第15話「ゲームの舞台の始まりと終わり」
「我が生涯に一片の悔いなし」
いつかの夜明けのように世紀末覇王のごとく、右手を高々に上げたかったのだがそれは叶わなかった。
俺の右腕を枕にしてメイドのルーナが眠っている。
俺の左腕を枕にして未来の第二夫人のフランが眠っている。
そして俺の胸を枕に未来の正妻セシルが眠っていた。
全く身動きの取れない状況だが文句は何一つない。
天国はここにあった。
「ヴェイン様。朝ですよ。皆さんも起きてください」
部屋に入ってきたルルに起こされる。
女性たちが全員起きあがるまでの間眠ったふりをして過ごすのだった。
*
十五歳になった。
学園生活最後の年になる。
今年は特別な年だ。
攻略対象達が入学してくる年だ。ゲームの舞台である学園はここからが本当のゲームの舞台になる。
主席はギルバート・ローゼリアス。
ローゼリア王国の第一王子。攻略対象の筆頭中の筆頭でとんでもない美少年だ。
ヴィルヘルム・グローベル。
グローベル公爵家跡取り。剣聖。多分剣だけなら俺より強いだろう。美少年だ。
アレクサンドル・ウェスター。
ウェスター公爵家跡取り。頭脳明晰。美少年だ。
ロイ・ジルベスト。
冒険者。平民だが、没落したジルベスト大公家の血筋。美少年だ。
本来だったら今年入学だった美少年オスカーを合わせて攻略対象全員が揃った。
悪役令嬢のセシルと取り巻きのフランチェシカもいる。取り巻きのもう一人のアーテリーだけはいないがゲームの登場人物が全員登場した。
しかし、一人だけいない。アーテリーではない。
主人公の少女は現れなかった。
新入生は一人一人全員調べた。
その様子を見てセシルから「今年も側室を探すの?」と聞かれてしまったくらいだ。セシルが新たな嫁探しに前向きだったため調査は上手く行ったのだが該当しそうな人がいなかった。
オスカーが間に入ってくれたおかげで攻略対象達とも交流があった。
全員いい奴だった。
ギルバート殿下とも仲良くなった。
「オスカーと共に私を支えてくれ」
そんな風に言われるくらいの仲になった。
剣聖ヴィルヘルムとの決闘の日々は省こう。
後半はヴィルの相手はほとんどオスカーがしていたがそれもいい思い出だ。
主人公は現れなかった。
転入生が何人かいたが、その中にもいなかった。
転校もしてこなかった。
そしてこれもゲームとは違う展開だが、ウェスター公爵家のアレクは学校を退学した。父のウェスター公爵が病で寝込んでしまって領地運営を引き継ぐそうだ。頭のいい人物だから問題ないだろうが、いつかのライラの如くいきなりだったので驚いた。
いきなりと言えば冒険者ロイも学園生活は窮屈だと学園を去った。
主人公がいなかったせいか攻略対象も不揃いになった。
それでも最後の一年間は攻略対象達に囲まれて濃い一年間だった。
だが、待てど待てど主人公は一向に現れない。
薄々わかっていたことではあるが、フランの言うようにここは俺の知る異世界とは似て異なる世界なのだと少しずつ理解していった。
*
卒業式。
「ヴェイン。オスカー。セシル。君達のおかげで楽しい一年だったよ」
「ありがとうございます。殿下」
ギルバート殿下から言葉を頂きオスカー。セシル。フラン。ルーナと共に卒業した。
フランは一年後輩なので、本来なら来年の卒業なのだが「ヴェイン様のいない学園生活は面白くありませんので退学します」と言ってそれを聞いたセシルの計らいで二年で卒業になった。どちらも愛しい女だ。
セームの舞台は終わった。
こうして、俺はゲームのヒロインに会わないまま卒業を迎えたのだった。
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