第11話 意外な出会い
週末ソレイユ家の王都の屋敷に帰ると弟のショーンが飛びついて来た。
「姉さん!」
「まあ、どうしたの、ショーン」
「姉さん、先週元気なかったし、一日部屋で寝ていたしどうしたのかと心配していたんだ」
「ショーン、あなたはなんて優しい子なの!」
ショーンは母親似の金色のふわふわした髪に、大きな緑の瞳を持ち天使のように可愛い男の子だ。だいぶ丈夫になったとはいえ病弱なので家で本を読んでいることが多い。とても賢く自慢の弟だ。
ショーンを守るためにもシャロンは断罪されるわけにはいかないと決意をあらたにする。
その晩は、珍しく忙しい父もいて家族そろっての晩餐だった。
そこでシャロンはあるお願いをすることにした。
「お父様、私、魔法の実践が苦手なので家庭教師の先生をお願いしたいのですが」
「おや、どうしてだい? 成績はいいではないか」
「それが、お恥ずかしながらペアを組んでいるブラットのお陰なのです。いつも陰ながらフォローしてもらっていて、ほら、お手紙でもお知らせしたでしょう? ブラットにやけどをおわせてしまったと」
「ああ、そうだったね。この間王宮でマシューズ卿にその話をしたが、お前に怪我が無くて良かったといってくれたよ」
「まあ、とても良い方なのですね」
「ああ、ご子息もかなり優秀なようだね」
父もブラットを気に入っているようだ。
「ええ、そうなんです。それで私、いつまでもブラットに迷惑をかけるわけにはいかないので、魔法実践の家庭教師を頼みたいのですが」
「驚いたな。教養の授業や魔法理論の方が面白いから、魔法実践には興味がないと言っていたのに。しかし、学生のうちにいろいろ学んでおくのは良いことだ。早速、家庭教師については考えておこう」
「はい、よろしくお願いします」
娘に甘い父親は快諾してくれた。これで魔法省に一歩近づいた気がする。
魔法省は最難関の職場と言われていて、筆記試験の他に実技試験もあるのだ。苦手な科目だと言って魔法の実践から逃げている場合ではない。
食後はショーンの相手になった。十歳になったばかりのショーンは母親を亡くしてから、寂しがり屋だ。先週遊び相手になってやらなかったせいか、今日はいつもにもまして甘えて来るので、サロンでチェスをしたり、本を読んだりした。
それにしても弟は秀才と言われるだけあって、随分と難しい本を読んでいるので、シャロンとも話が合う。将来が楽しみだ。
♢
次の日も休みでシャロンは馬車に乗って街に出ることにした。
先週あたりから、女友達と遊ばなくなり、その代わり新しい趣味が出来た。それはロマンス小説を読むことだ。これは多分前世の影響だと思う。
休みの今日は新刊の発売で、本屋へ行くことを楽しみにしていたのだ。注文すればいいのだが、どうにも待てない。
以前は王子の妃になる気満々だったから、学術書や詩、教養、マナーの本しか読まなかったのに、今は楽しみの為に本を読むようになった。
早速馬車に乗り、下町の本屋へ向かう。クロエの書店と言って、ロマンス小説はそこが一番品ぞろえが良いという噂だ。そして念願の三巻を手に入れた。
早く読みたくて、浮き浮きしながら、歩いていると、とても素敵なカフェを見つけた。
そういえば、最近この地域に美味しいクレープシュゼットを出す店が出来たと噂に聞いていた。あそこがその店なのだろう。
ぜひ寄って行きたいものだが、まさか一人で入るわけにもいかない。これは取り巻き達と縁を切った弊害だ。今のシャロンは一緒にカフェに行く友人がいない。
店先でガラス張りの店内をちらりとのぞく。白を基調とした内装で、優美な曲線を描いたテーブルに椅子があり、繁盛しているようで、結構人が入っていた。
さすがに女性の一人客はいないようで、うろうろとしていると、声をかけられた。
「シャロン?」
振り返るとブラットだった。
♢
「えーと、このいちごの生クリームがけとクレープシュゼットと紅茶を頂戴」
「じゃあ、僕はコーヒーとクレープシュゼットを」
二人は注文を終えた。
「うれしい! 入りたかったのよねえ。偶然ブラットに会うだなんて!」
嬉しいことに、「ここに入りたいのなら、付き合おうか?」と彼の方から声をかけてくれた。そのうえ彼も甘いものが好きだという。
「僕も前からこの店はきになっていたんだけれど、一人ではなかなかね。というかシャロンはそんなに頼んで食べきれるの?」
と言って笑う。不思議だ。攻略対象でもないのに笑顔が眩しい。美男子は眼福だ。今日も彼の亜麻色の髪はつやつやと輝いている。
「ここしばらく甘いものを食べに行っていないから、たまにはお腹いっぱい食べないと」
そういえば、ユリウスは甘いものがあまり好きではなかった。彼が唯一食べたのはチョコレートだ。あれだけはコーヒーと一緒にときどき食べていた。
ほどなくして、二人の前にクレープシュゼットがきた。この店は目の前でフランベしてくれる。青白い炎に期待感が増す。
出来たてをナイフで切り分け一口食べる。
「凄く美味しいわ」
「ほんとうだ」
二人が舌鼓を打ちつつ、楽しく話しをしていると突然名を呼ばれた。
「シャロン様?」
聞き覚えのある声に驚いて振り向くと、ヒロインことララが店に入ったところで手を振っている。
さすがヒロイン、フレンドリーだ。しかし、休日にまで会いたくなかった。
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