第2話 カフェ"perch”開店!

「さて、カフェを開くと言ってもどうしましょう」


 フィルートと別れ、私は今後の計画で頭を悩ませる。どの土地にするか、店はどうするのか、イチから建てるのかすでに建っているものを買い取るのか。


「……面倒だな」


 そして、私は禁術を使う。その呪文の名はーー


<<全てを金で解決マネーイズオール>>


 そして3ヶ月ほど経ち。無事に店が完成する。

 場所はトレルシアンの城下町から馬車で5日程移動した先にある田舎町”イナーカ”。

 イナーカは田んぼと山に囲まれた、人もたまにすれ違う程度の静かな村である。

 店自体は村から少し外れた所にあり、村の雰囲気を壊さないように、木々で出来たぬくもりのある店に仕上がった。

 内装も大きなキッチンに8名ほどが座れる机と、2名ほどが座れるカウンターが用意された。


「おー!これが私のお店!細かいことに口出ししただけで完成した…。お金のチカラってすげー!」


 こうして冒険者達の止まり木となれるようにという意味を込めたカフェ”Perch”が開店したのである。

 が、新規オープンしたといっても人のいない田舎町。千客万来とは程遠く…


「ま、まぁ。そんな簡単に人なんて来ないよね〜」


 そして、客が来ないままボーッとしてると半日が過ぎていた。


「これはヤバい!ちょっと店の外に出て客引きでもしてみなきゃ!!」


 せっかくのカフェが初日客0人はあまりにも虚しいと感じ、私は慌てて外にでる。

 店を出てすぐの道に座り込んで泣いている女の子に気付いた。


「どうしたのお嬢ちゃん?」

「グスン……お姉さん誰…?」

「そこのお店の人よ。それよりもこんな所で座り込んで泣いているの?」

「店員さん…あのね店員さん…これ…」


 まぁ店員というより店長だが些事であるため置いといて、その女の子は大きな鳥の羽を見せてきた。


「この羽はどうしたのかな?」

「この羽がおウチのお庭に…落ちてて…お父さんもお母さんもどこにもいなくて…グスッ…うわああああん」

「おーよしよし落ち着いて」


 この羽はおそらく鳥の魔物”ヘルコンディア”の物だろうが、羽の大きさがあまりにも大きい。しかもこの子の話を聞く限り大人を2人連れ去っている。ヘルコンディアはそこまで大きくはないはずだが…。


「この羽を持って両親を探していたのね」


 女の子はコクリと頷く。


「村の人たちは何て?」

「気のせいだって…。村の近くにはお父さんとお母さん…を連れ去れるような大きな魔物はいないって…いい子に待っていれば戻ってくるよって…」


 まぁ村の人たちの意見には私も概ね同意である。しかし、彼女は確信に近い形で両親を探して歩き回っている。

 村で待っていても両親は帰って来ないという確信を。

 そしてこれにはもう一つの問題がある。それは、おそらくこの村では大きな魔物を討伐出来ないことである。


「両親がいなくなったのはいつ?」

「朝…わたしが起きたら…」

「随分と時間が経っているのね…これは急がないとマズいか」


 せっかくの開店初日だが、目の前の小さな女の子を見捨てることなんて私には出来ない。


「いいわ、お嬢ちゃん私が探してあげるわ!」

「店員さんいいの…?」


 彼女の顔が少し明るくなった。


「えぇ、私に任せなさい!ちょっとその羽を貸して貰えるかな?」

「うん」

「ありがと。さてお姉さんちょっと本気出しちゃおうかしら」


<<魔力探知>>


 私は自分の魔力を円状で薄く広範囲に飛ばし、その魔力が接触することで対象を探し出す魔法<<魔力探知>>を発動する。私の得意魔法の一つである。魔物は魔素を大なり小なり纏っているため、この方法で探索が可能なのである。魔素を含まない物質は魔力が衝突することがないため、探索できないことが難点だ。

 そしてこの魔法、私の魔力量で使った場合その探索範囲は、一般的な魔法使いの30倍にもなる。村から山まで包み込むのもなんのそのである。

 この魔法で魔王の各城を、理不尽とも思える情報量の差で制圧したのも懐かしい話である。


「ヒット♪見つけたわ」

「ほ、ホント!?」

「えぇ、そこのお店で待っているのよ」

「うん!」


 女の子を店に待たせて、私は怪鳥のいる山へ向かって駆け出す。私の身体能力はモヤシもいいところなので、当然魔法を使う。


<<疾風疾駆>>


 空気中にある魔素に風属性の魔力を与えることによって発生する風を、繊細にコントロールすることによって、身体を羽のように軽くし、駆ける一歩は巨人のような大きな一歩となる。

 フィジカルエリートしかいない勇者パーティーに着いていくために、私がオリジナルで編み出した魔法である。流石に風のコントロールが繊細すぎて自分にしか付与出来ないが、速度は十分である。


「待っててね、今助けてあげるから…」


 こうして、開店初日なのに化物怪鳥討伐が始まる。ホントなんでこんなことに…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る