09話.[分からないよな]
「なんか久しぶりだな」
「ああ、涼平と会うのはかなり久しぶりだ」
久しぶりに家に行ってみたら直人の兄が出てきてくれた。
今日はバイトもないみたいだから美苗さんがいるかと思えばそうではなく、とにかく暇しているということだった。
「仙馬を選ぶなんて全く想像していなかったぞ」
「あたしもだ、本当になにがあるか分からないよな」
でも、あのままの距離感でいてもなにも変わらなかったと思う。
それに本人にも言ったように、栞の気持ちを知っていたから動きにくかったのもあるんだ。
言い訳かもしれないが、それでも、親友のために動いてあげたいと考えるのはおかしいことではないはずで。
「あ、そういえば直人に用があったんだろ?」
「行ってもいいか?」
「ああ、じゃあ頼むわ、今日はまだ起きていなくてな」
珍しいこともあったもんだ。
いつもだったらあたしが起こされる側なのに。
そういえばそれも自然となくなってしまっていることに気づいて、少しだけ寂しくなった。
「直人、入る――」
「んちゅー――はっ!?」
……この人は彼氏の弟の部屋でなにをやっているんだろうか。
というか、靴だってなかったはずなのになんでここにいるんだ?
「べ、別にキスをしようとしていたわけじゃないんだよっ? ただ、可愛い直人くんの寝顔を見ていたら揺れかけただけでっ」
「浮気はやめた方がいいですよ」
「わ、私が好きなのは涼平くんだもん!」
これだけやかましくしても起きない直人が心配になった。
正直、この人にはついていけないときがあるから放置したい。
何故ならここにいるのはこの人だけじゃないからだ。
「美苗さん、後輩の子だからって自由にするのはよくないですよ」
「大丈夫大丈夫っ、栞ちゃんを悲しませるようなことはしないよ」
「でも、べたべた触れていますよ?」
「これぐらいは許可してほしい! 涼平くんだって許可してくれているもん!」
それは諦めているだけだろう。
どちらかと言えばこの人の方が強いから涼平も諦めるしかないんだろうな。
いまも一階でひょっとしたら心の涙を流している可能性もある。
「それより直人を起こしましょう」
「そういえばそうだね」
これだけ騒がしくしても起きないなんて逆に笑えてくるぐらいだ。
美苗さんが肩に触れて軽く揺らすと、数秒が経過してから直人は体を起こした。
「……声が聞こえていましけど、なんでここにこんなに集まっているんです?」
「「さあ? 私達はもう戻るね!」」
ありえない話だが、美苗さんや高橋先輩じゃなくてよかったとしか言えない。
親友の栞だったからこそ特に気にせずにいられていると思うから。
とりあえず挨拶をしたらこれまで通り、直人らしく返してくれた。
なんかそれだけで満足できてしまったから、なにかを聞いたりはせずに話すことしかしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます