白いワイバーンがどんなものか、見ておく必要がある。(by王様)
エルバーン王国国王、アレクシス二世は、寝室で眠っていた。
それを起こしたのは、近衛騎士団団長のブルクハルトだった。
「陛下。至急、お耳に入れたいことが」
「……なんだ、こんな真夜中に」
至急の案件か。
何かの変事があったのだろうか。
嫌な予感を抱きながら、ベッドから身を起こす。
「ワイバーン騎士団の厩舎にて、新たにワイバーンが生まれました。ただ……」
「ただ?」
「全身が真っ白なのです。これまでに見たことのない変異種です。【鑑定】持ちの文官が言うには『アルビノワイバーン』というらしいのですが、詳細は文官たちがいま調べています」
「白いワイバーンか……瑞兆ならば良いが」
エルバーン王国の主力部隊ワイバーン騎士団。
北方の山からワイバーンの卵を盗み出し、厩舎で人間に慣らして、騎獣とする部隊だ。
ワイバーン自体の戦力もさることながら、騎士たちの練度も高く、この国の重要な防衛戦力だった。
アレクシス二世自身もワイバーンの騎乗訓練は若かりし頃から行っており、今でも愛騎ツェーザルに乗って辺境への視察の足に使うこともある。
「見に行こう」
エルバーン王国は隣接する二国とはなんとか戦争にならずに交易を介して外交を行っていた。
それもこれも空を守るワイバーン騎士団がいてこそ。
白いワイバーンがどんなものか、見ておく必要がある。
変異種ならば、他のワイバーンにない特殊能力を持っているかもしれない。
* * *
身支度を整えて、近衛騎士団を引き連れてワイバーン騎士団の厩舎に入る。
ムワっとした獣臭。
ワイバーン騎士団の団長であるデニスがこちらに気づき、早足でやって来る。
「デニス。白いワイバーンが生まれたと聞いて見に来た」
「はい。生まれたばかりです。餌の準備をさせているところです。【鑑定】したところ、健康体ではあるようですので、餌を与える予定です」
「そうか」
ワイバーンは生まれてすぐに親ワイバーンから噛み砕き咀嚼した肉を口移しで与えられる。
人に捕えられたワイバーンには、ミンチにした肉を桶で口に放り込むことで餌をやる。
命がけの仕事だ。
卵の殻から頭を出している白いワイバーンは、美しかった。
全身が白く、両目は赤い。
厩舎に駆けてきた文官が、息せき切って報告を上げる。
「申し上げます。白いワイバーンはかつてこの国の歴史上に存在しないことが分かりました」
「なるほど……新しい時代の幕開けというわけか」
「は。白は高貴な色です。瑞兆かと」
「よかろう。この白のワイバーンは我が騎獣とする」
ザワリ、と周囲が驚きに満ちた反応を返す。
しかし心得ていたかのように、デニスはうなずいた。
「それがよろしいでしょう。白く美しいワイバーンです。戦場に出すよりも王族の騎獣として可愛がっていただくのがよろしいかと」
「うむ。私はもうこの歳だ。実際に騎乗するのは息子になるやもしれぬな」
餌をもらい、満足そうに鳴く白いワイバーンを眺めながら、私は新しい時代がやって来たのだ、と心中でつぶやいた。
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