七話
意外な程あっさりと白状した博己。
それに対し健は驚き、葵は「やっぱり」と目を細める。
「そうでしょうね」
『許可』されていないものが都市に入るのは実力行使か空間干渉者による転移しかない。
前者は《護大樹》の守りを突破し、更に《ギアーズ》の防衛戦力をどうにかしないといけないという難題だ。
それを突破するには現存する国の中でも出来るのは限られており、もしそんな事が起きようならもはや『戦争』と同義だ。
だが世界では小競り合いこそすれ、表面上荒波はたっていない。
どこの国も内側を盤石にさせる為に動いており、国外に目を向けていない。
例え、向けていたとしてもまだ『監視』の段階なのだ。
だから彼等は動かない。動いていたとしても、それは何かしらの秘密裏に行われているのだろう。表沙汰にはならない。
事実、そんな情報は入って来ない。仮にそれを偽れたとしても、別の手段で探りを入れているのはこちらも同じ事。
腹の探り合い。何かしらのちょっかいは出すだろうが、その程度だ。嫌がらせくらいはするだろうが、本格的な侵略や戦争はしない。
故に彼等の可能性は低く、そうなれば転移の線しかない。
「いやぁ済まないね。本部に連れていこうとしたのだが、干渉を受けてしまって、座標がズレてしまったようだ」
空間転移はかなりデリケートで神経を使うらしい。それ故に精神干渉の様な妨害は影響を受けやすく、結果予想だもしていない所に飛ばしてしまったという。
「ふーん、貴方が直々に動く程ね……。やっぱりこの子、ただの《エイジ》じゃなさそうね」
街中で一人行き倒れていた事や近くに他の《エイジ》がいなかった事はわかった。
しかし、新たな問題として少女の正体が気になり始めた。
声には出さないが健も同じらしく、自然と少女に目がいった。
『ラナ』と呼ばれた少女は、見目麗しい娘だ。肌や髪の色から鑑みるに純然たる日本人ではないだろう。世が世の為海外との交流はなくなったと聞く。それでも元々移住していたり、その子孫はいる訳で、彼女はその内の一人なのだろうか?
「ああ、そうだ」
健が色々と思考している間にラナの傍に寄った博己は片膝を着き、その顔を覗き込む。
「この子は、人為的に造られた《エイジ》だ」
「――!?」
そして目を閉じながら告げた言葉に葵は大きく目を見開いた。
「人為的……?」
健も、想像していなかった単語が飛び出た事に困惑する。
「より正確にはクローンらしいがね」
そんな二人には目もくれず、されど補足とばかりに付け足す博己。
「それは……」
「ああ、勿論禁じられているさ。日本だけでなく大半の国はそうしている。だがやはり、禁を破る者はいるようだ」
生命への冒涜、禁忌の領域。昔から言われ続けていたことであり、同時に犯す者は常にいた。
宗教的な理由、倫理的な価値観といった理由で一昔前までは議論を呼ぶ題材であったが、今は事情が違う。
超常的な力を持つ《エイジ》を人為的に造れるとなれば、ある程度落ち着いたはずの世界の均衡がまた崩れてしまう。
世界は未だに優しくはなく、どの国でも毎日争いや諍いにより命が散っていく。
しかし、かつて起きた《混沌期》に比べればそれは大きく減少しているのだ。
《エイジ》の出現から数年もの間に起きた争いが絶えなかった時期は最も多くの死者が出た。それは歴史的に見ても異常と言えた。
――五十億。
それがたった数年で減った世界人口の数とされている。
《ギアーズ》の様な《エイジ》の組織が生まれ、それが持つ力や影響力が強大となり、一つの大きな抑止力となった。世界の各地でも似た組織ができ、幅を利かせる事でようやく事態は終息した。
以降も何かしらの事件や争いはあったが、それでも《混沌期》に比べれば微々たるものだ。
そうして至った現状を出来る限り『維持』する為にも、技術的に可能だとしても触れてはいない代物なのだ。
その為に現存する国々の指導者は条約を作り、締結したはず……だった。
「……本当に、厄介な事をしてくれた……」
だがしかし、行儀よく約束を守る者だけではなかったらしい。
――博己がラナを見つけたのは偶然だった。
この国はまだ完全に《ギアーズ》が掌握した訳ではない。結成したのは関東であり本部もそこだ、それから徐々に勢力を増していった……とはいっても生存圏は限られているので労力はそんなに掛かってはいないのだが。ちなみに健達が現在住んでいる場所が正にその本部がある所だ。
それで後は九州だけとなった時に元々そこを支配していた組織が、交渉を持ち掛けてきた。
回りくどい事を言っていたが、要は「敵対する意志はないから、九州の管理は依然こちらに任せて欲しい」というもの。
これに対し「ちゃんと言うことを聞くなら」と条件を出し、彼等はそれに同意をした……のだが。
どうやらお墨付きでも貰ったと勘違いしたのだろう。
元々問題児の集まりの様な組織故にマフィアやギャング紛いの活動をし、それが続くどころか加速し悪化した。
これだけでも頭を抱える事態なのだが、彼等は更に最悪の問題を起こした。
潜り込ませていた間者からの情報で、最近彼等はどうやら『とある外国の組織』と接触していた事が判明したのだ。
しかも、その者達を国内に手引きした疑いすらもあった。
過去にも日本含め幾つかの国で、どこで作られたとも分からない薬が出回った時期があり、それが人体実験の一環であった事も判明し、大騒ぎになった。
以降はどの国も神経質になっている。
無論、日本とて例外ではない。もし、それが本当であれば手引きした彼等は罰せられることとなる。
そして調べていく内に、辿り着いてしまったのだ。
その者達が行っていた実験――つまりは人工的な《エイジ》の製造だ。
施設を見つけ、色々と『処理』していったのだが、その過程で出てきたのが彼女――ラナだった。
「しかも完成してるとは……技術的な物か、はたまたオリジナルの人物が原因かはわからないが驚いたよ」
人為的、況してやクローンだ。
口には出したが、そんな安直な手段で《エイジ》が増やせるとは、博己は思っていない。
覚醒には条件がある。それはどんな形であれ『生まれたばかり』では満たす事が出来ない。例え記憶等を与えられ成長したかの様に見せた所で意味はない。抜け道は一応あるが、大抵は『耐えられない』と聞く。
そんな中の例外だ。オリジナルが特別と考えるのが妥当だろう。
「ぅ……う、ん……」
博己達の話し声による影響か、少女――ラナは声を洩らしながらもぞもぞと動き始めた。
「あ!」
「ん……?」
ソファから落ちそうになったので慌てて健が抑えに行くとその時の衝撃を感じてか、少女は目を覚ました。
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