第68話百鬼夜行 後編


「なぁああああ!オレンヘルプぅ!」


 空を飛び銃を放つ鬼3体から逃げながら速い動きをする赤鬼から逃げているムニン。


「空飛ぶ鬼!この鬼!コントローラー使えやゴラ!」


 コントローラー、プレイヤー自身が飛ぶ際に強制的に使わされるアイテム、それがコントローラー。

 片手で操作して空を飛ぶ事が可能。片手が強制的に塞がるので口か足を使わないと飛びながら弓矢で攻撃出来ない。

 無論、召喚獣や使役獣に乗って空を飛んだり、魔法や妖術で飛ぶ場合は基本的にコントローラーはない。

 だが、魔法や妖術はMPが持続的に減り、モンスターに乗る場合には弓矢での狙いずらくなる。


 そして1時間ムニンは逃げ切った。

 終始叫びを上げているムニンは随分余裕があるようだ。

 月がブレ、2つになる。ムニンはその事に気がついていない。



 今から始まるのは百鬼夜行、妖怪達の行進2ラウンド目だ。



 マップのあちこちに様々な妖怪達が現れ、鬼の角が赤くなり身体も大きくなっていく。

 合わせて総合的能力も上昇する。

 空飛ぶ鬼なら背中の翼はジェット機のようになり、銃は空中に浮遊する銃も現れる。

 簡単に言えば手数と質が増した。

 より強力に、より乱暴に、より凶暴に、鬼や妖怪はプレイヤーに対して刃を向ける。


 とある場所ではプレイヤーをリスキル紛いな事をしたり、とある場所では大規模パーティ(複数のパーティが一緒に集まっている)の移動を妨害及び滅ぼし、とある場所ではNPCを避けて(妖怪や鬼はNPCに刃を向けない)プレイヤーを屠ったり、とある場所では1人の少女を追い掛けて奮闘したり、とある空間では幼女にHPが無いので虚無空間に封印されたり、破壊されたり⋯⋯。

 マップは更なる地獄絵図となっていた。


「後、2時間」


 ムニンは逃げる。


 そして開始から2時間が経過した。

 月は4つになり空飛ぶ鬼の翼は完璧なジェット機となり音を響かせながら高速で飛んでアサルトライフルを連射している。

 ムニンを背後から追い掛けて高速で剣を振り回す腕が50本近くある鬼も居る。

 ムニンの移動のペースは落ちている。

 それだけその場での回避に集中しているのだ。

 ムニンの顔からは徐々に焦りは無くなっていた。

 余裕から来る物では無い。余裕が無いからこそ、冷静に確実に逃げ切る為に集中しているのだ。

 プロゲーマーのムニンの本気。

 それは落ちていた移動ペースを元に戻す位には大きい物だった。

 既に悲鳴と言うBGMはムニンの耳には入らない。

 強化された鬼は馬車の中に入っているプレイヤーを綺麗に仕留める。

 鬼はNPCを攻撃しない。あくまで敵はプレイヤーであり、目的はムニンの処分。

 鬼と言う妖怪には似合わない装備だろうがなんでも使ってムニンを確実に倒す。


 だがムニンはそれさえも越える。

 運営は1時間もったら良い方だと思って居た『百鬼夜行』のクエストは完全攻略パーフェクトクリアへと向かって行って居た。


 地面から繰り出されたマグマの柱を事前に察知して回避、背後の虚空から現れる大剣を躱し、空中から高速連射されたミニガンの弾を赤いラインの出方を見て少しでも遅くなるラインの方へと移動して隙間を縫って躱していく。

 AGIが4桁あろうがちょっとした弾のズレを一瞬で全て把握して躱す事は至難の業。

 正に元プロゲーマー現在ゲーマー会社ではとても優秀の両親、演算可能の萌南を持つ桃だけの事はあるのだろう。

 バトロワ系ゲームで培った経験も今、回避に使われている。


「フーー」


 地面を滑らかに滑るように移動したり、跳躍からの武器に乗って躱すのを繰り返して躱したり。

 身軽な動きで攻撃を躱す。


 そして、残り10分の所に来ていた。


 ムニンの目は既に瞬き1つしておらず目の前の化け物達に集中していた。

 描写範囲外からの攻撃を躱し、AGI600以上無いと目視不可の攻撃を全て躱し、メカになった鬼も現れてソイツの目からビームやロケットランチャー、高速手榴弾を躱す。

 最初は大きく逃げて爆発範囲を確認して、その後は最低限の動きで躱す。


 躱して、躱して、躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して─────そして難易度:地獄ヘルを終えた。


