第5話 ハナとスプーン

 ちょうど夕飯の支度を終えたところだったので軽く温め直した。

 今日はガパオの予定だったから人数が増えても調整できる。ハナとアルバロのために追加で目玉焼きを焼いた。明日のお弁当にするつもりで多めに作ってよかった。


 ご飯をよそってエスニックなそぼろをたっぷりかけて目玉焼きを乗せる。


「ハナの分はどうやって盛り付けようか?」

「深い丼が食べやすいと思う。ハナはスプーンとフォークを使えるから」


── なにそれ絶対可愛い!


「りょ、量は?」

鼻息をおさえつつ聞いてみた。

「小さな子供と同じくらい食べるかな」

 アルバロに確かめながら小ぶりな丼に盛り付けてテーブルに運ぶ。


「メインはガパオとわかめスープ。ハナにはおじやもね。足りない人は残り物をどうぞ。かぼちゃのそぼろ煮、にんじんのたらこ和え、肉じゃが」


「おいしそう!いただきまーす」

 シロクマのハナがスプーンを持っておじやをすくってお口に運んでもぐもぐ。


ポロリ。ハナの目から涙がこぼれた。

「パパのおじや食べたかったの…」


「ハナちゃん…」

父さんもホロリ。


 ティッシュでハナの涙をふいてチーンさせる。

「冷めないうちにどうぞ」

「うん」

目元を赤くしたハナがおじやを食べる。


「ガパオはどう?口に合う?」

ハナがガパオをすくって口に運ぶ。


「これ、おいしいね」

「そっか、たくさん食べてね。アルバロはどう?エスニックな味付けだけど大丈夫?」

「とても美味しいよ。僕の世界は料理も未発達なので、こんなに美味しいものをいただけて嬉しい」


 地球の中世みたいな食生活なのか。これからすごい勢いで発展するんだろうな。


「ねえカナちゃん、あれも食べてみたい」

ハナがおかずに興味津々なので小皿に少しずつ取り分ける。


「かぼちゃのそぼろ煮っておいしいね。にんじんのたらこ和えは好きじゃない!肉じゃがはおいしい」


「ハナのにんじん嫌いは相変わらずか」


 ハナは愛犬だった頃、私たちの目を盗んで人間のご飯を食べてしまうことがあったんだけど、にんじんだけは植木鉢とかに出して知らんぷりしてた。


「無理して食べなくても問題ないんでしょう?」

「ハナはウルサス(Ursus)の亜種だから基本的に肉類を食べていれば健康を保てるよ。野菜は嗜好品」


「ウルサス?」

「ハナはウルサスという最上位の熊型魔獣の亜種なんだ。小さくて可愛いけど強いんだよ」


── ウルサスってクマを表すラテン語のursusか。


「なのでマリオとカナには自動的にテイマーのスキルが付与されているよ」

「ほほう」

「テイマー?」


「詳しい説明とざっくり、どっちがいい?」

「ざっくりで通じるの?」

「だいたい想像の通りなので」

「じゃあざっくりで」


「僕の世界は地球の中世とほぼ同じ。違いはファンタジー要素かな。魔物がいて冒険者がいて魔法や魔道具がある」


「ほほう」

「ファンタジー…」


「ここは僕が用意した亜空間。明日からチュートリアルを受けてね。その後のことは相談しつつ決めよう」

「チュートリアルがあるのは助かるな」

「地球のゲームを参考にしたから!」



 ものすごい胸を張って言ったけど大丈夫かな…ちょっと不安定になった。

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