第127話シュラの性能テスト

 シュラが地を蹴り1番近い正面の指揮を取っていた人に接近してユシルを振るう。

 対する相手は短剣で上手く受け流す⋯⋯が、高速で刃の向きを変えて振り上げたユシルに深く切り裂かれる。


「ぬっ」

「コイツ、切り返しが速い」


 相手も経験者揃い。シュラの切り返しが速い事にはすぐに気づいた。


 ガッシュウウと口の位置である所から白い煙を息を吐くように出すシュラ。

 付近に居る3人のプレイヤーがシュラに向かって接近する。

 2人のプレイヤーが火縄銃の引き金を引いて弾を放つ。

 迫り来る3人のプレイヤー。接近して来る2発の弾。

 シュラ刀を掲げる。


「【豪華炎】」


 シュラを中心に炎の渦巻きが起こる。


 シュラに内蔵された機能は幾つかある。

 シュラが魔法を使えるのもその1つである。

 剣の状態では持ち手に刻まれたエンチャントスペル。

 人間状態だと掌に刻まれている。

 刻まれているエンチャントスペルは様々な魔法が使えるようになるルーン文字である。

 マーリンが何処まで行けるんだろう? と軽い気持ちで刻んだ結果だ。

 なので、魔剣であるシュラは自前のMPがある。

 しかし、それでも本来は僅かなモノ。上級クラスの魔法である【豪華炎】は使えない。

 それを可能にするのがシュラの背中に刻まれていたスペルは魔力、プレイヤー的にはMPを保存出来る物がある。

 本来ならアクセサリー等にあり、前もって魔力を込めて必要な時に取り出す。

 それを魔剣に搭載しているのだ。さらに、魔法を極めたマーリンである。

 保存可能な魔力量も相当な物であり、マーリンがクランホームに住んでいるので何時でもチャージ可能。


「コイツ、魔法剣士か」

「辛いな。一旦引いて遠距離から攻撃するぞ。これは訓練じゃない。戦争だ」


『ハッ!』


 戦争と成れば様々な兵器を使う。

 しかし、そんな兵器はここに無い。

 だが、魔法やスキルがある。


「羅天流、修羅刹」


 最初に深々と斬られたプレイヤーに接近して刀を振り上げる。

 大量のダメージエフェクトを散らして消えた。


「言イ忘レテイタガ、上ノ刃ハ使ワナイ」


 ここはあくまでシュラの性能テスト。

 己が力以外の刃達を使う事はしないと断言した。


「へぇ、それはありがたいね。【弱点補正】【ピンポイント突き】」


【気配遮断】【無臭】【無音】のパッシブスキルを持っている暗殺者のような存在である。

【弱点補正】で相手の弱点を察知。その弱点を【ピンポイント突き】で完璧に刺す。

 その単純だがそれ故に使い易いスキルコンボ。

 だが、相手がプレイヤーやモンスターなら通用しただろう。


「な、無い?」


 シュラに刺された短剣は刺さる事無く少し弾き、拳を振るう。


「ぶふ」


 かなりの勢いで後方に吹き飛ぶプレイヤー。

 ダメージエフェクトは殴られた痕のように成っているが、それは違う。

 シュラの拳はどれだけ固めようと本質は『剣』。

 全て斬撃の攻撃となる。


 刺さらなかったとは言えダメージエフェクトを出す訳も無いが少し傷が付いていた。

【自己修繕】を持っているのですぐに治る。

 ユシルに黒炎が宿る。


「【黒炎斬】」


 吹き飛ばした相手に対して炎の斬撃を放つ。

 放たれたプレイヤーは斜めに体を斬られてデスした。

 放たれた火縄銃が3発。

 銃は一定の火力と速度が出せるのが特徴の武器。

 その一定よりも速い場合は躱されるし、それ以上の火力なら壊される。それを防ぐ防御力があれば防げる。

 シュラの場合は速度だ。

 刀を振るい弾を斬る。斬り方にもやり方がある。

 斬った後でも飛んで来るので自分に当たらないように斬るのが正しい。


「コイツには銃は効かないかもしれん」


 最初の指揮を取っていたプレイヤーが復活して2分間の無敵時間の間で指揮を取っていた。

 自衛隊の訓練で行っていたこのクランは魔法を使う人がいない。

 使えるのは近接格闘術や銃。他には剣術などである。

 シュラは相手から攻めて来ないと判断して左側近くに居るプレイヤーへと高速で突進した。

 悪質タックルように腕を前に構えて突撃した。