 そして地獄ヘルから報酬時間ボーナスタイム詰まるところ天国ヘブンへとムニンは足を踏み入れる。


 残り時間が00:00になった瞬間世界は朝を取り戻した。

 そしてクリア不可能と予想付けられて居たこのクエストをクリアしたムニンに対して運営は、遊び8割の報酬を渡す事になった。なってしまった。


 ムニンは一瞬の浮遊感と体が分解される感覚に陥り一瞬で再構築される。


「ほほほほ!素晴らしい!素晴らしい結果だ!ムニンよ!」

「お、わった」


 ムニンは大の字になって空を見上げる。

 終わったのだ。


「ムニン、少し考えて欲しい事がある。儂の跡を継いでくれんか?」

「ん?良いですよ〜」


 既に疲れきったムニンはログアウトして糖分を摂取したい状態となって居た。

 完全に脳内パンク、思考停止状態のムニン。

 普段なら様々な選択肢を考察し最高の選択肢を導き出して言葉を話すムニンには珍しい光景だ。


「ありがとう」


《Congratulation!ラストクエスト『百鬼夜行』をクリアしました》

《種族が敏鬼スピーディオグルに変化します》

《職業:双鬼に変化します》

《称号:【暴君】【魔に落ちし者】【鬼を束ねる者(仮)】を獲得しました》

《1部スキルの変更を行います》

《固有スキル:真鬼を獲得しました》

《スキル:【百鬼夜行】【多重存在】を獲得しました》


「そして、お前さんように用意した装備がある」

「イベントクリアによって高速で生成されたのかな?」

「受け取ってくれ!」


【鬼姫の髪飾り】【鬼姫の耳飾り】【鬼姫の腕輪】【敏鬼の双剣】【闇鬼の服】【闇鬼のズボン】【闇鬼の靴】を獲得したムニン。

 黒色のバラの見た目をした髪飾りに両耳に飾れる花の形を先端に付けた耳飾りに両腕に付けれる花の刺繍がある腕輪。

 紅くそして深い色の短剣が2本、黒色の服にショートズボンに靴。

 正に完全1式だ。


 毎秒相手のHP1パーセントを削る効果のある短剣は最近ではそもそもSTR不足で相手に攻撃が通らない事や再生能力が高いので意味が無い状態が多かった。

 今回手に入った武器にムニンは期待するがそれよりも先にムニンは決断する。


「儂の跡を⋯⋯」

「あ、ごめん。それ後で」


 ムニンはログアウトして砂糖たっぷりのヨーグルトを食べて一眠りしてから再びログイン。


「それでなんだっけ?」

「ああ、儂の跡を頼んだ」


 おじさんは消えた。


「じゃ、まずはステータスからだね」


 ───────

 名前:ムニンLv1

 種族:敏鬼スピーディオグル

 職業:双鬼Lv1

 称号:【貧弱者】【トリックスター】【スピードランナー】【大物喰らいジャイアントキリング】【暴君】【魔に落ちし者】【鬼を束ねる者(仮)】

 HP:10/10

 MP:10/10

 STR:0

 DEX:0

 VIT:0

 AGI:1500

 INT:0

 MND:0

 SP:0

 固有スキル:【真鬼】

 スキル:【百鬼夜行Lv1】【多重存在Lv1】【短剣術Lv8】【双剣術Lv8】【連続斬りLv2】【サイクロンスラッシュ】【パワースラッシュLvLv3】【アサシンブレイドLv3】【パワーLv1】【跳躍Lv2】【ハイジャンプLv1】【俊足Lv2】【加速Lv2】【超回避Lv8】【高速移動】【万能移動】

 特性:【速鬼】

 ───────


「装備無しでAGIが1500って事は次の進化した状態よりも少し多いね?職業とかが関係あるのかな?」


 ───────

 双鬼

 AGIに補正が掛かる。SP1につき4上昇、他はSP4つで1上昇する。鬼の王になる者にのみ使える職業

 ───────

 速鬼

 移動している際に風圧を受けなくなる

 ───────

 真鬼

 本来の鬼としての力を解放する。使用後3分持続し、自身のステータスを2倍にする。再使用可能時間は10分


 00:00、12:00の時に使用した時、暴君デストロイモードとなり1分持続、終了後1時間行動不能。全ステータス+500。ステータス10倍。プラスされたステータスにも影響する


 満月時に使用した場合、月が登っている間は持続、ステータス2倍。翌日使用不可

 ───────

 百鬼夜行Lv1

 自身を中心に夜空間を広げる。使用中に移動すると夜空間も移動する。範囲は半径50メートルの半球体型

 鬼が召喚可能になり、スキルのLvによって強さは変わる

 召喚可能な鬼×2+スキルレベル

 ───────


「うん、私にとっては最高の効果だけど他の人から見たらAGI以外上げにくいね」


 そもそも簡単には完全攻略は難しいのだ。

 運良く『百鬼夜行』のクエストまで辿り着けても途中で鬼に捕まる。そして報酬が貰える仕組みになっている。

『百鬼夜行』は完全攻略者が現れるまでいくらでも出来る。もう出来ない。


「次はお楽しみの武器や装備〜アクセサリー枠3つだから全部使うね〜」


 ───────

 鬼姫の髪飾り

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【片割れ】【鬼化[月]】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+100(200)、MP+(30)

 説明:とある鬼が自分の大切な嫁にプレゼントした髪飾り。世の中に1つしか存在しなく貴重で美しい髪飾り。しかし、聖魔戦争で所有者が亡くなり自身を装備してくれる存在を探している。【鬼姫の耳飾り】【鬼姫の腕輪】と共に装備すると真なる力を発揮する


