銀河をこの手に！ 改 －試製事象蓋然性演算装置X-PC17－

第23-1話 スラビア艦隊皇国侵入、大戸会戦１

　皇国領有星系のうち最もスラビアとの境界領域に近いＳＳ－３１、稲葉星系。その稲葉星系は無人の星系だったが、星系内広域探知システムだけは稼働している。

　スラビア領に突出した形になっている稲葉星系の隣りの星系にはＳＳ－０３２、大戸星系があり、稲葉星系の広域探知システムは大戸星系の監視システムに超空間通信で直結されている。

　大戸星系には人口１億を超えいずれも軌道エレベーター設備を有する有人惑星が２つ存在していた。ＳＳ－０３２－ａ岩戸（人口２億）とＳＳ－０３２－ｂ石戸（人口１億２千万）の二惑星である。その人口の多い方の惑星、岩戸惑星の第１ラグランジュ点Ｌ１宙域を航宙軍は艦隊泊地に指定しており、現在泊地には第７艦隊（打撃艦隊）および俺が実験部に異動する前駆逐艦長を務めていた第１艦隊（高速艦隊）の艦船が停泊していた。また同地には第７艦隊が司令部を置く人工惑星ＡＭＡＮＯＩＷＡＴＯ（アマノイワト）があり、増援として中央から派遣された第１艦隊もＡＭＡＮＯＩＷＡＴＯ（アマノイワト）に臨時司令部を置いていた。

　スラビア側から見た場合、大戸星系に一度のジャンプで直接侵攻できれば越したことはないのだが、稲葉星系と大戸星系の距離の関係で、いったん稲葉星系でジャンプアウトして再度大戸星系にジャンプする必要がある。大戸星系で待ち受ける皇国側から見た場合、稲葉星系でスラビア側はワンクッション置くので時間的余裕ができる。

　その稲葉星系の広域探知システムから、大戸星系の人工惑星ＡＭＡＮＯＩＷＡＴＯ（アマノイワト）内の第７艦隊司令部に、複数の大質量の出現を知らせる一報が届いた。光学観測による精密データの取得にはまだ時間がかかるが、状況から考え、スラビア艦隊が稲葉星系に侵入してきたものと考えられ、安定領域の擾乱（じょうらん）が収まり艦隊が再ジャンプ可能となる数時間後には、大戸星系のいずれかの安定宙域にジャンプアウトしてくるであろうと推測された。

　この緊急事態に際し、航宙軍第７艦隊及び第１艦隊は迎撃配置につくことになるのだが、間の悪いことに、岩戸と石戸の位置はこのときほぼ衝（しょう）の位置（お互い恒星大戸を挟み１８０度逆側の位置）にあった。また、念のために第１艦隊を派遣したものの、皇国航宙軍の一大拠点である大戸星系が敵に本当に（・・・）狙われることなど想定していなかったため、ホーミング機雷などの無人迎撃態勢のシステム構築が遅れており、敵艦隊の出現が数時間後であることが想定される現状、戦闘には間に合いそうもなかった。

　竜宮星系での失態が尾を引いている航宙軍本部は、第７、第１艦隊に対して皇国民が居住する惑星を決して敵に蹂躙（じゅうりん）させてはならないと厳命している。そのため、第７、第１艦隊は、艦隊戦力を二つの惑星を防衛するため二分せざるを得ず、苦しい戦いとなることが予想されている。

　航宙軍本部からの指示により戦艦主体の第７艦隊はそのまま人口の多い惑星岩戸を、高速艦隊である第１艦隊は泊地から距離のある惑星石戸を防衛することとし、どちらかの惑星に襲来した敵艦隊を一方の艦隊で食い止めている間に、もう一方が駆け付けて挟撃する作戦だったが、両艦隊司令部でもその作戦の成否にはほとんどの者が否定的だった。しかし、両惑星の防衛が絶対条件である以上、現地司令部が航宙軍本部に代案を示すことも出来ず、大戸防衛作戦はそのまま皇王の裁可を経て、航宙軍本部より航宙軍命令（航宙令）として発令された。

　第７艦隊、第１艦隊を構成する艦はどれも艦齢１２年以下で、艦種毎に同一クラスの新鋭艦で統一されており、同艦種同数の他の列強国の艦隊と比較しても、その戦闘力は２割～３割増しであると皇国航宙軍は評価している。従って苦しい戦いになるとしても勝算は十分であると航宙軍本部は考えていた。

第７艦隊（打撃艦隊）

　戦艦×６

　重巡洋艦×６

　軽巡洋艦×６

　駆逐艦×３６

　＋各種補給艦など

第１艦隊（高速艦隊）

　巡洋戦艦×４

　重巡洋艦×８

　軽巡洋艦×８

　駆逐艦×４８

　＋各種補給艦など

　大戸防衛作戦が発令されて２時間後。

　大戸星系の広域探知システムが安定領域への質量出現を確認した。大戸星系の安定領域、ＳＳ０１および隣接するＳＳ０２に出現したのは、艦隊ではなくスラビア宇宙軍の常套戦術である機雷原の啓開（けいかい）目的の廃棄寸前の大型輸送船群だった。機雷などはシステム構築が間に合わず活性化されていなかったため、この啓開（けいかい）作戦自体は空振りしたものの、二群の輸送船団は、どちらも無傷で第１艦隊が防衛する惑星石戸に向けて加速を続けた。

　安定領域から輸送船群が石戸に向け加速しながら移動したあと、先の大華連邦との戦闘で損傷の修理のなったスラビア第二方面第１艦隊と第二方面第２艦隊がそれぞれＳＳ０１とＳＳ０２に出現し、並走する形で、皇国第１艦隊（高速艦隊）が守る惑星石戸に向けて進撃を開始した。この時点で、皇国航宙軍は光学観測により大戸星系に侵入した艦隊の素性を確認しており、情報は逐一皇都の航宙軍本部にもたらされている。

　皇都の内閣は直ちに閣議を開き、このスラビアによる侵攻を事変にとどめるため、あえて、宣戦の布告は控える決定をし、総理が皇王に内奏し許可を得ている。

　スラビアの２艦隊を迎撃するには巡洋戦艦を主体とする第１艦隊では不可能なため、第７艦隊は全速力で、石戸へ向け移動を開始した。第１艦隊が３時間持ちこたえることが出来れば、合流できるが、極めて厳しい状況だった。言い方を変えると各個撃破される可能性が高まっていた。

スラビア共和国第二方面第１艦隊

　戦艦×６

　重巡洋艦×１２

　軽巡洋艦×８

　駆逐艦×４８

　＋各種補給艦など

スラビア共和国第二方面第２艦隊

　巡洋戦艦×４

　重巡洋艦×８

　軽巡洋艦×８

　大型駆逐艦×１６

　＋各種補給艦など

【補足説明】

航宙令：

航宙軍の正式命令。航宙令に反した行動をとった場合、理由のいかんを問わず軍法により、処断から謹慎までの処分が行われる。最も軽い謹慎でも、航宙軍でのキャリアはそこで終了する。