第10話 なぜみなさん話しかけてくるのでしょう?
次の授業の為、学舎をつなぐ回廊を歩いているとイザベラたちがやってきた。
「まあまあ、シャロン様、こんなところにいらしたの? 最近食堂でもおみかけしないからどうなさったのかと思っていたんですのよ?」
このイザベラの気取った話し方が妙に鼻につく。
「あら、そうですの? お時間が合わなかっただけじゃないかしら」
シャロンも気取った調子で返す。
イザベラは魔力も弱く魔法論理も苦手なので基礎的な授業ばかりをとっている。家柄はよいが頭はそれほど良くない。そのため必修以外はかぶらないのでせいせいしていた。そこのところは悪役令嬢のスペックの高さに感謝だ。
「シャロン様、ご覧になって! ほら、またララ様が殿下に近づいているわ」
確かに中庭を挟んで右に回る回廊にユリウスとララとご学友とその取り巻き達が楽しそうに笑いさざめきながら歩いて来る。前世で言うところの大名行列のようだ。
よくあのなかで小柄なララをピンポイントで見つけられたものだ。イザベラは驚異的な視力の持ち主らしい。しかし、シャロンにしてもどこにいてもユリウスは見つけられる。
なんというかユリウスは美しすぎて光り輝いているのだ。
こうして、あらためて外側から見ると、あの人数をかき分けて王子の隣に陣取るのは本当に大変だった。徒労とも知らず過去の頑張っていた自分を全力でねぎらってやりたい。
「では、イザベラ様、私次の授業の準備がありますので失礼しますね」
そういって、王子たちの集団に背を向け踵を返す。もうちょっと見ていたいけれども。
イザベラたちともいたくないし、王子やララ達にもばったり会いたくない。
ユリウスは会えば挨拶してくるが、他の宰相の息子パトリックをはじめとするニックやロイなどご学友たちは妙によそよそしい。
それもそうだ。王子の腕を掴んで舞踏会から逃亡して二人とも戻らなかったのだから。ユリウスはそのことを仲間たちにどのように説明しているのだろうとふと気になった。
「あのシャロン様、男爵令嬢のララ様をあのままにしておいていいのですか?」
なぜかイザベラが追いすがって来る。
「は? なぜですの?」
シャロンが冷たく答えるとイザベラがたじろいだ。
「なぜって、元は市井で育った卑賤の者のくせに生意気すぎません? いつも殿下のそばに侍って」
「バンクロフト様は、この国では珍しい光魔法の使い手、殿下が選んでおそばに置いている方ですから私がどうこう言えることではございません」
きっぱりと言い切った。するとイザベラと取り巻き達に衝撃が走った。
「え! あの、でも最近の彼女の態度は目に余りますわ。誰かが言ってやらないと」
と今度はバーバラが言う。とうとう彼女たちが正体を現した。今までずっとシャロンを嫉妬させ、自分達の憂さを晴らすのに利用していたのだ。それを思うと悪役令嬢がただただ可哀そう。
「少なくともその誰かは私ではないので、あしからず」
ぴしゃりと言い放ち、踵を返して去るシャロンにイザベラが唖然として目を見張る。
「あの、シャロン様、どうか……なさったのですか? 殿下の婚約者にはシャロン様しかいないと常々思っておりましたのに」
「そうですわ、シャロン様らしくありません!」
「私らしくって何? 私は殿下に完膚なきまでにフラれましたから。そのことは、この間も恥を忍んでお話したではありませんか。これ以上傷を広げないでくださいませ。では失礼します」
きっぱりと言い切るとイザベラたちに背を向けた。
願わくば、自分の名前をつかってララを苛めないで欲しいと祈りながら。イザベラとバーバラなら本当にやりそうで怖い。それで断罪されたらたまったものではない。
そしてその日は五度ほどユリウスと遭遇した。ひっそりと行動していたはずなのになぜか会う。
「やあ」
などとあいさつされても「やあ」と返すわけにもいかず
「ごきげんよう」と微笑んでささっと去ることにしている。
本当に何なんだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます