第3話

「桃地は何学部に行ったの?」

「看護学部.

梶原君は?」

「ほー。」

「え?」

「法.」

えぇっ.そうなの?

身内に医師,警察官,弁護士が揃ったら鬼金って聞いた.

「そうなんだぁ.」

「急に,にこにこしてくんのな.」

バレる…

即バレだ.

ビールを一口呑み込んだ.

少し何かを食べよう.

お料理が…何だか,あまりそそらない.

かといって,ビールだけお腹に入れるのも…

しかも遠いし.

「何か取る?」

「え?見てた?」

「うん.

これ?これ?皿.」

差し出された手に,皿を乗せる.

「どれか分からないし,何かも微妙に見えてない.」

ごめんって感じで笑うと,

「よく分かんないから適当でいい?」

訊かれる.

「うんうん.

有難う.

ほんとよく分かんないから適当で.」

眺めてたら…

「え…

そんなに食べない.」

「これ位普通に食べる.

もういいって言わないと…」

「知らないんだから…

そんなルール…」

他人事に考えれば大層気持ちいい位山盛りの皿を渡された…


「取った分は食べるルール.」

「え…

うん…分かった.」

明らかに食べ切れ無さそうだった.

「罰ゲームあり.」

「嘘…」

「一緒食べてあげよっか.」

「えっ?」

にこにこされる.

暫し見続ける…

笑顔可愛いね.

これ,多分男子にかける言葉ではない.

「桃地のえっていいね.

何度も聞きたい.

何度でも聞きたい.」

「えっ…

もう何も言えなくなっちゃうよ.」

そう焦って言うと,

「あぁそれ困る.」

本当に困った顔してて.

何で,こんな見た感じもごつい人が

可愛く見えるんだろうって不思議過ぎた.

「同じ皿から食べるだなんて気持ち悪くない?」

「まーそういう人もいるだろうね.

桃地が大丈夫か大丈夫でないかが問題じゃない?

俺と一緒に食べられるかが.

気を遣わなくてもいいよ.」

気を遣わなくてもいいよが,どこにかかっているのか分からない.

気を遣わなくてもいいから食べられないって言っていいよか,

気を遣わなくてもいいから一緒に食べて欲しいって言っていいよなのか.

梶原君が,私と一緒に食べたいのかが,

それだけが,どうしても気になり始めた.

あら?

あれ?

私ビール呑み過ぎなのかな.

「私が食べます.」

「うん?食べていいよって取り分けたつもりだよ.」

「うーん…」

「食べられるなら加勢は要らないね.」

「食べられません.」

「えっ?」

「梶原君も可愛いよ.」

「えぇ!?

桃地,水飲んどこっか.」

「なんかごついのに可愛く見えるの.」

「それ,褒められてんのか分かんない.

いつもは,こんな量じゃ酔う訳無いのに.

今日は,おかしい.

俺は,桃地が可愛く見えてる.」

「酔ってるから可愛く見えるのって!」

「おっおぉ…

桃地急にスイッチ入るのな.

あのさ…」

梶原君が急に小声になった.

そして顔寄せてくる.

「わ…耳耳.」

思いっ切り私も顔近づけて恥ずかしくなる…

耳ね.

「はい.なんでしょか.」

「普通は,そんな事恥ずかしくて言えないから.」

そう梶原君は言った.

何だろう.

我慢できなくて,ふふっと笑ってしまった.

「可愛いとか言うけど

俺,物凄く呑むし物凄く食べるんだよ.

桃地が俺の本調子見ると驚くと思うなぁ.」

ちょっと得意げに言う所が更に何だか面白かった.


「食べられないから食べて欲しい.

一緒に.」

ちょっと恐々言ったのに,

「一緒食べよっか.」

って,また梶原君はにこにこする.

同じ皿から食べるのって,

今や家族でもしない.

ましてや,この人,学生の時

どんな人だったのかも思い出せない.

だけど,

「これ美味しいから食べてみてよ.」

「それ,さっき食べたけど,あんまり.」

「美味しいからっ.」

「うん…同じだって,さっきと.」

言いながら,美味しいよって言われると

美味しいねって言いたくなるし,

本当に美味しい感じがしてきて,

美味しい.


「医併設だったっけ.」

梶原君が訊いてくる.

「そうだけど何で?」

梶原君が訊いてくる意図が分からなかった.

「秀才ばっかり?」

「医学部入る位だから秀才でしょう.」

知らないけど.私たち文系だったじゃない.

いつの間にか,腰に手が回ってて

おかしい事に嫌じゃなかった.

「ステーキばっか,いつも食べてたら飽きない?

たまには寿司とか,どう?俺,美味しいよ.」

「え!?」

かなり驚く.

そして,ドキドキしてくる.

「ラグビーやってる.今.

興味無い?」

「ラグビーに?」

「あははっラグビーにね.

うん.

ラグビーをやってる俺自身に.」

はわわって,まさに地でやってると,

「脱いだら凄いよ.」

「なんか,そんなのあったよね…」

「古い?」

「うーん…

私に向けてくる言葉的には驚きしかない.

むしろ驚きだけ.

そんな事聞くの初めてで.」

困ってしまう.

遊んでるみたいに見えたのかなって,

そこも気になった.

毎日,忙し過ぎて,それどころじゃないんだけど.

ここ,訂正しとくべきなんじゃないかなって思い始める.

ぼんやりして見えたのか,

腰に置かれた手が,ぐっと引き寄せるように動いて…

ゆっくり梶原君を見る動きをとってしまう.

「一緒に抜けない?」

耳元で囁く.

あぁ…

こんな人だったっけ.

あぁ記憶が無かったんだ.

この人,元来こんなキャラなの?

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始まってもないから終わる訳もない 食連星 @kakumi

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