第24話 大華連邦、皇国再侵攻1


 こちらは、スラビア共和国。


 皇国に対する単純な威力偵察のはずの今回の作戦で、これほどまでに甚大な被害が発生した理由を追求するため、首都惑星にあるスラビア宇宙軍本部内において、第二方面軍の首脳部を召喚しての査問会議が開かれた。


 その結果、第二方面軍総司令官の独断・・で、今回の作戦に限り、『威力偵察時の損害許容量を、通常の20パーセントから大きく逸脱した50パーセントとし、積極的行動を行い皇国軍の実力を測るとともにできうる限りの損害を与えること』という命令が出されていたことが判明した。皇国との本格的戦争につながりかねない第二方面軍の暴走にスラビア軍首脳部は激怒した。


 第二方面軍総司令官はそういった命令を出した覚えはないと否定していたが、実際に命令は記録されている・・・・・・・うえ艦隊が大損害を被っている以上、第二方面軍総司令官の責任は非常に重い。査問会はそのまま軍法会議となり、結果として、第二方面軍総司令官は軍籍を剥奪されたうえ、逮捕された。


 スラビア共和国ではよくある話ではある。


 その後、スラビア第二方面軍の活動は一気に低調になっていった。ワンセブンによると、逮捕された人物は、司令官としては、それなりに有能な人物だったそうだ。




 こちらは皇国。


 皇国の主力艦隊が甚大な被害を被ったことは、当然秘匿情報だ。


 領内に侵入したスラビア艦隊に対し、これに甚大な被害を与え、撃退し、有人惑星を無傷で守り切ったことのみ航宙軍から発表されたのだが、なぜか・・・秘匿情報のはずの航宙軍側の被害状況が大華連邦に伝わっていた。そして、徐々にではあるが、皇国国内にも大被害の実態が漏れ始めた。


 打撃力という意味では、列強中最強と言われている皇国第3艦隊(機動艦隊)は健在だったが、戦艦、巡洋戦艦、その他多くの艦艇を失うかまたは大規模修理を余儀なくされ、多数の乗組員を失った皇国に対して、今は与しやすしというメッセージが大華連邦にもたらされたわけである。




 そして、こちらは大華連邦。


 文字通り目の上の瘤であるスラビア第二方面軍も艦隊戦力を大きく消耗している今、大華連邦領域に対するスラビアからの圧力は当面弱まると判断した大華連邦政府は、この機に自国のプレゼンスを高めるため、攻撃機母艦を主力とする宇宙軍第3艦隊を、皇国領域に派遣し、駐留する地方艦隊をいくつか撃破して引き上げる計画を立てた。間違っても、皇国第3艦隊と鉢合わせしてしまわないよう、皇国第3艦隊の動静を皇国政府および皇国議会、航宙軍内部に浸透させたスパイを通じて探りつつ作戦を遂行することにした。


大華連邦宇宙軍第3艦隊(機動艦隊)

 巡洋戦艦×2

 攻撃機母艦×2

 重巡洋艦×8

 軽巡洋艦×8

 駆逐艦×32

 +各種補給艦など


皇国第3艦隊(機動艦隊)

 巡洋戦艦×2

 攻撃機母艦×4

 重巡洋艦×4

 軽巡洋艦×6

 駆逐艦×36

 +各種補給艦など





 大華連邦宇宙軍第3艦隊は降下部隊を引き連れていないため、高速機動が可能で、攻撃機母艦から艦載攻撃機をくり出すまでもなく、皇国の地方艦隊を撃破していった。この間、大華連邦第3艦隊は皇国の過剰な反応を恐れ、星系内の民間施設や有人惑星には一切手を出していない。


 民間への直接被害がなかったことと、大華連邦と正式な戦争状態に突入した場合、中立国との貿易停止や縮小を懸念した皇国は、大華連合の思惑通り大華連邦へ宣戦布告することはなかった。今回もいわゆる事変扱いとなったわけだ。



 皇国においても他国同様、首都星系を除く有人星系に駐留する地方艦隊はよくて二線級、通常はそれ以下の旧式艦で構成された小規模艦隊のため、攻撃機母艦を含む大華連邦の第3艦隊に全く太刀打ちできないことは自明である。それにもかかわらず、大華連邦が侵入した星系に駐留する地方艦隊の救援要請に対して、航宙軍本部は救援を送ることなく死守命令を出していった。


 大華連邦宇宙軍の動きに対する航宙軍本部のこの対応が航宙軍上層部に対するこれまでの皇国民からの批判の炎に油、それもガソリンを注いだ結果になってしまった。同時に航宙軍本部に対する艦隊実働部隊の不満も危険レベルにまで高まった。


 こういった状況の中、航宙軍は虎の子の第3艦隊(機動艦隊)を大華連邦第3艦隊を追撃するため派遣するのだが、会敵することはついにかなわず、大華連邦第3艦隊は砲弾と推進剤と燃料を消費しただけで無傷のまま戦果と共に自国領に撤収を果たした。


 航宙軍本部は敵艦隊をとり逃がした第3艦隊司令部を叱責することで、責任の転嫁をはかったが、これまで本部に対する不満を特に抱いていなかった第3艦隊も航宙軍本部に対し、不満と不信を抱くようになり、結果的に航宙軍本部そのものが、皇国内で孤立していった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ワンセブン、おまえの予測は怖いように当たるな」


『大華連邦、スラビア、皇国、どの国も国民性がはっきり表れていますから、揺らぎが少なく、少しこちらから刺激を与えただけで思ったような反応をしてもらえました』


「航宙軍に対しては、もう一押しというところだな。次の一手として、大華連邦に踊ってもらうんだろ?」


『大佐も、見えて来たようですね』


「まあな。特殊弾頭の備蓄もかなりの数になった。そろそろ消費しないとな」


『そういうことです』


「それで、場所は?」


『SS-62星系、つるぎ星系です。すでに、当地の広域探査網はこちらで掌握しており、星系内の全小惑星の詳細データも取得済みです』


「いつものように手回しがいいな。それで、いつになる?」


『皇国内を荒らし回った大華連邦艦隊が補給を終え再出撃可能となる一週間後です』



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