 片割れ: 【鬼姫の耳飾り】【鬼姫の腕輪】と共に装備している場合に真なる力を解放出来る


 鬼化[月]:月が登っている間はMP回復速度上昇

 ───────

 鬼姫の耳飾り

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【片割れ】【鬼化[新]】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+100(200)、HP+(30)

 説明:とある鬼が自分の大切な嫁にプレゼントした腕輪。世の中に1つしか存在しなく貴重で美しい耳飾り。しかし、聖魔戦争で所有者が亡くなり自身を装備してくれる存在を探している。【鬼姫の髪飾り】【鬼姫の腕輪】と共に装備すると真なる力を発揮する


 片割れ: 【鬼姫の髪飾り】【鬼姫の腕輪】と共に装備している場合に真なる力を解放出来る


 鬼化[新]:新月の間はHP・MP回復速度上昇、AGIを10パーセント上昇させる

 ───────

 鬼姫の腕輪

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【片割れ】【鬼化[太]】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+100(200)、HP・MP+(30)

 説明:とある鬼が自分の大切な嫁にプレゼントした腕輪。世の中に1つしか存在しなく貴重で美しい腕輪。しかし、聖魔戦争で所有者が亡くなり自身を装備してくれる存在を探している。【鬼姫の耳飾り】【鬼姫の髪飾り】と共に装備すると真なる力を発揮する


 片割れ: 【鬼姫の耳飾り】【鬼姫の髪飾り】と共に装備している場合に真なる力を解放出来る


 鬼化[太]:太陽が登っている間は【無限加速】が装備者に付与される

 ───────

 敏鬼の双剣

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【加速溜め】【斬撃攻撃上昇】【譲渡不可/破壊不可】

 STR+400

 説明:神速の鬼と言われていた鬼が装備していた短剣。2つで1つ。右手に持つ短剣は【阿修】左手に持つ短剣は【森羅】と呼ばれる


 加速溜め:手に持ち走ると加速を短剣に溜める事を可能にした。対象に当てるとリセットされる。最大STRは+3000

 ───────

 闇鬼の服

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【闇に潜む者】【無音】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+100

 説明:神『ハデス』の加護を得た糸で作られ闇との親和性が高く、軽く頑丈に作られた。音を遮断する効果が出るようになった。


 闇に潜む者:暗い場所では自身の存在自体を半分遮断する

 ───────

 闇鬼のズボン

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【光に潜む者】【無臭】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+100

 説明:神『アポロン』の加護を得たが鬼の悪しき心に染まり色が闇に染められた糸で作られたが性能は維持し続けた。光との親和性が高く、軽く頑丈に作られた。臭いを遮断する効果が出るようになった。


 光に潜む者:明るい場所では自身の存在自体を半分遮断する

 ───────

 闇鬼の靴

 装備必要条件:称号:【鬼を束ねる者】関係

 特性:【速い物】【着地】【譲渡不可/破壊不可】

 AGI+200

 説明:酒呑童子の悪意の塊で作られた靴


 速い者:減速加速がスムーズに出来る

 無地:落下ダメージ無効、地面を滑る事を可能にした

 ───────


「うっし!全部装備!」


 そして森へと出かけた。


 到着したムニンは『真鬼』を使う。

 いつの間にか生えた1本の角が2本になり更に少し長く伸びる。


「おぉ」


 装備含めて現在のAGI2500。更に真鬼を使ったので現在は5000のAGIを持つ。

『NewWorldFrontier』で最速と言っても過言では無い。

 だが、悲しきかな。STRの数値は0。0に何を掛けても0。武器のプラスは真鬼には意味が無い。


「百鬼夜行!」


 夜空間が広がり3体の鬼が現れた。

 体長は均等に3メートル。だが、ムニンは怒る。


「おいコラ!私を追い掛けて来た鬼は銃とか持って居たじゃん!なのに2体は武器なし!一体は金棒って舐めてんの?」


 まあいい、とムニンは溜め息を吐いて近くのモンスターに攻撃するように指示を出した。

 武器を持たない一体の鬼が駆け出した。


「⋯⋯ッ!」


 ムニンの緩い目視では見えない程の高速移動でモンスターに近づいてその拳を振り下ろした。

 速い、使える。ムニンは思った。だが、あの鬼はムニンから召喚された鬼。

 それを忘れてはならない。


 振り下ろした拳はモンスターに当たり、そして鬼は体を後方に倒した。モンスターは何をされたのか分からない状態。なぜならHPは減っていないからだ。

 そしてモンスターは鬼に攻撃、鬼は一瞬で倒されてムニンの傍で復活。

 相手のモンスターは2層での最弱モンスターだ。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 無言で鬼を見つめるムニン。


「レベルあるし。熟練度溜めてレベル上げたら使い物になるかな?」


 武器を持っている鬼の攻撃はダメージを与える事が出来るようだ。

 ムニンに召喚された鬼はムニンに近いステータスになる。

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