或る物語の終焉:Final Phase「愛に全てを」
「ふふふ……あははははっ!」
強烈な斬撃の直撃を受けたディードは、笑いながら腹の傷を修復し、向き直る。
「ようやく、私の命全部を燃やし尽くせる……!」
爆炎とともに竜化体のシルエットが一瞬浮かび、それが縮んで竜骨化体が現れる。
「
刺々しくシャープな鎧となったディードが、その堂々たる威容を見せる。
「見せなさい、アンタの全てを」
ハチドリは右半身を鋼で覆いながら、蒼い太刀を右手で抜く。
「旦那様……」
静かに呟くと、刀身に赫々たる怨愛の炎が宿る。太刀を自身の前に突き刺し、杖のように両手を
「あなたへの愛を、我が身全てを薪として、今ここに大火へと育て上げてみせます」
左手の籠手が崩れ落ち、炭化した素肌が顕になる。
「今こそ、あなたという薪を、全てを焼き尽くす時!」
右手で太刀を持ち、振り抜くとともに竜骨化する。幼女と言えた身長のハチドリが、バロンと変わらぬ背丈まで伸び、当世具足のようなデザインの竜人となる。
「いざ……」
ハチドリは全身から怨愛の炎を噴き出しながら構える。
「こんな力……立ってるだけで全部滅ぼせるわね」
「最強を決めるために許された私たちの逢瀬……最後まで楽しみましょう」
ハチドリが太刀を振り抜く。それだけで今まで渾身の力で繰り出していた十字斬りと同じかそれ以上のリーチを持って薙ぎ払われる。肉厚な斬撃が通り過ぎ、その周囲に大量の斬閃が設置される。ディードは飛び上がって躱し、一瞬の溜めから左足を突き出して突進する。姿が見えないほどの速さだが、一周回って速度が限界を超えているために時空が捻れて目視が可能になっている。ハチドリが無意識に発する力場を捩じ切り、蹴りで突っ込んでくる。ハチドリは分身を爆発させて飛び上がって躱し、頭上から降下しつつ太刀を振る。蹴りの着弾も、分身の爆発も、そのどちらも全てを凌駕する驚異的な破壊力であり、着地とともに太刀が振り切られる。ディードは瞬間的に力んで体表のエネルギーを爆増させて太刀を弾き返し、反撃に闘気を炸裂させる。ハチドリは左腕を地面に振り下ろして巨大な炎の壁を生み出し闘気を相殺して、一気に後退して距離を離す。ディードはそれを読んでいたか、右拳に力をこめ、愚直な突進からラリアットを繰り出す。ハチドリの頬を極限の破壊力が叩き、太刀を取り落としながら吹き飛ばされる。踏み込みつつの左拳に対し、ハチドリは即座に立て直して左拳で迎え撃つ。両者の腕が交差し、その合間で圧縮された空間が汚く喚く。そしてハチドリの左腕が押し切り、両者が同時に、反射的に繰り出した右拳が交差し、今度はハチドリの拳がディードの頬をひしゃげさせて吹き飛ばす。更に刀を右手に戻し、返す刀で斬撃を繰り出す。周囲の斬閃が一気に起動し、ディードは受け身を取りつつ自身の周囲に真炎の盾を生み出し、衝撃を受けてから単純な衝撃波として解放する。ハチドリは分身を盾にしつつ堪えるが、そこにもう一発闘気の衝撃波が撃ち込まれてよろけ、両腕に竜化形態の腕部を模した真炎を纏わせて一瞬で肉薄し、右薙ぎ払いから左叩きつけでバウンドさせ、右振り上げから両振り下ろし、そして真炎を凝縮して至近距離で爆発させて追撃する。しかし最後の爆発の直前、凝縮の段階で生じた僅かな隙に分身を盾として威力を弱め、逃れたハチドリが爆風の向こうから居合抜きを繰り出し、光線状の巨大斬撃を撃ち出してコンボ終了直後のディードに直撃させる。流石の彼女と言えど、完全に同格の存在の大技の直撃は堪えるのか、怯んで押し込まれる。
「ふふ……」
ディードは微笑む。ハチドリから立ち上り揺らめく、赫々たる炎を。もはや
