第137話黒巫女召喚士(悪魔)とサトシ(智天使)の呆気ない幕切れ

「貴女は私を舐めている。私が魔法を唱えたら貴女を倒せる」

「そうかもね。でも、唱える前にガムテープでその口を塞ぐ。私のスピードは知っているでしょ?」

「ぐぬぬ」


 現在糸でグルグル巻にされたリンとオレンが会話をしていた。

 目の前ではムニンが魔法士であるランに猛攻撃しながら何処からか駆け付けたプレイヤー達の攻撃を捌いては倒していた。


「ランさんのデバフは優秀。ムニンが活き活きしている」

「デバフで活き活きされる此方の身にも成って欲しい。速く消えろ」

「本当、優秀。長時間固定ダウンは本当に優秀なデバッファー。相手が悪い」

「その相手の1人は貴女もなんですが、貴女の名前は?」

「私はオレン」

「そうですか。あ、頭で受け流しヘッドパリイしている」

「デバフはSTRが上がったから角でああ出来る。器用だと思う。角にも当たり判定があるようだ」

「だけじゃないね。首を振って受け流してその勢いを殺さないで回転斬りに移している。動きがキモイ」

「それは失礼」

「すみません。でね。本当にこれって窮屈なんだ。吊るされているし足が広げれないし、解放して欲しいな〜〜」

「めんどう。拒否」

「絶対嘘だね。双子キャラ被っているにそっちは2人とも双剣なんだね」

「そっちは同じメイジ」

「あっちはアタッカーこっちはデバッファーで役割は違うよ」

「だね。う、眩しい」

「あれ? 本来の姿を出した光は分かるけど、この光はまさか! はは、そっちのクラマスは終わったね」

「そうかな? 私達のお姉ちゃんは強いよ。初心者だけど」

「⋯⋯あの動き出来る人は初心者と言わないよ」

「うん〜それはちょっと、説明困難」


 最初に戦ったのはモフリであってモフリでは無い。


 ◇


「まさかここまで全力を出す事になるとわね。お貸しください貴女の力」


 危険があると思いバックステップで距離を取り、警戒してサトシさんを見る。


「メダルセット!」


 サトシさんの前にメダルが現れそれを握る。

 1枚のメダルを私に見せつけるかのように掲げて、開いている大剣の持ち手にセットする。


「今こそ断罪の時なり、可の罪を可の剣で裁き、可の罪を晴らせ、天使、サンダルフォン様。今こそそのお力を! 【天聖なる断罪の剣】!」


 大剣が大きくなり、それがゆっくりと振り下ろされるだろう。

 だけど、その大きな振り方は私達の前ではありがたい。

 反応が1番速いのはナミ。すぐさまナミが意志を向け、ゲームのAIが読み取り、スキルが発動される。

 サトシさんの前に現れるのは小さなネズミ。

 ハムスターであるハムちゃんだ。


「大きくなれ!」


 ハムちゃんがその体積を大きくしていく。


 本来なら剣によってハムちゃんは斬られていただろう。

 だが、剣では無く腕の位置に召喚され、さらに相手はまだ振り下ろせていない。

 大きくなったハムちゃんに寄って腕が押され、スキルは不発となる。

 強制解除フォースキャンセルとなったのだ。


「があああああ!」


 反動はあるようで動かないまま倒れている。

 サトシさんもこの状況が呑み込めていないのだろう。


『さっき見たスキルのキャンセル。いやー土壇場だったけど使えて良かったわ〜』


 私はサトシさんに近づき、ハムちゃんは小さくなってネマちゃんの触手に掴まれて、私の首元まで来て巫女服の内側に入る。


「まさか、まだこんな隠し芸があったとはな。もう無いと思い油断した。初歩的な【召喚】を見落としていたよ。そんな速く召喚出来る物なんだな」

「あははは」


 魔王の称号のお陰だろうね。


「完敗だ」

「そうですかね。結構押されていましたよ。ただ、最後の攻撃が最高に私と相性が悪かっただけです。後10メートルくらい離れていたら攻撃を受けていました」

「そこも計算していたのか。あの戦闘の中で君はどれだけの計算をしているんだよ。全く」

「あははは。今回は偶然ですよ」


 ナミが来たから出来た芸当だ。


「次、再び戦う事があるのなら、その時はまた、戦ってくれるか」

「はい。その時、私はもっと強く成ってますよ」

「それは俺もだ。智天使の力、もっと使って馴れておく事にしよう」


 あ、余り使っていなかったんだ。

 ま、本当に今回はお膳立てが良く出来ていた。

 皆が他の敵を抑えて、私達の1対1ワンオンワン出来たから良かった。

