第169話黒巫女召喚士と深紅の魔神その10

「や、やぁ」

「いやあああ!」


 メルに叫ばれるので、さっさと戻る事にする。

 体だけでも躱す事は出来るけど、私の意識は頭にあるからね。

 ちょっと、いやかなり気味悪い。


「よい!」

「リマちゃん?」

「フラン、問題ない。一気にラストパート行くぞ! こっからは高速バトルだ!」


 私は地を蹴る。

 相手の動きは速い。攻撃は遅い。

 なら、攻撃の拳が振るわれるタイミングで跳躍し、相手を超えれば問題ない。

 上半身だけが回転すると言うのなら、背中に張り付けば良い。

 それが今の私なら可能なんだよ!


「フラン!」

「【ブレイク】! がはっ!」


 後、4割!

 姿が変わるようなので離れる。

 今度の姿は四足歩行の虎のような形だが、背中に大量の棘がある。

 レミリアか師匠が壊してくれんかな?


「折角だ。頑張れ」


 弟子に厳しいねぇ。


 ◇


 今、俺の前では理解し難い戦いが始まっている。

 いや、理解しているが理解したくない。

 だって、理解したら完全に力の差と言うのを感じてしまうから。


 見た目や体質が娘とそっくりの人が目の前で、かなり性格が変わって戦っている。

 しかし、目視不可の動きで。

 よく分からないNPCも来て。

 本当にプレイヤーなのか怪しくなる程の強さを見せている。


 手助け出来ない。俺が弱いから。

 こんなのクソゲーじゃないか!

 たった一人の力でしか勝てないような敵なんて!


 しかし、俺の前では必死に魔法陣を書いている娘と仲間達。

 中には娘も居るかもしれない。


 それを見ても尚、俺、俺達に出来ることは既にない。

 ただ、見ているだけのクソゲー。

 せめて、何か出来たら。


「皆さん! これをリマさんに!」


 プレイヤーネームはモフリなのにリマと呼んでいる意味不明な現状。

 渡されたのはクリスタルのようなアイテムだった。


「それをリマさんに! 投げてください!」


 やることも無い。言われた通りに投げる。

 バフが詰まった石だろうか?

 だが、そんな生易しい物ではなかった。

 脱力感を感じる。


 まさか、ステータス数値を一時的に貸し出す効果があるようだった。

 いやまぁ戦闘に参加したいとは思ったけど、なんか違う。


 ◇


 速すぎて見えない。

 どれだけ天使の力を借りようとも使おうとも、モフリはさらにその先に行く。

 追い付けるのだろうか?

 いや、いずれ絶対に追い付く。


 この気持ちは久しぶりだ。

 誰かに勝ちたい、誰かを抜かしたいと言う闘争心。

 この高揚感。

 ステータスが大幅に渡して減ったせいか、1歩も動けんが、目は動く。


「モフリ、待ってろ。絶対に追い付くかな」


「リマちゃんデース!」


 ◇


「リマちゃん! 急に名前叫んでどうしたの?」

「そうしないといけない気がしてね! しっかり捕まってろ! 激しく動くよ!」


 両手を刃に変えて虎のオウガに接近する。

 衝突するタイミングで軽く跳躍して逆さまになって回転する。


 ガキンと棘に当たり回転が止まる。

 刃からジェットのように魔法を放ってさらに押し出して行く。

 棘がある限りフランの手を当てれない。


「はああああ!」


 気合いを込めて力を込めろ!

 相手の体を削れ!

 斬れ!


 ぶちゃ、と私の腕が取れる。

 すぐに腕から魔法を放って元の場所に戻し、足から魔法を放って上空に飛ぶ。

 すると、虎状態のオウガが口を上に向けて開ける。

 そこに閃光が溜まり、一気に放出された。


「意味ねぇよ!」


 暴食の力を解放して突き進む。

 棘に手が触れる。


 オウガは精神生命体、体が魔力に似たような物で出来ている。

 これで棘を食べれば万事解決だ!


 と、思っていた私が数秒前、具体的には0.2秒前の私が思っていた。

 棘と掌が密着する。貫かれる事も弾かれる事もなく、ぷにゅと成っている。


「⋯⋯スライムか!」


 今、この棘は実物化しており、それが柔らかい物、スライムのようなゼリー状に成っている。

 やばい、上手く力が加えられなく後ろに下がる事が出来ない。

 棘が全部一気に伸びて徐々に固くなる。


 まずい。出れなくなった。

 私は出られるが、フランが出られない。

 しかも、天井まで行ったらマジでやばい。


 レミリアか師匠なら魔法か妖術で何とか⋯⋯オウガと同じような色をした物体と戦っていた。

 オウガ、こいついつの間に分裂しやがった。


 まずい。


「フェン!」

「ワオオオオ!」


 棘が凍り付き、破壊しやすくなった筈⋯⋯すぐに氷が砕けて棘が伸びて行く。

 だんだん狭く成って行く。


「う」

「ッ!」


 フランが苦しんでる。

 踏ん張れ私。

 残り全てのMPを使え! どうせすぐに回復すると思うし!


「カオス・バースト・ブレイク・マイズハートネス」


 自分のMPを使えば使うだけ威力が上がる魔法。

 さらに、HPも使う事でさらに火力が上がる。

 ギリギリまで減らしたHPと全てのMPを込めて、発動する。


 私を中心に球体状に広がっていく混沌とした光。

 感覚が混沌としている私がこれを使うと脳に凄いダメージが入る。

 しかし、勝つために、フランの為に、頑張れ私!


「しゃありゃあ!」


 棘を破壊し落下する。

 フランが右手を伸ばす。

 再び棘が伸びて来るが、その前に加速して一気に背中に近づく。


 回復したMPを使って足から魔法を放って加速する。

 なんやかんやで厄介な形態だったよ虎オウガ。


『ガアアアアアアア』

「【ブレイク】! ああああああああぁぁぁ!」

「⋯⋯ふ⋯⋯」


 落ち着け私。

 私は、フランの思いを叶えながらオウガに勝つんだ。


「はぁはぁ。げほ」


 残り、3割!


『ぐがぐがあああかかほたにしなとなたはああやたはたは』


 オウガが狂ったように言語にならない言語を叫んでいる。

 体の形がトカゲのようになった。

 いや、小さくしたティラノサウルスの方が正しいだろうか?


『かかかあかかかあかかかあ』

「何言ってんだよ」

「リマちゃん。行って」

「⋯⋯少しは休むか?」

「一気にラストパート行くぞ! でしょ?」

「はは。ここまで過去に戻りたいと思った事はない。行くぞ!」

「うん!」

『かかあかかあかかさかかさ』


 私は地を蹴ってオウガに接近する。

 ティラノサウルスミニサイズオウガが口から魔法のレーザーを放つので、跳躍して躱す。

 顔を上に向けてレーザーも上に来る。

 足から魔法を放って横にスライドして躱すが、色が変わる。


「なんか避ける先に魔法を顕現させるの好きにになったのかな?」


 足の魔法を操作してオウガに接近しながら躱す。

 オウガの背中に接近したと思った瞬間にオウガの尻尾が飛んで来る。

 狙いは私じゃない。⋯⋯ッ!

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