第67話百鬼夜行 前編

 桃事ムニンは現在ユニークシナリオ、発生条件AGI100以上、クエスト『マラソン大会』で優勝する事で発生する。


 クエスト『マラソン大会』

 複数人のAGI100以上のプレイヤーやNPCが決められたコースを素のステータスだけで走る普通のマラソン大会。

 ムニン、AGI4桁は余裕の1位を貰っていた。


 ユニークシナリオ『妖怪行進』

 ムニンは妖怪行進で様々なクエストで鬼ごっこをしていた。

 時には鬼ごっこと言うなの遠距離攻撃を躱したり、空から降ってくる爆弾を躱したりと、頑張ってついに最後のクエストとなってた。

 ムニンの前にはこのシナリオの進行役兼メインNPCの角の生えた人間の見た目の腰の曲がったおじさんが居る。

 尚、このおじさんのAGIはムニンの2倍近くある事はムニンは知らない。


「EX:ラストクエスト、百鬼夜行」


 エクストラクエストに変化したシナリオクエストにムニンは驚愕を露わにする。

 シナリオのクエストを条件付きでクリアしていくとクエストの分岐点が現れて、本来有り得ない、現れたクエストに成功すると本来よりも良い報酬が手に入る。

 つまり、ムニン、プロゲーマーでありゲームが大好きなムニンに選ぶ以外の選択肢は無かった。


「良し、ならば始めよう。【世界の夜ワールド・ダークネス】」


 第2層のフィールドが昼から夜に変わった。

 見える月は赤色、怪しさを秘めた色をしていた。


「へ〜なかなかにこってるじゃん」

「範囲はこの世界、そして様々な鬼達から逃げよ」

「ハイハイ」


 そしてムニンの目の前に超大型の長さは一軒家が建つかもしれない程のスナイパーライフルを担いだ一角の青鬼、体がやけに細く栄養不足のような顔をしている赤鬼、特に変哲もない黒鬼が現れた。


