第16話「妹の婿探しがうまくいかない理由」

 ヴェイン・バーネットとセシル・ルグランジュの結婚式は盛大に祝われた。

 ギルバート殿下を始め王家や全公爵家が集まり宴は三日見盤続きバーネット子爵家の領地に計り知れない経済効果を与えたのだった。

 逆にヴェイン・バーネットとフランチェシカ・ファミロンの結婚式はひっそりと行われた。貴族同士の婚姻と思えない慎ましいものだったが正妻以外はそう言うものらしい。

 そのタイミングで一緒にルーナとの結婚式も開催された。

 セシルとフランとルーナが考えて結託した事だった。セシルが中心に仲良くしているので正妻・側室問題は起きないだろうと安堵するのだった。


          *


 ゲームの舞台は無事に終わった。俺も十六歳になった。

 悪役令嬢セシルの断罪イベントからバーネット子爵家のとり潰しの一連の流れは完全に回避された。

 悪役令嬢のセシルと取り巻きのフランチェシカは俺の妻となった。

 今日も今日とて屋敷の温泉に入っている。

 卒業時に帰って来て裏庭の湧水が妙に温かいなと思って少し掘ってみたらまさかの温泉がわき出てきたのだ。

 そして愛する人達と一緒に温泉に入るのが日課になった。

 今もみんなで一緒に入っている。

 正妻のセシル・ルグランジュ改めセシル・バーネット。

 第二夫人のフランチェシカ・ファミロン改めフランチェシカ・バーネット。

 メイドを続けているが第三夫人となったルーナ・バーネット。

 メイド長のルル。俺を男にしてくれた人物。

 ルルとは今も関係は続いている。ルルは「私みたいな年増はお許しください」と言っていたが許さない。俺の女だ。

 ここは美しき女性達に囲まれた俺の桃源郷だ。

 でも俺と一緒に風呂に入っている女性は四人だけではない。

「お兄様。今日は私がお背中をお流しします」

「あ、ああ。頼む」

 妹のアーテリーに促されて一度湯船を出た。

 アーテリー・バーネット。

乙女ゲームの「ルーン・シンフォニア」に出て来る暴走魔術師アーテリー・バーネット。

 俺と妻だけでなくアーテリーも一緒に入っている。

 本当は風呂の中でも妻たちといちゃいちゃしようと思ったのだが、可愛い妹に「アーテリーも一緒に入りたいです」と言われれば「一緒に入ろう」以外の言葉は出てこなかった。

 一緒にお風呂に入っているので当然裸なのだが、アーテリーは恥ずかしがるそぶりが一切ない。フランなんかもう何十回も抱いたのに未だに裸を見られるのを恥ずかしがっていると言うのに。

 俺は十六歳。アーテリーは十四歳。

 アーテリーは美少女だ。

 胸はまだまだだが、それでもこの裸体は男を興奮させる。

 俺が転生者だからだろうか。肉親なのに異性として見てしまいそうになる。

「お兄様。終わりました。前も洗います」

「前はいいよ。ありがとう」

 アーテリーの頭を撫でて俺は湯船に戻った。


          *


 アーテリー・バーネットは現在十四歳。

 結婚にはまだ早くても、婚約者はいても良い年頃だ。

いずれは名のある貴族達から求婚されるようになるだろうと思っていた。

アーテリーは子爵家の令嬢である。当然嫁ぐ相手は貴族の人間だ。低い可能性だが相手の男は大貴族か下手したら王族になるだろう。だが、仮に国王陛下だとしても、もしもアーテリーを泣かせるような奴がいたら殴って見せるくらいの気概でいる。ギルバート殿下が相手でもそれは同じだ。それどころかアーテリーと結婚が決まっただけで相手の男を殴ってしまいそうだ。妹をとられた嫉妬で。それだけじゃない。結婚相手だろうがそうでない相手だろうが、もしもアーテリーを泣かせるような男がいたとしたら、生まれてきたことを後悔するような目に会わせてやる。絶対に。そう思えるほどの可愛く愛しい妹だ。まだ見ぬ未来のアーテリーの旦那に嫉妬したこともあった。

 だが俺は決して、アーテリーが可愛いからと言う理由だけで社交界デビューさせなかったり十二歳になっても学園に通わせなかったわけではない。

 ここが乙女ゲーだと気付いて、学園で断罪イベントの引き金にならないようにとも考えていたからだ。

 だが、学園編も終了したしもうその心配はない。

 学園に通わせよう。そして社交界デビューもさせよう。そう考えた。

 ここまでは全て上手くいっている。あとはアーテリーが幸せになってくれれば完璧だ。

 その考えをしている時にある人物の顔が思い浮かんだ。


          *


「オスカー。アーテリーをもらってくれないか?」

 俺は親友であり義理の兄でもあるオスカーにそう切り出した。

「どうしたんだ。いきなり」

 イケメンは少し戸惑っていた。

「アーテリーを嫁に貰って欲しい。あの子は人見知りで外に出さないでいたが、お前の事は気にいっているし」

「彼女がそう言ったのかい?」

「いや、兄としての勘だ」

「その勘は違っていると思うよ」

 なんだろう。同じ兄なのにオスカーのが説得力がある気がする。

「大体お前は浮いた話が一つも無いな」

 そう。この男。

 オスカー・ルグランジュは俺より二つ年上の十八歳にも関わらず独身かつ婚約者無し。

 運命の女性と出会えていない。と言って誰とも結婚しようとしないのだ。

 妹のセシルから何度も怒られていた。

 何度か話をしてみたが、オスカーはアーテリーを貰ってくれる気配が全くなかったのでオスカーにアーテリーを嫁がせるのはあきらめた。

「セシル。頼みがある」

 俺は愛する妻にあるお願いをしたのだった。


          *


 アーテリーを社交界デビューさせた。

 学園に行くのは嫌だと言っていたので、パーティなどに顔を出すようになった。

 パーティでアーテリーに声をかけたり、アーテリーとお見合いしたい言う相手が多くいたのだが、アーテリーが気にいる相手がいなかった。

 それどころかこういう機会を増やすと俺に側室を送り込もうとする貴族達の相手が面倒だった。

「上手くいかないな」

 俺は疲れていた。妹の婚活が上手くいかないのと側室候補を押しつけられそうになっているストレスで絶賛ヤケ酒中だ。

 そんな横にはセシルが寄り添っている。

「アーテリーはお兄様が大好きなのよ」

「俺も大好きだよ」

「わかっていないわね」

 セシルの言葉の真意を確認しないまま、俺はワインを口にした。

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