第130話理性の戦闘前

「にゃあ」

「おかえり」


 マナちゃんにもたれ掛かり休んでいると、ネマちゃんが帰還して来る。


「うん? メールだ」


 メルちゃんからのメールが来たので見る。

 その内容を見て、私は絶句したけど急いでマナちゃんに乗り、飛んだ。

 イサちゃん、ハクちゃん、カルちゃんは戻しておく。ネマちゃんは背中へ戻す。


『オレンの位置があまり移動していません! 何か会った可能性があります! いざと成ったら力をフル活用してください!』


 倒されてもデメリットは無い。だけど、助け合いは基本だ。

 私達のような友達のエンジョイクランなら尚更だ。

 更に言えば。


「妹を助けれない姉は姉じゃない! マナちゃん全力前進!」

「ギャラー!」


 ◇


 オレンは現在交戦状態だった。

 逃げようと思っても敵が多く抜け出せない。


「速いだけだな」


 正面に居るのは緑色の髪に青色の鎧を着込んで大剣を構えている騎士。

 対する左右には見た目が似ている2人の女性。

 オレンから見て左側が魔法士、右側が聖職者だろう。

 現実なら双子を侍らせているミニハーレム主人公だ。

 しかし、オレンの背後には彼らと同じくらいの風格がある男がいた。

 武器は槍のようだ。

 重戦士、魔法士、聖職者、槍騎士。

 バランスの良い4人のパーティを筆頭に有象無象のクランメンバーであろう人達。

 クランエンブレムが装備に刺繍されているから一目で分かる。


(ムニンなら、勝てたな)


 ムニンは現在火力も出せる。

 しかし、オレンはそこまで火力が出せない。

 武器のスペックが高く、相手の急所を付けば上手く相手を倒せるだろう。

 しかし、それをさせないのが聖職者。

 聖職者のような見た目だが、扱うのはデバフ。

 デバッファーである。ちょっとした回復なら使える。


「1つ、質問しよう。我々のクランに水の弾丸を何回も何回も放って来たのは君達のクランか?」

「こっちは対策で面倒だったのよ!」

「どうなんですか!」


 緑の青年の発言に対して双子の女性が便乗。


(あの騎士、お父さんレベルだな。後ろは動く気配なし。ま、この周りから秀でてる人の4人しか私に攻撃が当てれないと踏んでいるんだろうな。さて、どうしたものか)


 オレンは自分の姉の姿を思い浮かべる。

 リキャストタイムが終わってから再び引き金を引く姉の姿が。


 ちなみに三姉妹のお父さんの実力は同じステータスでムニンとオレンを同時に相手取れるレベルだ。

 しかし、それはムニン達が小学5年生の頃であり、実力が今とは雲泥の差であり、父とは圧倒的な差は既に無い。


「そう、と言ったら?」

「クランホームの場所を教えてくれないか? 報復に行く」

「それで言うと思って?」


(そもそも見つけれないでしょ。見た感じサモナーやテイマー居ないし)


 取り敢えず人の上を走って逃げるか、とオレンが考えた次の瞬間、足元に魔法陣が現れる。


「しまっ!」

「遅いです。【マリオネットロック】」


 紫色の鎖がオレンを縛る。

 ある程度のSTRがあれば引きちぎれる。

 しかし、オレンにある程度のSTRなんて存在しない。


操り人形マリオネット、嫌な響だな)


