第21話「魔族大侵攻編・序(IFルートでもゲームのイベントは続く)」

 俺は異世界生活を満喫していた。

 領地経営も優秀な筆頭家臣(エディ)がいるおかげで問題ない。

 あえて問題を上げるとすると領内に魔獣が出現する件数が増えたのだが、その件は俺が行ってすぐに解決する。最近はアーテリーもいるためバーネット子爵家の領地は物凄く平和だ。

 俺は十八歳になったが、既に隠居生活みたいに気楽にやっている。

 悪役令嬢セシルの断罪イベントからバーネット子爵家のとり潰しの一連の流れに怯えていた日々はすでに過去の話だ。

 悪役令嬢のセシルとその側近のフランチェシカは俺の妻となった。

 今日も今日とて屋敷の温泉に入っている。日課にしている大事な出来事。入っているのは俺だけでなく俺と俺の妻達。そう。愛する人達との温泉入浴だ。

 正妻のセシル・バーネット。十八歳。

 実の妹から養子に代わってその後第二夫人になったアーテリー・バーネット。十六歳。

 第二夫人をアーテリーに譲ってくれた第三夫人のフランチェシカ・バーネット。十九歳。

 直属メイド兼第四夫人となったルーナ・バーネット。二十一歳。

 メイド長のルル。俺を男にしてくれた人物。三十八歳。俺の夜伽の相手を卒業したがっているがまだまだ認める気はない。

 ここは美しき女性達に囲まれた俺の桃源郷だ。

 子宝にも恵まれて現在子供が四人。

 そしてアーテリーも懐妊した。

「ヴェイン様。今日も私がお背中をお流しします」

「ああ。頼む」

 妹改めてのアーテリーに促されて一度湯船を出た。

 一時はどうなることかと思ったが、アーテリーのこともしっかり女として愛するようになった。

 フランに至っては未だに裸を見られるのを恥ずかしがっていると言うのに。それはそれで愛おしく思う。

 もう幸せでいっぱいなのだ。

「我が生涯に一片の悔いなし」

 いつかやったように、世紀末覇王のごとく、右手を高々に上げた。

「どうしたのですか。ヴェイン様」

「あ、いや、なんでもないよ」

 みんなの前だというのにおかしな行動を取ってしまったことを反省する。

「ではお座りください。お背中をお流しします」

 そしてアーテリーに身体を洗われながら再び幸せをかみしめていた。


          *


 転生してから何度も思い知らされた事はある。

 それは、問題が全て解決してもう何も起こらないなと思っている時にこそ問題が起こってしまったり、忘れていた問題を思い出すのだ。

 桃源郷を出た俺は執務を終えるとここまでの出来事を整理する事にした。

 まず思い浮かべるのはセシルとアーテリーの事だろう。

 公爵令嬢。セシル・ルグランジュ。

 ルーン・シンフォニアの悪役令嬢。暴走魔術師アーテリーを引きつれて主人公の前に立ちはだかる作中の真のラスボス。

 セシルは九歳の時に七歳のアーテリーの評判を聞いてバーネット子爵家に訪れたのが二人の最初の出会いだった。

 アーテリーが目立たないように、アーテリーには「可愛い妹には俺が修行を付ける」と言ってアーテリーの一番苦手な土魔術だけ習わせていてビクトールの興味を俺に向けさせていた。

 アーテリーの評判を上げない作戦は功を奏したが、代わりに俺の評価がセシルを呼んでしまい本来のイベントと同時期の九歳の時に出会った。

 そこからチェスを通じて仲良くなり、セシルの兄で攻略対象であるオスカーとも出会って親交を深めて、セシルの父である宰相閣下にも気にいられてルグランジュ公爵家といい関係を築いた。

