第135話黒巫女召喚士と天使の騎士

「【変身】」


 サトシさんは大剣の開いた所に長方形の何かを嵌め込み、閉ざして大剣を掲げて叫んだ。

 次の瞬間、なんの比喩でも無く、天から光が降り注ぎサトシさんを包み込んだ。

 鎧が金色に光って行き、その形を変えて行く。

 フルプレートアーマーに銀色の大剣。

 兜の上には天使の輪をイメージした物のような物に、天使の翼のような純白の翼が左右に2枚づつ。


天使の騎士エンジェルナイツ


 負けた。これは、負けた。

 完全にビジュアルで大負けした。完全敗北とは正にこの事。

 相手は天使、私は悪魔。

 対の存在ではあるが、それを除いても何もかもが違う。

 サトシさんが飛べるか分からないけど、あの綺麗な翼で飛んだらさぞかし綺麗だろう。さらに天使の輪よ。

 一方私はどうだろうか? 飛べるが翼なんて生えないしカッコイイオブジェクトが着く訳じゃない。

 ムニンちゃんみたいなアクセサリーを持っている訳じゃない。

 しかも、しかもよ。

 相手は騎士と言う立派な立場的な職業を持ち、さらに教皇って言うサブなのか分からないサブ職を持っている。

 対して私は肩書きと職業だけで神社を切り盛りしている訳でも無い巫女。

 神を祀るはずの巫女なのに黒。


「白黒合戦では完全に負けている」

「え?」


 相手は装備も翼も武器も銀色に対して私は服は黒色だけど赤色も入っているし、武器の刀なんてさっきの技に寄ってずっと緑色。

 前はともかく、今ではイサちゃんは黒紫、マナちゃんはカラフル(黒白は無い)、ネマちゃんも黒色だけど自由に変えれる。

 ハクちゃんは白だし、カルちゃんは黒いけど鎧的な部分だけで本体は緑色だし。

 白黒では完全にこっちは黒で劣っている。


「まぁ。いいや。勝負に関係なしね!」

「?」


『『完全にサトシの奴完全に理解不能になってるわ』』


 サトシさんは自分の大剣を地面に突き刺した。

 その行動に訝しながらも私は武器を離したら消えてしまい、ネマちゃんのMPも回復していないので離せない。

 離す気もないけど、警戒しながらサトシさんに接近する。


「刀なんて危ないだろう? 銃刀法違反だ」

「なっ!」


 刀が、地面に勝手に落ちた。

 手をすり抜けるように落ちた。

 だけど、それはあくまで『落ちた』と言う現象に過ぎない。

 何故なら、刀が現在だからだ。


「この場ではある程度の法律は厳守され、俺の任意で発動可能なんだよ」

「殺人罪は?」

「ここでは合法だ!」


 意味不明!

 だけど、これは相手にも言えるのだろう。

 しかし、私とサトシさんしか効果が無いようだった。

 もしもこの空間に居る全員だったら、多分サエちゃんは普通に戦っていただろう。

 シュラも自身で攻撃出来る。セカイちゃんは武器無しでも問題ない。そもそもあれは銃刀法違反に該当するのだろうか?

 そして召喚獣には適応されないだろう。

 ま、今関係あるのは私だけなんだけど。


「と」


 突き出される拳を横にステップして躱す。

 あれ? これってもしかして永続的な感じ?


「ある程度の護身術は学んでいるんだよね」

「へぇ。それはお互い様ですね」


 私も貴美ちゃんに習ってモナが何回か再現した事がある。

 だけど、正面から拳でやり合うつもりは毛頭なし。

 多分、相手も同じだろう。

 構えは取るが、狙いは別にある。

 ネマちゃんとの刀が消えるかもしれないので、早めに掴み取りたい所ではある。


「行くぞ!」


 サトシさんが地を蹴り接近して来る。


「速っ!」


 モナの圧倒的な嫌な感じの気配取りでギリギリで躱す。

 鎧を着ているにも関わらず、この速度を出せるとか詐欺にも程がある。


「風刀、展開」


 忘れては成らないのは、【風刀】は斬撃を生み出す妖術じゃない。サトシさんには使った覚えないけど、これは刀を生成する術だ。

 周囲の空気が固まり、刀を生成する。

 銃刀法違反? 自然現象に憲法なんざ関係ない!


「【聖魂】」


 サトシさんの拳が光、風の刀と衝突する。


「風魔、展開」


 左ふくろはぎから黒色の風が巻き起こる。

 風はいくつかの塊で生成されて放たれる。


「【ブロック】【クロスブレイク】」


 その風を手を高速で動かして生み出した斬撃で防いだ。手刀である。


「チャージ」

「深淵弾、展開」


 両手を組んで腰の方に持って行ったので、その隙に最も構築の速い深淵系の妖術を使う。


「遅い!」


 チャージ言ってから2秒も経ってない!


「【天聖爆轟裂破】!」


 両手を私の方へと突き出して放たれる聖なる光のレーザー。


『かなりの大技だな』

『避けれん』


 妖術の構築? 【風魔】では無理。アレは? あれには30秒の構築時間がいる。

 間に合わない。

 なら、使うしかない。私の取っておきを。


 私は右手を前に突き出す。


「『『聖なる? そんなの関係ない! 全てを喰らい飲み込め! そして己の糧と成れ! 【暴食ベルゼビュート】! ご飯の時間だ!』』」


 師匠達の特訓で何回も使った【暴食ベルゼビュート】。

 そのせいか、だいぶ扱う感覚が分かるように成っている。

 前の巨人との戦いでは勝手に悪魔が自らの体積等を大きくして食べていた。

 あれは形が定まって居らず口だけと言う気持ち悪い感じになったが、今はあの頃とは違う。

 明確なイメージを持ってその形を形成出来るように成っている。

 だけど、変わりに内部から何かが出て行く感覚も分かるように成った。ナミが出来てから鮮明に分かる。本当に気持ち悪い。

 腹の中央から何かが内部を巡り手から出て行く感覚。痛くないけどただ、気持ち悪い。


「なんだと!」


 出て来たのは龍である。

 何故龍か? 今回はレーザーで長いので長めの体を選択した。蛇は見栄え悪いから。

 だが、正直これは気持ちの問題で、性能的に全体に広がる口で十分だ。

 だってただ私の胃に入るだけだもん。

 何回もやっているけど、この腹に溜まる暖かい感覚は慣れない。

 てか、ナミのせいで鮮明に感じてさらに嫌な気分に成る。


『すまんな。これはアタシでも制御出来んのだ』


 無意識計算領域(愛梨ちゃん命名)のせいでこのような内部データで起こる事を正確に把握出来るのだ。

 ただ、半分くらいデメリットでしかない。


「はは。これは参ったな。まさかこんな力があったとは。どうした?」

「いえ」


 少し気分が悪く成っただけです。

 その強い意識がモナにも影響を及ぼして少しガックリとしている。


『いや。わたしもコレには慣れて無くてな』

『皆同じか』


 ま、3人格で1人だからね。同じ体なんだから苦手な物も同じなんでしょ。


『わたし辛いの好き』

『アタシ甘いの好き』


 私はどっちも好き。


 さて、そろそろ集中しようか。

 サトシさんが棒立ちのままだけど、もしかして反動なのかな?

 取り敢えず刀は拾いたい。


 私は刀の方へと走り出して刀を掴んで、向きを変えてサトシさんを見る。


「遂に制限時間が終わった。これで本来の姿に成れる」


 な、それはあくまで前座だったと?

 結構強かったけど。ダメージ与えられてないんだけど?

 攻撃して防がれて食べただけなんだけど!

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