第9話「ゲームの舞台も普通の現実」

 王都の学園に辿り着いた。

 ゲームの世界に転生して十三年。ついにゲームの舞台に辿り着いた。

 〈ルーン・シンフォニア〉のゲームで見た世界が今ここにあるのだ。

「ヴェイン様。到着したそうです」

 ボーっとしていたところをルーナに声をかけられる。

 ルーナは俺の隣に座っている。

 前の席にはオスカーとセシルが座っていた。

 一番豪華な馬車に四人で乗っている。

 馬車はもう一台あってオスカーやセシルの従者はもう一台の方に乗っている。オスカーに「後ろは狭いからヴェインの従者の子も一緒にどうだい」と進められて一緒に乗っている。

 ルーナはオスカーとセシルと交流はそんなにないので居づらいのではないかと思ったが、こっそりと後ろの馬車にするか聞いた時に「大丈夫です。それよりヴェイン様のお傍にいたいです」と可愛すぎるセリフと共に同じ馬車に乗り込んだのだった。

 会話は俺とオスカーとセシルだけだったが、それでも笑みを絶やさずに俺の隣に座っていた。

「ヴェイン様。到着したそうです」

 再びルーナに声をかけられる。

「わかった」

 気を引き締めよう。俺の人生早くも正念場だ。

「さあ行こう。相棒。我らの新天地だ」

「ああ」

 頼もしい相棒のオスカーに声をかけられる。

「セシル。行こう。……セシル?」

 セシルに声をかけるが反応がない。

「あっ。ごめんなさい。ヴェイン。少し考え事をしていて」

 セシルも流石に二年前の入学に思う所があったのだろうか。

 馬車から下りて校舎に向かって歩く。

「ヴェイン様。道中セシル様が私をじっと見ていた気がするのですが」

「セシルが?なんだろう。後で聞いてみるよ」

 まさか従者が同じ馬車に乗っているのが気にいらなかったのだろうか。セシルは未来の悪役令嬢とはいえそんなに性格は悪くない。

 学園に到着した俺たちは好調に挨拶をしてから部屋に案内される。

 基本的に王都の学園は貴族達と魔術に秀でた人材が集められる特待クラスとその他の一般クラスに分かれている。

 特待クラスに行くのは俺とオスカーとセシル。

 一般クラスにはルーナ。

 特待生のクラスは部屋が豪華だ。

 ゲーム内じゃ特待生の部屋の描写なんてほとんどなかったがこんな風になっていたのか。

 ベッドに飛び込んだ俺はすぐに眠りに着いた。


          *


 入学式が始まる。

「代表。オスカー・ルグランジュ」

「はい」

 オスカーが優雅な挨拶をして壇上に上がり新入生代表の挨拶をする。

 入試の試験はオスカーが主席だったそうだ。そして俺は次席だったらしい。一人別の生徒が間に入ってセシルが四席だと聞いた。

 新入生の顔を見回す。

 ルーン・シンフォニア主人公の女子もいなければ他の攻略対象もいない。だって舞台の二年前だから。

 ゲームの世界だが、それでもここが普通の現実になるのだ。

 入学式が終わり、とりあえず一回部屋に戻ろうとした。

「ヴェイン・バーネット」

 いきなり大声で名前を呼ばれた。

「はい?」

 振り返ると、なんだか偉そうないかにも貴族の息子的な男が立っていた。

「我が名はランスロット・ラーゼン。ラーゼン伯爵家の次期当主である」

 聞いていないのに自己紹介された。さっき俺の事フルネームで呼んでいたからこっちは必要ないよな。

「どうも」

 軽く会釈して離れようとする。

「ルグランジュ公爵家に取り入り剣聖の称号を手に入れた卑劣者め。いずれ尻尾を掴んで成敗してくれる」

「はい?」

 なんだろう。なんか因縁つけられている。

「入試の順位もそうだ。試験が公爵家の領地で行われるのをいいことに、公爵に取り入って不正をしたのだろう。卑怯者め」

 散々喚いたあげく滅茶苦茶敵対宣言して離れて行った。

 まああいつの言う事も一理ある。

 王都の学園の入試試験は王都と公爵領で実施される。不正を働くと思っている人も少なくないようだ。

「ヴェイン殿」

 さっきとは違う声で、ランスロット・ラーゼンと同じような感じで声をかけられた。

 またまた貴族の坊っちゃんだ。でもさっきのより目付きが鋭いし強そうだ。

「フリューゲル伯爵家のエラルドだ」

「バーネット子爵家のヴェインです」

 また伯爵家だ。ため息がでそうになるのを飲みこんでなんとなくこっちは返事を返してみた。呼び捨てじゃ無くて「殿」をつけていたし。

「私の入学試験の結果は主席のオスカー殿と次席の貴殿に続いて三番目だ。まずは貴殿を抜く。そしてオスカー殿を抜いて主席になる。せいぜい勉学に励むのだな」

 そう言ってさっきのラーゼンと同じように去っていった。

 起こった出来事はさっきのラーゼンと同じようだが、こっちのほうがまだまともそうだ。

 これ以上因縁をつけられないようにと祈りながら部屋へ戻るのだった。


          *


「疲れた」

 部屋に戻った俺はソファに深々と座り込んだ。

「大丈夫ですか。ヴェイン様」

 我が愛しき存在であるルーナが心配してくれる。

「大丈夫だよ。ルーナ。今はね」

 そう。今はまだ個人個人で因縁つけられているだけだが、このまま成長して将来伯爵二人というか伯爵家二つを敵に回すことになるのは子爵家的によろしくない。

 エラルドの方は競い合う相手としてだが、ラーゼンのほうは完全に目の敵にされている気がする。

 そう言えばゲーム内でも決闘イベントみたいなのがあったが、まさか当事者にならないよな。

 だめだ。考え込んでも事態は好転しない。一度休もう。

 そう思っていると、何かを察したルーナがベッドに座りこんだ。もう以心伝心だ。

「少し眠るよ」

 そう言ってルーナの膝に頭を乗せる。

「はい。ごゆっくりお休みください」

 ルーナが優しく頭を撫でてくれる。

 今後の事を考えているうちに、意識が遠くなっていった。

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