アルビノワイバーンに生まれて

イ尹口欠

アルビノワイバーンとエルフの魔女

キュイ、と産声を上げる。

 固い殻を割って、俺は生まれた。

 キュイ、と産声を上げる。

 

 暗い厩舎の中、驚きの声が上がった。

 何事かをまくしたてる者、それをなだめようとする者、駆け出してどこかへ行く者、興奮した様子で話し合う者。

 ザワザワと落ち着かない、耳障りな声。

 知らない外国語だ。

 

 目を開く。

 

 人間だ。

 人間たちが、俺を見上げている。

 金属製の胸甲を身に着けて、腰に剣を佩いている。

 対する俺は――白い爬虫類のような生き物だった。

 両腕は翼。

 翼の先端に鉤爪があり、これが両手に当たる。

 全身にびっしりと白い鱗が生えていた。

 

 ……ああ、このフォルムは知っている。

 

 ファンタジーRPGに耽溺していたからこそ分かる。

 これはワイバーンだ。

 俺はワイバーンに生まれたのだ。

 しかも先天性色素欠乏症――アルビノに生まれたらしい。

 

 ……いやちょっと待て。

 

 なんで俺がワイバーンに生まれたんだ?

 異世界転生という奴だろうか、流行りの。

 それにしたってワイバーンは中途半端だ。

 いっそドラゴンとか、もっと強い生き物はいるだろうに。

 アルビノに生まれたからには、日差しが毒になるだろう。

 ワイバーンとしては日中に飛べないから割と致命的ではなかろうか。

 しかもどうやらこの俺は、人間たちに捕まっているらしいし。

 

 ……いきなり詰んでないか。

 

 卵が親ワイバーンのもとから、人間たちに盗まれたのだろうか。

 それとも親ワイバーンも人間に飼いならされているとか?

 

 周囲を見渡す。

 厩舎には他に大人のワイバーンもいた。

 興味深そうにこちらを見ている。

 

「キュイ」

 

「…………」

 

 鳴き声を上げてみたが、だんまりときた。

 もう少しコミュニケーションを取ろうとか、ないの?

 

 ざわざわとした厩舎に、ひとりの老人がお供をゾロゾロ連れて入ってきた。

 見るからに王様。

 なんてったって王冠を被っているからね。

 多分、この国の王様か領主かなにかだろう。

 

 俺を見上げながら、何事か語っている。

 耳を澄ませて聞き取ろうとするが、何を言っているのか分からない。

 国際コミュニケーション英語能力テストでは高得点を取っているビジネスマンだった俺でも、どうやらこいつらの言語は英語ではないと分かる。

 当然のことながら日本語でもない。

 

 俺の分かる言語で話してくれないかな。

 

 ……異世界転生だとしたら、未知の言語なのは仕方がないか。

 

 人間のひとりが、桶を担いで階段を登り、俺の頭の横に来た。

 良い匂いがする、肉の匂いだ。

 

 桶の中はミンチにした肉だった。

 桶を持った人間が何事か俺に声をかける。

 空腹を感じて、そちらに頭を向ける。

 早く桶の中身を寄越せ。

 

 俺が口を開けてやると、人間は桶の中身を俺の口の中にぶちまけた。

 ミンチの肉を丸呑みにする。

 

 ……うん、いいね。

 

 もっと食べたい。

 

「キュイ」

 

 口を開けておねだりする。

 それで意は伝わったのか、二度、桶からミンチ肉をもらうことができた。

 腹が膨れたら眠くなってきた。

 卵の殻を破壊して、藁の上に寝そべる。

 

 ……悪いね人間ども。おやすみなさい。

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