今だけは
怪異によって破壊された校舎とグラウンドは《等価交換》によって元通りになった。
「せっかく食べたのに、これでだいたい使い切っちゃった」
美玖は残念そうにいう。教室の素材——瓦礫ではあったが――は残っていたのだから、支払う対価はもっと少なくてもよさそうなものだが、実際にはそうも燃費がいいわけではないらしい。それはやはり、人間では行えないことを行っているからなのかもしれない。
「もしかして、これでお別れ?」
みづほの怪異は祓われた。それは同時に、みづほの事情が解決したことを意味する。道宮達とどう向き合っていくのかはみづほの問題であり、そこに美玖や真知が関与することはない。そこまでの解決を要求するなど怠慢にもほどがある。所詮、みづほの人生はみづほのもの。困難に直面したり、懊悩に苛まれたりしたところで、彼女だけで対処しなくてはならない。
今回は特例。たまたま手助けしてもらえてよかったね、くらいのこと。
俯いたまま、今にも泣き出してしまいそうなみづほを見つめ、真知が苦笑交じりに答えた。
「まだ僕の姿は見えているんだろう? 先輩は人間の部分を残しているから別として、僕は怪異そのものだ。それが見えているということは、キミはこちら側に片足を残したままだ。店にだって来られるはずだから、望むならばそうすればいい」
「また目を晴らして欲しいなら、やってあげるわよ」
そう言って、キスをする素振り。みづほは思わず両手で目を隠し、微笑を浮かべた。
「また行きますね」
「そうしてもらわないと。うやむやなんてダメよ?」
「うん、ちゃんと払うから。今だけは甘えさせて」
踏切を下った先、小高い丘の麓にある細長い空き地。荒れ放題のその場所には、普通の人間には入ることができず、見ることもできない喫茶店がある。もしもその店が見えてしまったならば要注意。それは普通ではなくなりつつある前兆だ。
けれど、そこには《怪異殺し》がいる。
扉を開ければ、黒髪の青年と金髪の少女が迎えてくれる。
第一声は平凡に「いらっしゃい」と、非凡な二人は言うだろう。
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