「新たな力、ねえ……」
「私は変わりません。最初から、ここまで」
「戻らずの火……」
「あなたを焼き尽くし……決着をつける」
ディードは身を屈め、再び力を解き放つ。両腕が竜化形態を彷彿とさせる、鋭利で凶悪な剛腕へと進化する。突進から両腕を使ったラリアットを繰り出しつつ上昇し、右拳を急降下しつつ叩きつける。ハチドリは完璧なタイミングで躱し、急降下の衝撃を太刀で弾き返す。だが追撃に足元から巨大な真炎の嵐が巻き起こり、姿勢を戻したディードが右半身を引いて構え、全身を使って右腕を振り上げる。巨大な真炎の爪がハチドリを襲い、盾にした分身ごとハチドリを切り裂く。更に溜めからのサマーソルトで闘気の壁を撃ち出しつつ前方五方向に真炎の斬撃を飛ばす。そちらは太刀による一閃で断ち切り、左腕を燃焼させつつ突き出して突っ込む。だが完璧なタイミングでディードが滑るように移動して躱し、自身の代わりにその場に種火を残す。ハチドリが自身の周囲の空間を歪めて急停止と急反転を両立し、瞬間移動で肉薄する。残された種火は大爆発し、ハチドリは刀を振る。ディードが防御に迎え撃った瞬間に手元から太刀を消して空振らせ、即座に呼び戻して舞うような連撃に突入する。大量の斬撃と共に凄まじい勢いでディードの体表を削り、乱脈する斬閃が即座に起動しては追撃する。先程の巨大斬撃にも勝るとも劣らぬほどの凄まじい破壊力に晒されてはいるが、戦闘の進行につれてディードも更に力を引き出しているのか全く怯まずに、右腕で太刀を弾き返し、即座に構えた左拳を叩きつける。ハチドリも左拳で咄嗟に迎え撃ち、拳先が激突し、ディードの拳が一瞬で撃ち破る。そうしてハチドリの左前腕を吹き飛ばし、本命たる右拳で再び頬を撃ち抜く。これまでにないような速度でハチドリが後方に吹き飛び、ディードは自身の胸部から真炎で象った槍を生み出す。
「人には何の謂れも……必要ない!」
抗うように炎を滾らせる槍を無理やり掴み、ハチドリへ投げつける。ハチドリが受け身を取ったところにちょうど届き、完璧なタイミングで太刀にて弾き返し――てはおらず、太刀を両断してハチドリを貫通する。
「ッ……!」
「さあッ!これで……ッ!」
真炎を噴き出しながらディードが飛び上がり、再びの左飛び蹴りで決着をつけようとする。
「まだです……!」
太刀は刀身を修復しながら、赤黒い太刀や、
「……!」
「そうです……刀は既に、私の身体の一部……ならば私が強くなればなるほど、共に強くなる!」
「なんて単純な理屈……でも嫌いじゃないわ!」
完全に相殺してお互いに飛び退き、態勢を整える。ハチドリは左腕と胸部中央に空いた大穴を修復し、互いに総身から噴き出る炎の勢いを増加させる。
「無限の力と無限の命があっても、この戦いには終わりがある」
「終わりがあってこそ、この時を楽しめるのでしょう、ディード殿」
「その言葉、アンタをここまで導いたヤツに教えて上げなさいな」
「あなたを討つこと、それこそが旦那様への最大限の奉仕です」
ディードは鼻で笑う。
「極限まで自分のために生きた私と……」
「旦那様のために全てを捧げた私」
「全ては私のために」
「私の全ては旦那様のために」
ディードが右手の指を鳴らし、真炎が更に明るく滾る。
「ああ……これで本当に決まるのね、最強が!」
「……」
