルトよ。空は気持ちいいか!」

 

「キュイ」

 

「ははは。そうだ、空を飛ぶのはワイバーンの本能だ。……さて初めての飛行だからな。この辺りで終いにしようか」

 

 ググ、と手綱を引っ張られる。

 言葉通り、地上に降りろということなのだろう。

 俺は言われるがままに空中を大きく旋回して地上に降りた。

 

「陛下! エーデルアルトはまだ訓練が済んでおりません。いきなり練習飛行をするとは、無謀にも程がありますぞ!」

 

 ワイバーン騎士団の団長デニスが凄い勢いで走ってきた。

 余程、王様のことが心配だったのだろう。

 

「心配するな、デニス。見よこの理知的な瞳を。この子は賢いぞ」

 

「どれだけ賢いワイバーンだろうと、所詮は亜竜です。知性は犬猫と変わらんのです」

 

「悪かった。心配をかけたな。しかし手綱を握って思ったのだが、しっかりとこちらの意思を察して飛んでくれたぞ。やはりこの子は特別なのだろうな」

 

「…………」

 

「分かった、そんな目で睨むなデニス。今、降りる」

 

 ふわり、と王様は俺から飛び降りた。

 ワイバーン騎士団の面々が俺の手綱を引いて厩舎に戻そうとしてくる。

 せっかくの初めての外なのだが、仕方がない。

 大人しく厩舎に戻されることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る