黒巫女召喚士とその仲間達のクラン劇
第105話【本能】誕生の意味
「行ってきまーす」
途中で桃ちゃんとは別れる。
現在24日の登校日となっている。夏休みの課題の提出とテストに移る為の日である。
私達の高校と桃ちゃん達の中学校の登校日は同じであり、1日アプデの日も今日である。
「あ、ピリパだ」
ピリパ、名前こそ適当だが少し前から復旧してあちこち動き回っているロボット、主にゴミ拾いと搭載されているカメラで監視カメラでは届かない所の警備をしてくれているロボット。
これにより空き巣等の犯罪が激減したのも事実だ。
「あ、そうだ。貴美ちゃん、沙苗ちゃん。あの頃の事思い出した?よ」
「?あの頃?にしても疑問形?」
「なんだ?」
『あ、そこは経験的にわたしが話すべきだと思うので代わってちょ』
「うん⋯⋯で、こっからはわたしが話すな。⋯⋯そんな警戒すんなよ」
わたしに切り替わった瞬間に2人は警戒した。貴美は武術経験者故か、沙苗は本能故か、取り敢えず落ち着いてもろて。
「あの頃、桃との事。そして私がその頃の記憶を無くしていた事、2人には知っておいて欲しくてな」
「「⋯⋯」」
「じゃ、移動しながら話す」
ちなみに3メートルくらい離れた所の電線に乗っていた雀達はわたしに成った瞬間に飛び去ったよ。私なら真下に来るまで飛ばないのに。
◇
それは過去、萌南が小学1か2の頃、桃と2人に近くの市場の八百屋に行くところだった。
近いし普段行くので顔見知りが多く、両親は安心してお使いを頼んだ。
2人は楽しく会話をしながら正に姉妹の関係をさらけ出しながら歩いて居た。
この頃はまだ両親はゲームは早いと思い授けていない。
「あ、あいつらか?」
「そうだ。あいつらの親はかなりの金持ちだ。上手く行けばかなりの金が手に入る」
「うっし、行くぞ」
八百屋で必要な物を購入、今時八百屋でもキャッシュは普通に対応しており現金など無いので奪われる心配は無い。
2人は帰路に着き会話をしながら帰った。
「ちょっと、お嬢さん達」
そこに現れたのは金髪、茶髪、黒髪、赤毛の男4人集だった。
知らない人に挨拶以外から始まる声掛け、答えは即逃げる。
萌南は桃の手を引っ張り走る。
裏路地に入り近道をして交番へと逃げる。
だが、2人は小学生クラスの小さい子供である。
当然、大の大人に叶う訳もなく捕まってしまう。
「い、いや!何?!離して!」
「お姉、ちゃん」
「誰かーたーむぐごむぐごごご」
「だ、黙れよ!じゃないと、殺すぞ!」
「⋯⋯ッ!」
突き付けられたのは自分の顔を反射する鋭利な物だった。
それには桃にも同じだった。
「おい、速くしろ!」
「お、おう」
赤毛と茶髪は何処かに行くようだ。
金髪は萌南を、黒髪は桃を押さえ付けている。
萌南はこんな状況でも、「お姉ちゃんだからしっかりしてね」と言う母の言葉に寄って冷静に考えていた。
だが、桃は違う。これからどうなるのか、分からない恐怖が遅い、藻掻く叫ぶ泣く。助けて、助けてお姉ちゃん、その言葉が萌南の鼓膜を震わせる。
助けたい、だけど動かない。完全に乗られて動けない。少しだけ肺が抑えられて呼吸もままならない。
「う、五月蝿いと、本当に切っちまうぞ」
「いやぁぁぁ!誰かああ!」
暴れて、藻掻いて、助けを求めて、そして避ける。
ナイフの先端に故意か事故か、桃の腕を細くそれでも深く一閃した。
飛び散るのは赤く輝く液体、響くのは変え難い絶叫。
桃に渦巻く恐怖の感情、切り裂かれた痛み、熱さ。
1滴、赤い液体1滴が萌南の顔に飛び散る。
萌南は認識した。今、ここに起こっている状況を。
そして、何かが切れた。プツンと、音を立てて。
次の瞬間、認識は冷静から殺意に、逃げる糸口を探るから殺すに、ここに誕生したのは目の前の外敵を殺す事を考えた獣だった。
「あああああぁああああ!」
絶叫と共に突き立てられているナイフを避けて、力強く男の腕に噛み付いた。
「くっ」