「コイツらがお前さんを追いかけ回す。あとは時々出て来る鬼達だな」

「なるほどランダムエンカウントか」

「幸運を祈る」


 次の瞬間、ムニンは野原に転移されていた。

 条件や制限時間が見えるようになっている。


「ふむふむ、相変わらずスキルは使用不可、武器もダメ。国に入るのはダメ、か。制限時間は3時間⋯⋯短いね」


 だが、ムニンは甘かった。今まで自分に取っては簡単なクエストばかりのシナリオで緩んでいるのだ。

 それでも本質はゲーマーでありプロ、すぐに逃げの行動を始めた。


 振り返ると赤鬼が見えた事には驚いた。


「速っ!」


 赤色の線がムニン全体を照らす。


「なっ!射線ライン!」


 遠距離攻撃をされる前に赤色の線が見える仕様である。

 ムニンはすぐにそこから離れる。


「えぐ!えっと、確か青鬼だったよね?見えないんだけど?」


 なぜ、描写可能範囲外から攻撃して来るのだろうかと言うムニンの考えは迫り来る赤鬼を見て諦めた。

 たったの3時間、されど3時間。

 その短いようで長い時間をムニン含め2層にいるプレイヤーは味わう事になった。


 そう、現在2層は夜である。


 セカイは洗濯をしており、沙苗は夏休みの課題、オレンとメイは武器の調整、モフリは自分の師と話している。

 両親は仕事。


 ムニンが全速力で直線的に走っていると目の前の土が盛り上がり中から黒鬼と様々な鬼が合計11人飛び出てきた。


「モグラかっ!」


 急カーブ、そして走る。

 目の前には数人の人集りが見える。

 きっとパーティだろう。


「ねぇねぇ、あれ何?」

「なんだろうな?」


 パーティの人達は奇妙な物を見ていた。

 前を走る人は見るからにアサシンの女子、その後ろは様々な形容をしている鬼達である。

 女子が自分達の横を通り過ぎたと思い背後を見ると既にかなりの距離が空いて居た。


「バグか?」

「それとも純粋な速さ?」

「いや、一瞬であの距離だぞ?有り得ないって」

「だな!」

「て、それよりも前!前見ろ!」

「え」


 前からは複数の鬼、しかもHPバーが存在しないと来た。



 ムニンは背後を見る。

 鬼の足場となってダメージエフェクトを散らしている数人の人達。


「あれ?これって全プレイヤーにも効果あるの?⋯⋯私、今害悪プレイヤーなんじゃ?」


 突然の夜、唐突に現れたチート鬼集団。

 現在2層にいるプレイヤー達はこの現象を驚きながらも楽しんでいた。

 なぜならデスってもなんのデメリットも無いからである。

 そして今後、この現象は『魔女の集会前夜ワルプルギスの夜』と名ずけられた。

 鬼によって蹂躙されるプレイヤー達、だが皆は知らない。

 鬼達はあくまで1プレイヤーを屠る為に目覚めている事を。


 ムニンは先程犠牲になったプレイヤーに懺悔しながらいつかどっかで会ったらお詫びをしようと決める。


「線が、6?」


 これまた自分の視力では見えない距離からの遠距離攻撃をされているムニン、だが線が見えてからのタイムラグはそこそこあるので躱すのは用意だ。

 まだ3分も経っていない現状なのにかなりの量の鬼や攻撃にムニンは驚いていた。


「せめて3分は考察の時間を頂戴!」


 断る!と、言わんばかりに翼を広げている鬼が空から落ちて来る。


「鬼なら地面を走ってこいや!」


 銃を使っている時点でそんな鬼のイメージは捨てるべきだとムニンは意識を切り替える。

 目の前の鬼はコウモリのような翼を持っておりそれで飛んで来たと推測出来る。

 実際今回のシナリオでも空を飛ぶモンスターはそこそこ居た。


「一体私に何を求めているのよ」


 ムニンは走る。



 とあるネット掲示板にて


 1、なんか夜になったんだけど


 2、それ俺も気になっている


 3、なんかのイベントだろ


 4、でも運営からは何もないぞ?


 5、>>1に補足して、月が赤色だ


 6、ワッツ?


 7、考察します?


 8、まあそのために建てたし


 9、俺的には誰かのシナリオだと思う


 10、>>9に同意


 11、それだったらかなりの大きなシナリオだぞ?マップ全域に影響出ているし


 12、確かに


 13、これ絶対報酬美味い奴だろ


 14、考察の話が消えた


 15、そうだな。取り敢えずシナリオと仮定して考えようか


 16、なんか伝説とか神話とかで夜にある奴で有名なのってなんだっけ?


 17、ワルプルギスの夜とかじゃないか?


 18、でもそれだと鬼が出ているのに説明が出来ん


 19、確かに。それになんかこのゲームの正解感に適さない武器持って居るしね。さらに速い奴も居る


 20、俺の仲間なんか赤色の線に包まれた数秒後に消し飛んだんだけど。なんかレーザーのような物が来た


 21、俺、それに代わりありそうな人知ってるかも


 22、>>21まじか?!


 23、なんか女の子が走って居て(めっちゃ速い)その後ろから鬼が来たんだよ。あ、ちなみに大きので6メートルはあった。HP存在しない。踏まれたら一撃で終わったよ


 24、女の子気になる。てか、確定でソイツだな。見た目は?


 25、速くて女の子とアサシンって所しか分からなかった


 26、そこは分かったんだ?


 27、装備が初期のソレだったから分かり易かった


 28、男性と女性のアバターってめっちゃ作り込む人以外区別付くからね


 29、やばい人って1ミリ単位で設定するからね


 30、結論、それを可能にした運営やばい


 31、話戻す。まとめたらこんな感じか?犯人女の子、フィールドが夜(赤月)、鬼が出現、鬼(無敵)一撃必殺持ちの可能性大


 32、良き



 それからも掲示板の考察は続く。女の子はどんな感じだったとか、鬼はどんな感じだったとか。

 だが、この掲示板が盛り上がるのは後54分後である。




 ──残り時間:2時間54分

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