 それにカルマポイントのお陰で私のステータスは上昇した。

 ネマちゃんの領域系スキルの存在がバレたらこうは行かなかった。

 相手が私達の妨害をする為に使ったデバフ系のスキルは全て裏目に出る初見殺し。

 多分。今回のでその影響が空に出ているオーロラか地面に広がる黒紫のサークルだと思ってくれるとありがたい。

 今は天井が出来て、人工的な光によってオーロラ見えないけど。


「最後に聞かせて欲しい。君の職業は?」

「私は、召喚士ですよ。もう1つは黒巫女。種族は悪魔公デーモンロード。貴方の対の存在です。あ、自分はワンオンワンって思っていますが召喚獣の力は使わせて貰っていますよ」


 ネマちゃんの触手攻撃が無かったら妖術の発動は出来ん。

 まじで、本当に、私1人ではワンオンワンでも勝てない。


「さて、どうやって俺にトドメを刺す?」

「それは、楽に逝かせたいのはヤマヤマですが、HPが削られた分と減らした分で36しか無いので回復させて貰いますね」

「後僅かだった!」

「深淵の牙、展開」


 右手から深淵の牙が出現してサトシさんの首にカプリと噛み付く。

 噛み付き攻撃だが、この牙には相手の生命エネルギーを吸収出来る能力がある。

 HPが回復して行く。


 ちなみに師匠達に試したら全く意味が無かった。寧ろ吸われた感がある。

 師匠のお父さん方にするのは気が引けたので試していない。


「⋯⋯結構暇だな」

「地味ですからね」


 大きな牙ならともかく、掌サイズの牙ですからね。

 仕方ないですよ。


「何時までノックダウン状態なんですか?」

「後、2分だな。HPの残量と減り具合から回復は間に合わない」

「なら、良かったです」

「あぁ、翼が黒く成って行く」

「寧ろ消滅していますね。天使の輪も。再戦する時はきっと私も悪魔っぽく成っている事でしょう」

「不便だぞ?」

「え?」

「天使の輪なんか眩しいし、明る過ぎて朝でも目立つ。どれだけ必死の思いでこの姿を封印するスキルを得た事か。町に行く度に指を刺されるんだよ。しかも、翼はでかいし当たり判定があるから自分の攻撃される部分を大きくしてるし、翼が1枚でも斬られたら飛べなし、町中では凄く睨まれんだ」


 なんか、辛い思いをしたんですね。


「今では教皇になっいるが、実際は天使様方に俺の行いが認められ、ワルキューレ様達に天使へと転生させて貰い、その功績で聖騎士パラディンになる為に入った教会で次期教皇候補に成って。その町で流行った疫病で教皇は病死して、俺が教皇になって、ガブリエル様によって疫病は止んで、はは。教皇は使徒のNPCに縛られて自分の時間があんまり取れないんだ。仲間とのレベリングを数回ドタキャンした事もある。力は得たし皆を率いる強さは得た。だけど、俺はゲームまで縛られた生活をしたくなかったよ」

「あはは。そう言うのって設定で消せませんでしたっけ?」

「オブジェ状態ならね。スキルとかに関わると消せないんだよ」

「そうなんですね」


『なんか、段々と愚痴になっているな』

『きっと何かを溜め込んでいたんだろうよ。仲間には言えないんじゃないか? 仲間の前だと「ザ、カリスマ男」じゃん?』

『確かにな! あのキザった男がここまで根暗な言葉を漏らすって面白過ぎてやばい』


 こう言う時は仲良いよね2人とも。


「まぁ。何かあったら愚痴くらい聞きますよ。仲間には言えない事でも、内のメンバーは皆優しいですから」


 人見知りはいますけど。


「はは。最後にこんな事を漏らしてごめんね。ありがとう。翼とか悪魔の輪的な物が出来る予定なら、それが出来る前に封印系は用意しておく事をおすすめするよ。ドアを通る度に横向きに成りたく無いだろう? NPCの人達からも嫌な目で見られて好感度がダダ下がりするんだ。出禁に成った俺が保証するよ」


 わぁそれは確かに納得出来ますね。


『大変そうだな』

『カッコイイだけじゃない。不便なんだよ、か』


「隠蔽はダメなんですか?」

「姿は隠蔽出来ても当たり判定は変わらないよ。簡単に隠蔽がバレる」


 試した事ありそうだね。


「にしても長くないか?」

「これ、そこまで強い術じゃないですからね」


 MP30使うけど。

 フレンド機能が使えるので、登録しておいた。

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