第8話「我が生涯に一片の悔いなし」
「王都の学園へ?」
ある日、なんの前振りもなくオスカーに「王都の学園に通おう」と言われてそう返した。
「そうだ。一緒に入学しよう」
「俺十三歳だよ」
確か入学は十五歳からだ。まだ二年も早い。
「私もそうだ」
「いや、オスカーは来月十四歳だろう」
俺よりオスカーのほうが一つ年上だ。どっちにしろオスカーでも一年早い。
「ああ。誕生日パーティには是非来てくれ」
「もちろん参加させてもらう。……じゃなくて、俺は年齢オスカーの一つ下だ。入学は来年……二年後だ。オスカーだって来年じゃないか」
ちょっとあまりの展開に混乱しそうになりながらも俺たちが入学できない事を告げる。
「関係ない。行こう」
なんて我儘な。
オスカーのこういうところが大貴族だよなと思う。
まあ確かに絶対に十五歳からでないといけないと決まっているわけではない。
一緒に入学する世話役の従者の関係もあって学園への入学についてはおおむね十五歳前後でと決まっていた。
「バーネット子爵には父上から話をしておいてもらう」
「権力で圧力掛けて解決させようとするのやめて」
公爵家の権力で子爵家に無理を言わないでほしい。
「ヴェイン。学園に行くというのは本当なの?」
セシルが飛び出してきた。ちょっと待ってくれ。今はオスカーの説得中だ。
「本当だよ。セシル」
そして。オスカー。何故お前が答える。
「お兄様。ヴェインを巻き込まないでください」
セシルの発言に光を見た。そうだ。未来の悪役令嬢だがここでは常識のあるお嬢さんだ。
頼む。言ってくれ。自分での説得はダメそうなのでセシルに一縷の望みを託した。
「何で駄目なんだい?セシル」
「ヴェインは再来年私と一緒に入学するんです」
そう。俺とセシルの入学は再来年だ。実は学園編が楽しみだったりする。
「そんなに待っていられないよ。すぐに行きたい。セシルも一緒に来ればいいじゃないか」
そのオスカーの一言にセシルは固まる。
あれ、空気が変わった気がする。
「いいでしょう。私とヴェインも学園に入学します」
「おい」
俺の一縷の望みはあっさりと断たれた。
あと俺が行く事をセシルは勝手に了承したが、何でこの兄妹は俺の意思は聞かないのだろうか。
「いいわね。ヴェイン」
あっ。聞かれた。
「いいよ」
混乱のあまり「イエス」と答えてしまった。まあ他の解答は俺にはなかったと知る。
その後、本当に宰相閣下からうちの父親に連絡が入って俺は王都の学園に入学することが決まったのだった。
*
ヴェイン・バーネット。十三歳。
一緒に入浴するのは妹のアーテリー十一歳とメイドのルーナ十六歳とその母メイドのルル三十三歳。変わることのない桃源郷だ。
この一緒に風呂生活も終わりを告げることになる。
明日は学園に向けて出発する日だ。
学園にはルーナが俺の従者として着いてくる予定になっているが、こんなハーレム入浴は今日で最後だ。なので今日はルーナとルルのおっぱいをしっかりと目に焼き付けながら桃源郷に別れを告げた。
寝巻でベッドに入る。
学園編は楽しみだ。だがゲームの舞台に突入することに不安がないわけではない。
それでも、今のセシルとの関係ならなるべく傍にいることで断罪イベントは回避できるはずだ。
そんなことを考えている内に少しうとうととしてきた。眠りに着こうとした時に、ドアがノックされた。
「ヴェイン様。遅くに失礼します」
ルルの声と共にルルとルーナが入ってきた。
ルーナが顔を赤くしてモジモジとしている。ルルも少し頬を赤らめている。
「どうしたの。二人とも」
最後の日だから添い寝してくれるとかなら大歓迎だ。
「ヴェイン様は明日より学園生活が始まります」
「ああ」
「まだ少し早いかもしれませんが、今日はルーナと共に夜の作法をヴェイン様にお教えしたく」
「夜の?」
それってつまり。
俺はルルを見るとルルは無言で頷いた。
「はい。男女の営みについてです」
添い寝どころじゃなかった。眠気が吹き飛んで一気に目が覚めた。
「ヴェイン様」
ルーナがもじもじしながら俺の名を呼んだ。
「初めてですので至らぬ点があると思いますが、よろしくお願いします」
俺の記憶はそこで途切れた。
そこからの記憶は残っているがぼんやりとしか覚えていない。
ただ転生してから最高の瞬間が今この時だと認識するのだった。
*
目を覚ます。
右にルル。左にルーナが寝ている。
俺も含めて三人共裸だ。
「我が生涯に一片の悔いなし」
世紀末覇王のごとく、右手を高々に上げた。
俺の声に驚いたルルとルーナが目を覚まして、三人で顔を見渡して昨日の出来事を思い出してみんなで顔を真っ赤にして俯くのだった。
*
旅立ちの日。
俺はルーナを従えて、オスカーとセシルと共にルグランジュ公爵家の派手な馬車で一緒に王都へ向かうことになっている。
出発の前にアーテリーと二人だけで話がしたいと言って二人きりにしてもらった。
「いいかい。アーテリー。魔法の事は二人の秘密だよ」
「はい。お兄様。魔法の練習もこっそりとします」
これ以上強くならないでほしいと思いつつも愛しい妹ににっこりと微笑みかけた。
「長期休みの度に戻ってくるし、手紙も書くから、いい子にしているんだよ」
「はい。お兄様」
アーテリーを抱きしめてそう約束した。
そして俺は学園へ向かう。
いよいよ「ルーン・シンフォニア」の舞台へ上がる事となった。
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