一瞬の怯み、そして解放される肺。
少し見た貴美の動きをトレース、筋力等は違えど真似事は可能。
呼吸を整え、正しい呼吸に切り替える。
男から脱出、拳を握り締め相手の喉仏狙って放つ拳。
「ぐふ」
所詮子供の力である。一瞬意識は飛んだが何とか持ち直す。
萌南はその怯みを見て、ナイフを奪い取る。
「桃から離れろ」
ドスの効いた声を震え零してナイフを投擲する。
狙いは相手の目である。
黒髪の男はすぐに避けてギリギリ躱す。
桃から離れた所にすぐに接近してアッパーを使い相手の顎を攻撃する。
気功も未熟ながら少しだけ使って成る可く強く殴る。
裏路地には色々とあり、黒髪の男は目の前の獣に恐怖したのかナイフと言う射程の短いのを辞めて鉄の棒を握り締める。
「ああああ!」
混乱のもと、振り下ろされた鉄の棒を受け止める。
痛い、確かに感じる痛み。だが、萌南、いや獣は思う。それよりも何倍もの痛みを大切な妹は味わった、と。
込み上げるのは怒りと殺意。
鉄の棒を握り締めて押して引く、体を上げて捻り相手の顎に回し蹴りを放つ。
ここはゲームじゃない。現実だ。
怯み鉄の棒に加える力を緩めたのが運の尽き、すぐに引き抜き相手の頭目掛けて振り下ろす。
洗礼されたその動きによって、最悪な事には至らないが気絶はした。
桃に近づこうとした金髪の男に対して近くのナイフを広い腕に投擲して刺す。
怯んだ隙に接近して
強烈な痛みに苦しむ男に対して追撃を仕掛ける。
膝の皿目掛けて振り下ろす。あくまでも子供の力であるが故に割れる事は無い。
そこに到着したのは赤毛と茶髪。
見たのはこの惨状。
血を腕から流す女の子、苦しむ男、気絶する男、鉄の棒を持った女の子。
それを認識して理解するよりも速く、獣は動いていた。
時間にして数秒だっただろうか、男達は全員地べたに這いつくばっていた。
だが、忘れては成らぬ。獣が持っている感情は『怒り』と『殺意』だ。
人間、感情が限界値に達したら何をするか分からない。獣の場合は⋯⋯殺す事だった。
苦しむ男に近づき、相手の頭を目掛けて鉄の棒を振り下ろす。
怒りで頭に血が登り少し視界がぶれて狙いが外れる。
もう一度上げて振り下ろす所を桃が食い止める。
「⋯⋯離せ」
「やだ!」
「どうして?」
「だって、だってお姉ちゃんが犯罪者に成っちゃうもん!嫌だよ!絶対に嫌だよ!お姉ちゃんは、そんな、嫌だよ」
泣き出す桃。
収まる感情。守るべき相手が悲しむ姿は獣、【本能】にとってダイレクトアタックだった。
頭に手を乗せて、顔を上げる桃。にこりと笑う【本能】。
「ここからは交番が近い。呼んで来てくれ」
「でも」
「わたしなら問題無い。殺さない。大丈夫」
「う、うん」
去る桃に一言。
「⋯⋯ありがとうな」
それから数分して警察が駆け付けた頃には気絶している人しか居なかった。
目覚めるとそこは知らない天井。
萌南はゆっくりと体を起こして周りを確認すると、泣いて顔を真っ赤にしている母と父、もう1人の妹の柑。それよりも辛そうな顔をしている腕に包帯を巻いた桃。
理解出来ないこの状況。扉が開き沙苗と貴美が入って来る。
「萌南さん!無事ですか?!」
「萌南大丈夫か!」
「う、うん?よく分かんないんだけど?」
「え、お姉ちゃん、覚えてないの?私を助けてくれたんだよ!」
「⋯⋯?」
沈黙する空間。理解出来ないと思うのは、この場の全員だった。
尚、愛梨との出会いは小学3年生から4年生までの間だ。すぐに転校してしまったのだ。
◇
「そんな事が」
「言って、くれてありがとうな」
「いやいや。その方が2人とも良かっただろ?忘れていたか知らんけど、桃を見た瞬間に少しハッとしていたしな」
「気づかれていましたか」
「あははは、どうしてもあの痕を見るとね」
そんな表情していた事に気づいて居なかった人格がここに。
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