最強賢者の珈琲はいかが?〜元勇者パーティーのちょっぴりHな女賢者がカフェを開いてスローライフ♪ー魔法で無双は出来るけど、私は静かに過ごしたいって言ったよね!?ー〜

佐々黒 歩

第1話 疲れたのでカフェを開きます

 これは少し昔のお話ーー


「はぁ…はぁ…これで最後だ」

「人間風情にこの魔王が討たれるとは…」

「平和の礎となり永遠に眠れ魔王!!」


 勇者の突き立てた伝説の剣が、魔王の胸を貫く。

 そして魔王の身体は塵となり散っていったーーー


 そんな人間の勇者と魔王、世界の命運を懸けた戦いを終え、その勇者パーティー一行はこの世界の一番の大国「トレルシアン」へ招かれ、一生遊んで暮らせる程の”金”と”名誉”が与えられた。

 その日の夜は国中お祭り騒ぎであったことを今でもよく覚えている。

 そして元勇者パーティーの賢者である私”ミシェル”の名も世界中に広まった。その広まり方は凄まじく、勇者パーティーの中で唯一の女性であったためか、私を女神のように讃える人も数多くいた。街のどこへ言っても「ミシェル様」「ミシェル様」と声を掛けられる。

 最初は自分の行った功績に鼻高々であったがーーー


「疲れた!!私は疲れたよ!!!」

「なんだ突然!?」


 ここはトレルシアンの城下町。私、ミシェルは同じく勇者パーティーであり、一番気兼ねなく話ができる弓使いのエルフの”フィルート”と居酒屋で呑んでいた。


「聞いてくれるかフィルート君!!」

「聞いてくれるかも何も、アナタが僕をここに呼んだんですよ?」

「そうか聞いてくれるか!!」

「ダメだこの人、完全にできあがってる…」


 まぁ呑んでるとは言っているが実際は私1人でガブガブと呑んでるだけで…。


「私はねフィルート君!疲れたんだよ!!」

「それはさっき聞きました。何に疲れたんですか?」

「目線だよ!みんなの私に対する目線に疲れたんだよ!私は多少人より魔法が使えるだけの一般人だよ!?女神じゃないんだよ!!」

「いや、あれは多少ってレベルの遥か彼方にある神の境地ですけどね。まぁ人間の信仰心は僕たちエルフとは少し違いますし、信仰の対象ってのも楽じゃないのですね」

「楽どころが地獄だよ!神なんてものは人間なんていうちっぽけな心の器じゃなれないんだよ!私はもうちょっと静かに暮らしたいんだよ!!私はこんな信仰を得るために毎日毎日、オークやデーモンを屠ってたわけじゃないんだよ!」

「静かにですか…」

「そう!フィルート君こそ最近はどうしてるのさ。それだけ美形で世界を救ったってんなら、さぞ皆から注目もされるでしょ!」

「僕の方はあれから故郷の森に帰って、しばらくはお祭り騒ぎでしたが今では落ち着いたものですよ」

「ぐぬぬ…エルフの森で静かに暮らすだなんて…。森で静かにか…」

「どうしました?」


 私はある考えが頭をよぎった。私が住んでいるのは城下町。しかも世界一大きな国の城下町であるため、人間もエルフも亜人も獣人もいっぱいいる。そんな過密地域にいるから常に視線を感じるのではないか?それなら、フィルート君のように人の少ない地でのんびり過ごすのも悪くない…。幸いにも金はたくさんある。


「思いついた!私も人の少ない土地に引っ越して、ひっそり暮らすことにする!そうね〜せっかくだしカフェでも開こうかしら!料理好きだし!」

「いいと思いま…待って、ミシェルさんが料理!?それは……」

「そうと決まれば早速行動よ!うっ……」

「ミシェルさんここでは!!」


 吐いた。


 フィルート君のファインプレーのおかげで、なんとか店内での粗相を回避することが出来たが大変迷惑をかけてしまった。なんならその後、近くの宿まで運んでもらう始末である。死にたい…。


「うぅ…昨日はごめんね、フィルート君…頭が痛い…」

「いえ、全然大丈夫ですよ、気になさらず。僕は女の子が吐く姿を見るのが好きなので♪」

「なんか言った?」

「いいえ、なにも♪それよりも、これエルフの飲み薬です。二日酔いにも効きますよ」

「(天使かよ…)天使かよ…」

「ミシェルさん本音と建て前が一緒です。僕が天使だったら、ミシェル女神に使える天使ですかね」


 ふふっと彼は素敵なご尊顔で笑ってみせる。結婚しよ…


「結婚しよ…」

「心の声が漏れてますよ。あと結婚は謹んでお断りします♪」

「そんなっ…」

「ミシェルさんにはいずれ僕なんかより素敵な人が見つかりますよ」

「お手本のような受け流し方をされた…まぁそれはそれとして、お礼をしたいのだけど」

「気になさらなくてよいのに」

「いいえ、それでは私の気が済まないわ。そしたら、私のカフェが開店したら是非来て!いっぱいサービスするわ!」

「あ、その話諦めてなかったんですね」

「失敬な!私は本気よ!」

「まぁミシェルさんの淹れるコーヒーは美味しいので今度お邪魔しますね」

「楽しみにしててね!」


 こうして、賢者である私ミシェルはカフェを開くことを決意したのである。

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