 勿論、そのタックルも斬撃である。

 ノックバックしたプレイヤーが射程範囲に居る間に刀を振るう。

 その速度、角度、力の加え方。

 それは正に侍。それもかなりの強者つわものである。


「ソロソロ本気デ行コウ」


 強化系のスキルは無くても魔法がある。

 しかし、それは使わない。

 シュラは左手を掲げる。

 その手に収まるかのように柔らかい刀が収まる。

 鞭剣、フレである。


「行け!」


 指揮の男の指示に寄って四方八方からシュラを襲う。

 中には投げナイフ。投げナイフはステータスによって投擲速度が変わる。

 火縄銃よりも速い。


「甘イ」


 左手を器用に操作して鞭剣を操り投げナイフを弾き、近くのプレイヤーの足に引っ掛ける。

 鞭剣自体にも自我があり自分で自分の体を操れる。

 クルリと足に巻き付いた。この時に足を斬ってしまわないように刃を反対にする。

 シュラは左手を強く引く。

 鞭に足を縛られていたプレイヤーはバランスを崩して倒れる。

 だが、地面に倒れる事は無い。


「翠嵐流、翠光すいみつ


 静かに、足音無く接近してその首を静かに、綺麗な切断面を作る。

 ダメージエフェクトを大量に撒き散らし、デスエフェクトを見せる。

 その無駄の無い動きに自衛隊の人達は唖然とする。


「永蘭流、永久飛雪」


 ゆっくりと1歩、そして高速で移動する。

 近くのプレイヤーには刀で切り飛ばし、生き残りは蹴りでトドメを刺す。

 離れている人に対しては鞭剣を伸ばして首に巻き付け、フレ自身が力を込めて首を斬る。

 フレをクランホームのシンプルな建物に掲げられている旗に巻き付け跳躍。

 プレイヤー達を見下ろす魔剣。


「破天流、奥義、波乱万丈」


 フレを手放し、両手でユシルを構える。

 相手からは見えない高速の斬撃。だが、どうしてだろうか、その動きがゆっくりに見える。

 綺麗な、そして小さな闇の三日月。

 太陽の逆光に輝くシュラ。

 一閃に振るわれた斬撃は次の瞬間、様々な形の大量の斬撃が現れた。

 正真正銘シュラの本気の剣術。しかし、魔法を使っていないので本気とは言い難い。


「ああああ!」

「なんだよこれ!」

「く、来るな!」


 AGIが高いプレイヤーは躱せた人も居たが、空を斬るしか無かった斬撃は方向を変えてプレイヤーに迫る。

 破壊して天に確実に送る。これが破天流の流儀である。

 波乱万丈、正に今、起こっている事を表している剣術だった。


 だが、復活して間もないプレイヤーは無敵時間で耐えた。

 数秒の間、大量の斬撃が沢山のプレイヤーを倒した。

 旗の上に立つ黒い侍は天を仰ぐ。

 黒い刀、周りに浮くのは鞭のような剣に小さな刃とボール。

 紫色に光る目は負け犬たる自衛隊達を見下ろしているようだった。

 訓練、そんなのに付き合う事も無い。

 シュラが行うのは主の願いと思いを叶えるだけである。

 シュラの行動理念、それは主の笑顔を守る事。

 それは他の魔剣にも言える事。


「コンナモノカ」


 リアルに近い戦闘を繰り返していた自衛隊達はこの世界にとって本当の強者とは言えない。

 いや、そんな事は無い。

 連携力、団結力、この2つを取れば自衛隊に叶うクランは中々見当たらないだろう。

 だが、個々の力が高く無ければ無機物であり自分の事など二の次である強者シュラには叶わない。


 シュラはこの事から様々な人に目を付けられ、そして考察がされた。

 攻撃力、防御力、敏捷力、その3点が軒並み高い。

 だが、それは難しい。

 何故なら、シュラにはHPバーが存在しておらず、クランエンブレムも分からない。

 何処のクランかどんなプレイヤーかそんなのも分からない。

 魔法が使える人が相手なら、デバフが効かない事にも驚愕する事だろう。


 それを見ていた2人と言えば。


「「うん。強すぎ」」


 攻撃力、防御力、敏捷力、どれも確かに高い。

 だが、それよりもシュラを強者にしたのは、レイシア半分の力が出せる剣術だろう。

 それを可能にした犯人は黒巫女と魔女っ子である。

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