「⋯⋯種族が魔よりだった。選択間違えた」

「魔法で倒そっか?」

「いや、俺がトドメを刺す」


 騎士はオレンに近づいて、大剣を振り下ろす。

 大剣は先端に黒いシャラシャラした物を付けた棒で弾かれた。


 ◇


「居た!」


 下を見るとオレンちゃんと大量の人が居た。

 うっ結構目にダメージが来る光景。

 て! そんな事よりも急がないと。


 しかし、オレンちゃんに【呪縛】のような物が絡み付き、1人が近づいた。


 その瞬間、私の頭に何かの映像がフラッシュバックした。


「やらせない」


 マナから落下する。

 インベントリを開き、お祓い棒を取り出し、後ろの端を持ち、【風弾】の霊符を貼り付ける。


「飛んでけぇ!」


 お祓い棒を投擲する。


「解」


 霊符を解放してお祓い棒を加速させて放つ。

 大剣に衝突してギリギリで弾いて何とか防いだ。


「【飛翔】」


 飛んで落下ダメージを無くして地面に着地する。

 仮面のせいで視界が悪な。マナは念の為戻しておこう。


「オレン、大丈夫」


 インベントリを操作してお祓い棒をインベントリに戻す。巫者の大鎌を取り出す。

 こいつならこの鎖を絶対に切れる。

 絆で作った武器が意味無いかもしれないからな。


 アタシはオレンの頭に手をおく。


「アタシが来た。もう、大丈夫」

「お姉ちゃん?」

「後は、お姉さんに任せなさい。そして、皆をクラン事呼んで来て。この大軍。アタシ1人では突破不可。ある程度ポイントを稼いでデスルーラする」

「う、うん」


 鎌で鎖を斬る。


「行かせるな!」

「【ウィンドバレッド】」


 杖の先端をオレンに向けて魔法を放つ。

 直線上に魔法が行くよう。

 空気なので視界の空間が少し揺れている。

 飛行速度から計算してタイミングを合わせて鎌を振るう。


「なっ!」


 この鎌なら魔法も斬れる。

 なかなかに使えるな。

 オレンのスピードなら余裕で逃げれる筈だ。


「急いで帰って」

「うん」


 オレンが消えた。この速さ。敵に成ったら勝てないな。見えねぇ。


「さて、ウチの仲間を倒そうとした事、後悔させてやるよ」

「いきなり来てなんなのよ! この人がどんな人か知ってんの?!」

「⋯⋯いや、知る訳ないやん。なんなん? 最初の印象はただのキザった男よ」

「そうか。まぁ良い。皆! ゆけ!」


『おおおお!』


「大群で攻めて来るか」


 そんなの、関係ないけどな。


 跳躍して回転し、鎌の先端を近くに来たプレイヤーの顎を貫通させて、地面に着地するのと合わせて持ち上げ、頭から地面に叩き付ける。


「かなりのやり手だな。バッファーは俺にバフを! リン、デバフを頼む! ラン、俺に合わせて魔法を! タツキ行くぞ!」

「おうよ! 暇だったから良かったぜ!」


 おう、ちょっとした脱力感があるな。

 魔法士は火の波のような物を出して来る。


「【断罪の剣】【天使の加護】」

「【フロストジャベリン】」


 投げられる槍、輝く剣に上空には天使の羽。


「6、もう少し情報が欲しいな」


 振り下ろされる剣は威力がかなりの高さ、エフェクト的に斬撃が飛んで来る的な物じゃない。

 氷の投槍フロストジャベリンの方は躱せるけど、先端の冷気が近づくだけでも影響があるなら辛い。

 天使の加護、未だ未知数だな。

 デバフでステータスも下がっているし余裕を持っての行動が必要だな。


 体を後ろに仰け反らしアタシの上を槍が通過。

 足を上げてバク転のように後ろに下がり剣を躱す。

 放たれた魔法は鎌で斬る。


「柔軟だな」

「身体を動かすのだけは得意なんだよ」

「そうか。そうだ。俺が他の人の名前を言ってしまったな。だから俺も名乗るよ。俺はサトシ」

「アタシは、パールビールパラパラピックシーランパパプゥクススランラン、です」

「うん。純粋に嘘だな」

「正解。おめでとう。報酬はアタシの名前。アタシは⋯⋯アタシは、アタシ⋯⋯アタシの名前って何?」

「えぇ。声音で素なんですが」


 モフリは本体。モナは別。

 だったらアタシは? え、まじでどうしよう?


「と、取り敢えず、『理性さん』とでも呼んでおいて」

「そうか。俺はミネルバ教の教皇であり、聖騎士パラディンだ」

「サブ職」

「あぁ。教皇だ。俺のクランでは俺だけがサブ職を持っている」


 ミネルバ教、か。

 全く知らんな。我が仲間なら知ってるかも。

 本体、情報には疎いんだ。

 何回かサトシの表情的に知っていて当然か、ってのが手に取るように分かるわ。

 時間を稼いで皆が来るのを待つ。


「仲間が来る前に倒させて貰うよ」

「ま、それりゃあね」

「さて、そろそろ会話を終わらせようか。皆も待ってくれているしな」

「そうだな。先に言っておくよ。アタシのクランは小規模クラン、ユグドラシル。あんたらに報復し『核玉』を破壊するクランの名前だ」

「俺らは大規模クラン、司法森羅だ。俺らのクランにちょっかい掛けた事、後悔させてやる」

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