第165話黒巫女召喚士と深紅の魔神その6

 先方に進んだらそのまま進んだ。

 上に跳躍したら地面に向かって跳躍した事になる。

 多分、あいつの思い通りにパラドックスを起こす事が出来るんだろうな。


「はは。混沌としてるねぇ」


 混沌はなぁ、私の十八番なんだよ!

 色が見えなくても、痛みしか感じなくても、絶対に突破してやる!

 それに、混沌とした感じの現状で負けるとか悔しいだろ!


 オウガに向かって跳躍し、地面に体をぶつける。

 オウガは魔法を使う気配を見せない所から、今の状態だと魔法が使えないのだろう。


「つつ」

「リマちゃん大丈夫?」

「ああ。時間あるっぽいし、他のプレイヤーも困惑してるな。前に歩いているのに後ろに動いてやがる⋯⋯」


 回りを見てそう判断する。

 四獣刀をオウガに向けて投擲する。

 最初はきちんと上に進んだが、いつの間にか四獣刀は私の右腕に刺さっていた。


 師匠達なら何とか出来るかもしれんが、今は痛みにもがいている感じだな。


「攻撃出来ないって事はないだろうが、どうするか分からんな」


 もしも絶対に攻撃出来ないってなるとクソゲーになる。

 ストーリーがないこのゲームで絶対に負けるイベントはないだろう。いや、あるかもだけど。

 だけど、ここでは絶対にない筈だ。


 1回魔法打ってみっか。


混沌魔法カオスマジック【カオスレボリューション】」


 混沌魔法の中でも上位の魔法である。

 混沌としたレーザーがオウガに向かって一直線に伸びる。


「ッ! フラン捕まってろ!」

「え、うん!」


 大きく、【風足】を使って全力で後ろにステップする。

 私のさっき放ったレーザーは先程の私達の位置に降り注ぐ。


「魔法まで、混沌をも矛盾させるとかチートかよ!」


 あんなん不正だ不正! 私は公式が用意したような存在だから多分許される! 畜生相手も同じだよ!


「リマちゃん」

「何!」

「その幻を断つ刀なら行けるんじゃない?」

「確かに」


 四獣刀を地面に刺す。普通に刺さったようでありがたい。

 両手でレイシアから借りた刀を構える。

 先端を上に掲げ、深く呼吸する。

 心を無にしてオウガに集中する。

 私とオウガの距離を計算し、一瞬意識を消す。

 意識を取り戻しオウガが目の前に見える感じになる。

 この状態で刀を振るう。


 レイシア直伝、逆接・夜断よだつ・飛猛


 刀をゆっくりと下ろす。

 ただ、オウガのみに意識を向けた私の動体視力で見えるスピードだ。

 第三者から見たら速いのだろう。


【亜空切断】の技術版。

 スキルを技術で行う超高等テクニックであり、モナでも出来ない芸当。

 スキルの動きを再現し、システムの判断がバグり起こるスキル。

 必要MPはきちんと奪われる。本当ならスキル化して欲しい物なのだが、剣術とは関係ない職業だからか、獲得出来ない。


 空間の距離を無視し、オウガに命中させる。

 パラドックスの空間が消える。


「はっ! はぁーはぁー」


 結構辛い。

 呼吸を止めていたようで肺に空気が戻って来る感覚がする。


「よくもやってくれたね!」


 痛みから解放された超越者達。

 レイシアがオウガの背後に一気に接近して剣を振る⋯⋯えなかった。

 レイシアが空中で完全停止したのだ。


「一体、何が」

「⋯⋯時空固定の能力か、どうしてお前が使える!」

『分からぬか? まぁ、知った所でお前には関係ないだろう。貴様の魂、頂くぞ』

「ず、に、乗るなぁ!」


 オウガは手刀を作り出し、レイシアへと伸ばす。

 だが、レイシアはギリギリの所で空気を蹴って脱出する。

 なんだよアレ。


「レイシア、当分オウガに近づくな」

「レミリア?」

「あれは、特定条件のみに発動可能な限定的な魔法だよ。クロノスの力じゃない」

「うん。師匠クロノスの力だとは思っていない。もしもその場合、私なんかが動けないからね」

「しかし、条件が分からんな」

「レイシアを一時的とはいえ止めれたんだから⋯⋯何回も攻撃される事かな?」


 超越者達がそんな事を話している間にオウガは地面に足を着けている。

 オウガが空手選手のように体を少し横に向け、左拳を腰に動かす。

 そして、私に向かって拳を突き出す。

 今見て気づいたが、右手が半分くらいまで再生している。


「⋯⋯ッ! そうか。そういう事か」

「どうしたの?」

「いや、オウガの右腕の再生に関して、な。と」


 拳から放たれた衝撃波と魔法が合わさった物はすんなり躱す。


「オウガの右腕が再生しているのは、私が魔法を使っているからだ。私の胃袋の中にある。腕は魔力に変換される。その魔力を消費する事により、存在が無いと言うのが無くなり、再生が可能になったんでしょう」

「何故に敬語?」

「気にすんな」


 にしても、ごめんメル。

 四獣刀回収するの忘れて衝撃波と魔法の組み合わさった物の攻撃を諸に受けて、刀身がぶっ壊れている。

 ほんと、申し訳ない。


 後ろからメルの威圧を感じる。もしかしてそう言うスキルが?


「リマちゃんどうしたの?」

「いや、痛みからは解放されたけど、さっきの反動⋯⋯システム的には無いんだけど、肺を酷使してしまった影響か、頭がクラクラするんだよね」

「大丈夫!」

「大丈夫。問題はある」


 少し視界がぶれてオウガが目の前に来たように見えるだけだ。

 て、違うわい!


「くっ」

『さぁ、どこまで躱せるかな?』


 突き出される左拳を横にステップして躱す。

 左拳だけの連撃なんて余裕で躱せる⋯⋯そう思っていた時もありました。

 頭がクラクラし視界がブレている現状。

 突き出される拳の場所が少しブレる。


 1回、2回の拳が体に命中して行く。

 当たれば当たる程により、当たるようになる。


『ぬ?』

「慣れたぞ!」


 そのブレた視界の感覚を掴み、混沌とした感覚取得も相まって拳を躱す躱す。

 反撃として刀を構え⋯⋯くっそ!


 空中をクルクル回転する刀を持った右腕。

 オウガが刀を構えた瞬間を見て、魔法の斬撃を放ったのだ。

 構える為に前方にベクトルを向け、その力をも利用した斬撃ですんなりと斬られる。


「リマちゃん!」

「大丈夫、普通にダメージを受けただけだ。欠損ダメージはこの体に無い!」


 HPもまだ9割残っている!


 腕を回収したらすぐに再生出来る。まさか刀を持った状態で斬られると再生出来ないなんて、違うけどオウガみたいな状態になってしまった。


 バックステップを数回踏んで距離をとる。


『ふん』


 オウガは私の腕へと近づき、腕を掴み上げる。

 その行動を見た師匠とレミリアが魔法を放ったが、それを高速移動で避ける。

 やべぇ。凄くいい予感しかない。

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