第24話「エピローグ(あるいは続編の始まり)」
異世界に来て三十年が経過した。
三つ子の魂百までと言うが、俺の魂の本質も変わることはなかった。
今日もまた日課にしている屋敷の温泉に愛しい妻達と入っている。この習慣も十年以上のものだ。
正妻のセシル・バーネット。三十歳。
第二夫人のアーテリー・バーネット。二十八歳。
第三夫人のフランチェシカ・バーネット。三十一歳。
直属メイド兼第四夫人のルーナ・バーネット。三十三歳。
ここは美しき女性達に囲まれた俺の桃源郷だ。
メイド長のルルは夜伽を卒業したがそれでもバーネット公爵家の重鎮だ。
バーネット家は子爵だったが、俺の活躍によって伯爵。侯爵と爵位が上がり、最後には公爵の地位についた。
子宝にも恵まれすぎて現在子供が二十一人。
長男で跡取りのブラッドは十三歳になってローゼリア王国の王女との婚約が決まっているしセシルの産んだ第二子は女児で王太子との婚約が決まっている。第三子はバルク王家へ嫁ぐことが決まっている。
アーテリーとフランとルーナが産んだ子もそれぞれ国内で婚約者が決まっている。
「失礼します」
一人の美少女が生まれたままの姿で現れた。
教皇の娘。聖女リーズレット・バルティブ。
王国元帥になった頃からセシルには側室を増やすように言われていたが、妻は今いる四人だけで十分だと俺は断っていた。だがタイミング悪くという言い方は失礼だが、今から四年前に全員同時に懐妊になった時に割と公務に支障が出てしまい、話が出ていた教皇の娘のリーズレットを娶った。
乙女ゲーム「ルーン・シンフォニア」で聖女と呼ばれる主人公がいなかったところに現れた聖女と呼ばれる少女に興味を持った事もある。
当時十五歳で俺との婚姻が決まったが、妻の序列は変えなくていいと本人の強い希望で通常では考えられないが第五夫人となっている。
リーズレット改め愛称リズは今年で十九歳。
俺の子供を一人産んでおり成長したらその子は教会で神官としての修行をする予定だ。
愛しき妻が五人と愛する子供たちが二十一人。
もう幸せでいっぱいなのだ。
「我が生涯に一片の悔いなし」
もう何回目か自分でもわからないが、世紀末覇王のごとく、右手を高々に上げた。
*
魔族大侵攻は十年前に終わった。
それから魔獣の発生も少しずつ減少していった。
「総帥閣下。今月の魔獣の発生回数は先月よりもさらに減っています」
「わかった。報告御苦労」
ゲームのエピローグでは魔族の大侵攻を退けたとだけあった。詳細は描かれていない。
俺は魔界公爵ヘルマンとはあの後も水面下で会って互いの世界について調整している。
紳士協定の中で、完全にとは言えないが魔界貴族が通るような魔界から開くルートはこちらの指定する戦力を充実させた場所にしてもらうようになり、人界の被害は大幅に少なくなっていった。
十年前にゲームイベントは終わった。魔族大侵攻以上の問題などはあるまい。
あとは隠居暮らしだけだ。
俺は考える。この期に及んでほんの一個だけひっかかることがあった。
ゲームに続編は無かった。
だが、製作者のインタビューで続編を示唆することがあった。
乙女ゲーム「ルーン・シンフォニア」に続編があったとして、そこで何か人間界の危機があるのならそれに備えておかねばならない。
大陸中の情報は入って来るようにしてある。
「どうしたの。ヴェイン」
「セシル。どうしてここに?」
軍の基地にいるのにセシルが現れた。
「総帥の正妻としていろいろあるのよ」
セシルはセシルで俺の妻として忙しい日々を送っている。
今年で三十歳になる妻だが、とにかく美しい。
「セシルはいくつになっても美しいな」
「もう、ヴェインったら。もう三十になるのよ」
セシルが微笑む。本当に美しい。
「せっかくだし。久しぶりに指そうか」
チェス盤を出す。基地にも常備していた。
「あら、嬉しいわね」
セシルもノリノリで俺の対面に座る。
チェスを指しながら思う。
思えばこれが原因でセシルと親しくなって結婚するまで至ったのだ。
今更だけどセシルは悪役令嬢としてアーテリーを引きつれて災厄を起こすような人物には見えない。
「お兄様。基地南部の魔獣を片づけてきました」
セシルとチェスを指していると、アーテリーが姿を現した。
「お兄様。セシルお姉様。チェスですか?」
アーテリーが俺を後ろから抱きしめながら盤上を見つめる。
アーテリーもチェスを覚えようとして覚えられなかった。
屋敷で覚えたのはフランだけだった。ひょっとしてこれがフランがセシルの取り巻きだった一因だったのかもしれない。
そんなフランも今では俺の妻。
そしてアーテリーも俺の妻だ。〈暴風のアーテリー〉はゲームと変わらないが、魔獣討伐の大きな功績を持つ大陸の英雄の一人だ。
「チェックメイト」
セシルのキングを追い詰めてそのまま仕留めた。
「参りました。総帥閣下」
「さすがはお兄様です」
軍事基地の中とは言え、平和な日常だ。
かつては、転生先が乙女ゲーの世界で俺は一家まとめて断罪される家の長男だったということに気付いてそうならないよう怯えながら生きていた。
色々と努力した甲斐もあり、断罪イベントは回避できた。
そして今は幸せな日々を過ごしている。
もしも続編イベントがあっても来るなら来い。きっと乗り越えて見せる。
セシルとアーテリーを抱き寄せながら、俺はそう強く決心するのだった。
転生先が乙女ゲーの世界で俺は一家まとめて断罪される家の長男だった @kunimitu0801
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