ハチドリが深く頷き、互いに構える。先にハチドリが踏み込んで太刀を突き出し、ディードはスライドで躱してから右拳を繰り出し、それに真炎で象った巨大な拳が追従する。左裏拳で右拳を往なし、太刀で巨拳を弾き返す。そこに当然のように左拳と巨拳が重ねられ、太刀を切り返して弾き返し、反動を使ってディードは身体を捻り、右足で一閃する。紅い閃光が迸り、横方向の斬撃だけではなく縦方向にも生じる。斬撃の軌道が爆発し、ディードは飛び上がって回転しつつ左足で蹴り下ろして追撃し、ハチドリは分身を盾にして翻ってから二連斬りを繰り出しつつ刀身に宿る炎を一気に増幅させて斬り上げ、そのまま薙ぎ払って熱波で追撃する。ディードは左太腿で防ぎつつ後退し、右足を振り抜いて真炎の槍の弾幕を繰り出しつつ巨大な真炎の斬撃を撃ち出す。両手を使った大上段からの振り下ろしで斬撃を打ち砕きつつ、炎の壁を纏いながら翻って弾幕を打ち消して炎の刃を四つ飛ばす。ディードは踏み込まずその場で力み、前方に無数の槍を撃ち出す。ハチドリが左手に呼び出した六連装をフルオートで発射し続けて槍の弾幕を撃ち落としていると、ディードは続けて周囲にも伝わるほどに凄まじい力を溜め始める。
「ならば!」
ハチドリは六連装を消して左半身を引いて構え、太刀のリーチを極限まで伸ばし、渾身の力にて横、縦と振り抜く。だがディードは耐えて動作を中断せず、天を仰いで総力を解き放つ。真炎が涯まで焼き尽くし、何もかもを破壊する衝撃波が生じる。
「この世の涯は……」
威力に飲まれる瞬間、ハチドリは左手を握りしめる。
「ただ一つ!」
彼女の全身からも総力を懸けた力が解放され、二人の全力が競り合う。
「アハハハ!」
「……!」
二人は力を解放しながらも、その力が混じり合って空間を生み出す。ディードが巨大火球を二発放ち、そこからスライド移動しながら槍の弾幕を飛ばしてくる。更に豪快に身体を回転させて足を振り抜き、巨大な斬撃をも連射してくる。ハチドリは太刀に巨大な刀の像を被せて薙ぎ払い、火球を両断しつつ弾幕を弾き、横振りの斬撃を弾いてから縦振りの斬撃を躱し、そこに刺すようにディードの左飛び蹴りが飛んでくる。爪先が先程投擲された槍と同じ形状に変形し、受け止めた太刀の腹と火花を散らす。
「終わりがあるからこそ楽しんでいられる……でもね!こんな楽しい戦いが、こんなすぐ終わっていいと思う!?」
「ふふっ……私にはわかりません……でも勝つのは私!」
足を弾き返してディードをよろけさせ、縦に翻って兜割りを放つ。だがディードは脛で往なし、真炎の両巨腕を生み出して反撃に振り下ろす。極限まで引き付けてから完璧に躱し、太刀を鞘に収めずに居合のように構え、一閃する。超巨大な斬撃が大量に荒れ狂い、トドメに真一文字に斬撃が重なる。ディードは構わずに構え直し、再び左飛び蹴りを繰り出す。一瞬で力を解き放ち、彼女の身体の端から灰が零れる。爪先がハチドリの胴体を捉え、圧倒的な貫通力を持って貫き通し、ディードは右手でブレーキをかけて振り向き、二人を包む空間がディードの優勢に傾く。
「まだですよ……!」
向き直りつつ胴体の大穴を修復し、ディードは勢いのまま右腕を振り抜き、巨腕が続いて薙ぎ払う。ハチドリは巨腕を左腕で弾いて打ち消しつつ、自らから紅い蝶たちを呼び起こす。彼らが生み出す爆発的なエネルギーで自らを吹き飛ばして距離を詰め、刺突を繰り出す。ディードがスライドで躱すと、ハチドリは後隙をまた吹き飛ばしてもらうことで強引に打ち消し、肉薄して薙ぎ払う。左腕に弾かれ、最速でのカウンターを読んだ瞬間移動を行う。しかしディードはわざと反撃を遅らせ、右手刀を振り下ろす。太刀で手刀を受け止め、更に左腕で支える。そこにディードが左貫手を放ち、ハチドリはわざと防御を崩して右手刀を届かせる。激烈な威力が肩口から伝わり、身が引き裂かれるのを感じながらも刃を返し、ディードの左前腕を切り飛ばす。
「うはぁ……!」