 そして運命の学園編。

 問題なくあっさりと青春を過ごして終わった。最初こそ決闘の日々だったが総じて平和な日々だった。

 バーネット家が一家まとめて処刑される断罪イベントを微塵も感じさせない平和なものだった。

 そしてその中で、アーテリーと並ぶセシルの側近の一人となるフランチェシカ・ファミロンと出会い結婚の約束をした。

 自らは剣聖になり、アーテリーの気持ちと自分の出生の秘密を知ってアーテリーも妻とした。

 ゲームのイベントは終わっている。はずだ。

 中ボスの暴風のアーテリーとの戦いは無いし、ラスボスの紅蓮の魔女セシルとの戦いも無い。

 ゲームでの戦闘イベントはそこまでで断罪イベントを終えたあとはエンディングだけだ。

 聖女としての力に目覚めた主人公が卒業から数年後の魔族大侵攻を撃退していつまでも平和に暮した。とまでしか語られなかった。

「魔族大侵攻!?」

 ちょっと待てよ。

 ゲームの通りならもうすぐ魔族大侵攻が起こる。

 そしてそれを撃退するのは聖女としての力に目覚めた主人公。

「聖女いないぞ」

 俺は久しぶりに冷や汗をかいた。

 魔族大侵攻。確かにその予兆はあった。

 オスカーと共に向かったバルク王国では魔獣の群れを率いる魔界子爵を名乗る人型魔獣が現れた。この前アーテリーの向かったところでは魔界男爵を名乗る人型魔獣が現れた。

 バルクほどではないが、我がローゼリア王国でも魔獣の群れを率いての組織化した魔獣の被害の話も出ていると聞く。

「これってもしかして、大陸のピンチ?」

 俺は一人そう呟いて頭を抱えた。


          *


「ヴェイン。わが義弟よ。よく来てくれた」

「ご無沙汰しております。オスカー陛下」

 俺はオスカーに会うためにバルク王国を訪れた。

「そんなかしこまった挨拶は不要だ。相棒」

「じゃあ昔のように。オスカー。元気そうで何よりだ」

 バルク王国に婿入りしたオスカーは今では国王としてシェリス王妃と一緒に国を治めている。バルクの双剣王子カイン殿下が政治向けでないと自ら玉座を辞退したおかげでひと悶着はあったが血は流れずに王位継承は済んでいた。

「バルクでの魔獣問題はその後どうだ?」

「参ったよ。魔獣の被害事態はそうでもないが、カイン義兄上は軍を率いて魔獣討伐の日々だ。僕も行きたいけど国王がそんなに王都を開けるわけにもいかない。僕が魔獣討伐する方のがあっていると思うんだけどね」

 やれやれと言った感じでオスカーはため息を吐いた。

「軍か。バルクは軍部を王家が統括しているんだよな」

「ああ、魔獣問題も軍を編成して対応している」

 バルク王国では王家を中心に軍が一元化している。

「俺はローゼリア王国もそのようにしたいと考えている」

 俺は自分の考えをオスカーに伝えた。

 ローゼリア王国は各貴族がそれぞれ軍を組織している。

 元帥としてウェスター公爵家当主が統括している形ではあるが、バルクと違い命令系統が一本化されていなくこのままでは有事の際の対応が後手になる。

「まずはバーネット子爵家の周辺で協力を仰いでみる。俺も魔獣討伐に力を入れて発言権を上げる」

 幸いにバーネット家は俺とアーテリーがいるため兵の数は少なくても戦力的には王国でも屈指の力を持つ。先代当主の元剣聖ビクトールも六十過ぎてなお戦場に出ようとするし。

「ローゼリアも軍を一元化してきたるべき大侵攻に備える」

「来ると思うのかい?」

 オスカーは不思議そうに尋ねてきた。

 魔獣の数の増加は現実でも、大規模な侵攻が起こると言う事は信じられないのだろう。

 俺だってゲームの知識がなかったら誰かがそんなことを言いだしたってきっと信じないだろう。

「思う。根拠は俺の勘だけだがな」

 ゲームの知識だが、ここでは勘で通すしかない。

「君の勘なら当たるだろう。僕も協力させてもらうよ」

 オスカーが協力を約束してくれた。

「ありがとう。相棒」

「当然だ。兄弟」

 俺はオスカーと握手を交わした。

 単純に軍を一元化すると言っても既存のものを新しくするのには色々と問題が生じることだろう。

 何年後になるかわからないが、魔族大侵攻は必ず訪れる。

「向こうの部屋で話そう。ヴェイン。長くなるよ」

「ああ、宜しく頼む」

 こうして俺は、オスカーからバルク王国の軍の編成方法を始めとする色々なことを教えてもらった。

 割と国家機密も混ざっていたが、そこはあえて触れずにただオスカーに感謝しながら学んでいくのだった。

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