第23-2話 スラビア艦隊皇国侵入、大戸会戦2


 加速を続けながら石戸に迫る十数隻の大型輸送船群に向けての第1艦隊の巡洋戦艦による主砲の斉射で戦端が開かれた。


 第1艦隊にとって不運だったのは、主力艦を含む敵艦隊との艦隊戦を想定していた巡洋戦艦の主砲弾として搭載されていた弾種は徹甲弾のみだったことで、第1斉射は、回避行動のない大型輸送船群に全弾命中するも、装甲も何もない輸送船の船体を徹甲弾が貫通してしまい、機関部に砲弾が直撃した数隻を除き、ほとんど健在のままだった。


 第1艦隊では輸送船群の対処は巡洋艦以下に任せることとし、巡洋戦艦の主砲の第二射を敵巡洋戦艦に照準し直し発射した。その直後スラビア第1艦隊の戦艦群が放った徹甲弾がやや角度を持って飛来し、第1艦隊旗艦金剛に2発命中した。一弾は金剛の装甲版に弾かれたが、もう1弾が装甲板を貫通し第1艦隊司令部の入っていた指令室を破壊し、艦隊司令官を含め司令部要員および艦長以下の指令室要員は全滅した。さらに艦の中央演算装置そのものは健在だったが、周囲のインターフェースが破損し、旗艦機能と個艦としての機能を同時に喪失した。結局操艦不能のまま金剛は艦の横腹をスラビア艦隊に晒しさらに4発の主砲弾を受け爆沈してしまった。今会戦での最初の喪失艦である。


 主力艦同士の砲撃戦に前後して、軽巡を先頭に皇国側の8個の雷撃戦隊が、スラビアの6隻の戦艦に向け突撃を開始している。


 スラビア側の雷撃戦隊も自艦隊の戦艦群への皇国の雷撃隊の接近を阻止するため、突撃を開始した。



 主力艦同士の殴りあいはお互いに命中弾を出すものの、スラビア側と比べ砲門数が圧倒的に少ないうえに軽装甲の皇国側の巡洋戦艦は当然撃ち負けていき、結局4隻の巡洋戦艦全てを喪失してしまう。


 その間に、スラビア側の雷撃戦隊をかわした皇国側雷撃戦隊が大損害を被りながらも敵主力艦の隊列の至近で放った大型実体弾がスラビア戦艦2隻に多数命中し、これを撃破することに成功した。しかし皇国側雷撃戦隊の活躍はそこまでで、敵艦隊至近から離脱することができず重巡洋艦などから滅多打ちにされ全艦喪失してしまった。


 皇国第1艦隊に残るのは重巡洋艦のみとなり、全滅も見えて来たが、第7艦隊が横合いから、スラビアの連合艦隊に対して放った超遠距離砲撃の砲弾がスラビア艦隊を襲った。このとき、近接防御による主砲弾の迎撃を困難にするため、皇国側の主砲弾には通常の2倍、2割ほどおとり弾が含まれていた。



 横合いからの砲撃に対し、回頭して軸線砲の照準を合わせる間、皇国第7艦隊の戦艦群からの第2射が飛来して、6隻のスラビア戦艦のうち実に3隻に命中した。しかもそのうちの二艦は被弾により主砲である軸線砲の照準が狂ってしまった。戦闘中の照準修正は困難なため、この二艦はもはや戦艦としての攻撃力を失ったも同然である。以降、味方の盾になるだけではあるが、それでも戦艦を完全撃破するためにはそれなりの手数は必要なので、照準以外重大な損傷がないのであれば戦線に居続けることには意味がある。


 スラビア第2艦隊の巡洋戦艦は自軍の戦艦群が皇国第7艦隊への射線を塞いでいたため位置取りに手間取り、ようやく皇国第7艦隊との砲撃戦に参加した。これにより、戦いは互角の撃ち合いとなったが、スラビア艦隊は損害が一定量を超えた段階で艦首スラスターを全開にし、砲撃を諦め乱数回避を織り混ぜながら後退を始めた。同程度の損害を被っていた皇国第7艦隊にはこれを追撃する余力はなく、大戸星系での皇国航宙軍とスラビア第二方面軍との会戦はお互いに大損害を出しての痛み分けで終了した。






【補足説明】

おとり弾:

敵の近接防御範囲に突入する寸前に、口径にもよるが数十個から数百個の砲弾径と同径の円形金属薄膜が展開し、迎撃側の光学観測上、本物の主砲弾との区別を困難にさせる砲弾である。展開時の薄膜はひらいた傘のように見え、その傘の一群が徐々に散開しながら敵艦に向け飛翔する。単位砲弾当たりの迎撃密度を下げることで、砲弾の被撃破率が低下する。


艦隊戦:

主力艦同士の艦隊戦の場合、主砲である軸線砲の砲口は当然艦首方向にしかないため、お互いが艦首を向け合って撃ち合うことになる。その際、味方艦が射線を遮らないよう、各艦は艦首を敵艦隊方向に向けたまま平面状に展開する。宇宙空間であるため砲戦距離は任意であるが、命中率と被弾率の兼ね合いから、通常は120万キロを標準としている。中小型艦の場合は敵艦の側方に回り込もうと機動するが、相手方の中小型艦も当然同じ動きをするため、中小型艦同士で同じような砲撃戦が展開される。これに対し、攻撃機は自在に戦場を飛び回り敵艦の任意の個所を攻撃できるため非常にやっかいな存在である。


乱数回避:

艦の側面スラスターを使い、乱数に従って予測不可能な回避運動を行う。乱数回避中は照準不能なので、距離のある敵艦への射撃はできない。

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