第164話黒巫女召喚士と深紅の魔神その5

 直線上に高速で移動し、フランの右手がオウガの背中に触れる。


「【ブレイク】。くっ」

『ぐぞぉが!』


 オウガが左手を横薙ぎに振るう。

 バックステップで距離を取りながら躱す。

 残りHP6割。


 オウガが左手を斜め上に掲げ、その先に氷柱がいくつも先端がこっちを向いて顕現する。

 オウガが地を蹴り私に接近して、左手を私に向けて振り下げる。

 それに合わせるように氷柱も向かって来る。

 バックステップで避ける事はできない。

 そうすれば氷柱に突き刺さられる。

 現在の私なら耐えられるだろうが、フランはそうは行かない可能性が高い。


 暴食の力を使ってバックステップするか。

 だが、暴食の力は自分の体にしか作用されない。

 細胞を広げてフランを包み暴食の力を使ったらフランも危ない。

 何となくだが分かる。今のフランも少しだけ精神生命体の体になっている。

 それだと暴食の許容範囲内に入るので、食べる事が可能になる。

 だから暴食はできない。


 大きく横にステップしても氷柱が飛ばされたら当たる可能性がある。

 魔法で全部吹き飛ばすか? それが出来るか? なんか魔法の周囲に漏れ出るオーラがある。

 それがとても気味悪い。

 それに、色がないのだ。

 あの魔法だと思われる魔法の氷柱に色が無いと言う事は、魔力では無いと言う事。

 それが本当に怪しい。


「リマちゃん!」

「グダグダ考えるなんて、あーしじゃねぇよな! だけど、⋯⋯」

「リマちゃん。私は大丈夫だから。本気で避けて。あれは、怖い」


 ⋯⋯はは。

 私もフランを分かっている。フランの私を分かっている。

 そして、この場合は仲間を頼る!


「イサ、本気で防げ!」

「ガル!」


 私は小さくバックステップ、オウガの手が当たらない距離まで移動する。

 氷柱と私の隙間にイサが入り、氷柱を盾で防いでくれる。


「ガル」


 今のうちに脱出する為に動こうとするが、反対からも氷柱が来ていた。

 バックステップ、間に合わない!


 だが、私の目の前に銀色の毛並みを持つ大きな狼と、純白の鎧を着て、天使の輪に翼を生やした男が割り込む。

 フェンとサトシだ。

 フェンは攻撃が役割の召喚獣である。

 長い間耐える事は無理⋯⋯いや、オウガの背後に見えた影的に問題なさそうだな。


「こっちもきちんと見なよ!」

付与魔法エンチャントマジック【アンチスピリチュアルデモンズゴット】」


 レイシアの剣に光が灯る。

 それを感じたのかオウガが大きく横にスライドのようなステップをして避ける。

 お陰で魔法も消える。


「サトシ、無事だったのか!」

「ああ。よく分からないが、飛ばされている途中でおじいさんに止めて貰って、ここまで投げて貰った」

「すげぇおじいさんも居たもんだな。フェンもありがとう」

「フォン」

「ガル!」

「イサもだよ」

「にしても、その体⋯⋯」


 背中から職種が伸びてフランを固定している部分を見てサトシが何か言いたげな顔をしている。

 気にするなよサトシ。


『グズ共が』


 オウガのその決めゼリフ(?)を言う時大抵焦っている説が私の中で濃厚になっている。

 フェンを1度さらりと撫でて地を蹴りオウガへと接近する。

 レイシアが1度オウガの背後に回り込み、オウガが腕を払うが、レイシアがひらりと前方に移動してオウガを斬る。


「【カオス・キャット・ステップ・ムーブメント】」


 直線に高速移動して、スキルが切れるタイミングを見計らい横にステップする。

 クルンと向きを変えてオウガの背中をマークする。

 オウガは地面に魔法を放って上に上昇して、空中で体勢を直して着地する。


 その場所に師匠の妖術の龍を放った。

 魔法のレーザーを放ち、龍を霧散させてレーザーを横に動かす。


「そい!」


 大きく跳躍して躱し、グルンと宙返りする。

 回転する度に2本の刀が光を帯びる。


「モードチェンジ、【白虎】。剣技混沌魔法ソードカオスマジック【スラッシュカオス】」


 2本の斬撃がオウガの元に飛んで行く。

 フランが目を回していないか心配になったが、目を瞑っているようだ。

 安心なんて出来ない。ジェットコースターだって目を瞑った方が怖いのだ。


「大丈夫だったか?」

「うん。少し頭がクラクラするだけ」


 オウガはさっきの斬撃を諸に受けたが、あまりダメージは無いようだった。


 オウガがゆっくりと上昇して行き、手をピンピンに横に伸ばす。

 足の裏を引っ付ける。


「じ、十字架、か?」


『絶望に染まれ。【デット・オブ・パラドックス】』


 私の見える色が一気に変わった。

 様々な色や怨念に染め上げていた視界が黒くなった。


「うっ、グギギ。がァァァァ」

「リマちゃん?」

「大丈夫、だいじうぶ」


 痛い痛い。

 なんだこれは?

 見える真っ暗な空間が脳を焼いてくる。空間から感じる感覚が私を蝕んで来る。

 虫が私の体に纏わりついて体を食べられているような感覚だ。

 気持ち悪さと暑さと痛みが全身に走る。


 しかも、この痛みはプレイヤーとフランには作用されない。

 イサ、ハクにクロ、カル、そして師匠にレミリアにレイシアが苦しむ。

 私はプレイヤーだが、3分の2は同じ召喚獣であり、この世界限定の人格であるが故に同じ痛みを感じる。


 プレイヤーを除いた全ての存在に作用する魔法なんてなんの意味があるんだよ。

 いやまぁ意味あったんだけど。

 まずい。師匠達が上手く動けてない。

 魔法が使えないレミリア、妖術が使えない師匠。

 唯一超越者で動けるのはレイシアだが、1番痛そうにしている。


「⋯⋯感情か?」


 今、レイシアはほんの僅かに怒っている状態だ。

 そう考えると、感情が濃く出ている程

 魔法に作用され易いと判断出来る。


「リマちゃん大丈夫?」

「あぁ。一応寝ているだけで人格はあーしの中にある。だからこの痛みだけを全部本体に押し付けた。きっと悪夢でも見てんよ」

「リマちゃん。モフリちゃんが可哀想だよ」


 あ、私よりもモフリの味方するのね。嫉妬すんぞこら。


 と、言っても少しだけ痛みは感じるんだけどな。

 それに本体だけじゃなくてモナやナミにも共有させて貰っている。

 皆で平等に痛みを味わっている感じだ。


「オウガは今動いてないし、攻撃出来るか?」


 地を蹴りオウガに接近する。

 動きにちょっとした鈍さを感じるが、オウガの下へは来れた。

 跳躍してオウガにフランを近づけ⋯⋯あれ?

 どうして私の目の前に地面があるんだ。


「ぐ」


 しかも受け身を取れず、驚速に加速して地面に落下した感覚が体を襲う。


 パラドックス、矛盾。これに何か秘密があるのかもしれない。

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