ディードが恍惚としながら、ハチドリは引いて手刀から逃れ、大上段から渾身の一閃を叩き込んで吹き飛ばし、拮抗が緩んだ空間の支配権を勝ち取って押し切ろうとする。
「ディード殿!」
「くくっ……!そう簡単に……!」
広がっていた力を左爪先に結集させ、威力が爆発的に増加した左飛び蹴りを繰り出す。ハチドリもそれに応じ、太刀の切っ先に己の力を集中させて迎え撃つ。互いの力が再び完全に拮抗し、だが全てを懸けた一撃によって相殺し、何なのかわからぬほどの威力を以て両者を吹き飛ばす。
ハチドリが太刀を支えに立ち上がり、片膝をついていたディードも全ての傷を癒やして立ち上がる。
「まだまだッ!」
ディードが空中に飛び上がり、右手を掲げて巨大な真炎の火球を生み出す。立て直したハチドリへそれを放り投げ、すぐに着地する。ハチドリが躱し、火球が着弾すると壮絶な大爆発が発生し、周囲を真炎で染め上げる。ディードは短く力み、全身を使って右足を横、縦と振り抜いて巨大な真炎の刃を飛ばし、ハチドリが空間を歪めて瞬間移動して躱し、移動先に高く飛び上がったディードが急降下してくる。咄嗟に太刀を構えて受け止め、ふらつきながらも弾いて吹き飛ばす。ディードは素早く受け身を取って着地し、全身から闘気を放って周囲の真炎をかき消す。
「私が!」
ディードが両手を胸の前に掲げ、掌の狭間で火球を生成し始める。それを右手に移し、超巨大な火球に変えて射出する。
「勝つ!」
「旦那様……!」
ハチドリも再び全力を懸けて太刀を投げつけ、両者の投擲物が激突する。
「ぬあああああああッ!」
「はあああああああッ!」
そして何を思ったのか両者ともに素手のまま雄叫びを上げて駆け寄り、同時に自身の投擲物を殴りつけ火球が大爆発する。太刀が砕け散り、両者は手を掴み合って力み合う。そして同時に頭突いてディードを押し切り、太刀から分離した脇差を右手に呼び戻して右腕の腱を切り裂きつつ背後に回って肩を切り裂き、左胸を背後から刺し貫く。
「御免!」
「まだ!」
だがディードは闘気を放って引き抜かせ、振り向きざまの左拳で脇差をも弾き飛ばす。
「終わらせないッ!」
「そう来なくては……ッ!」
ハチドリの左拳とディードの右拳が激突し、拳先に生じた威力によって両者が弾かれ後退する。
「ぐおおおあああああああッ!」
ディードが絶叫にも近い雄叫びを上げ、真炎の巨腕を生み出し、突進する。
「死ねェッ!」
ハチドリは右手に脇差を呼び戻し、斬り上げで左胸を裂いてから腹に突き刺して突進を中断させ、ディードは衝撃で後退する。
「ディード殿!」
「!」
壊れんばかりに右拳を握り締め、ハチドリは前進する。ディードはその一撃を待ち侘びていたように、屈託のない、満面の笑みで迎え入れる。
「これで!」
右拳がディードの頬を殴りつけ、そのまま笑みを崩して殴り抜き、吹き飛ばす。
「終わりだァァァァァァァッ!」
ディードは竜骨化が解け、力を使い果たし、斃れ、ハチドリが歩み寄る。
「負けたわ……清々しいほどね……」
「ディード殿……」
「これで最強は決まって……闘いが、消える……」
ハチドリもまた竜骨化が解け、肩で息をする。
「この世に、永遠の争いを、もたらす……それが、旦那様に頂いた、私の、存在理由……」
「くっ、くはははっ!いいわね、アンタ……」
「……」
ディードは虚空を見つめる。
「いい、ハチドリ……戦いってのは、誰かに強制されるものでも、管理されるものでも、ない……アンタが、愛と、自分で言うように……自分の意志に、ただ従う……法の庇護も、世界の理も……捻じ伏せて……自由に、自分を表現する……ただ、純粋に……敵を討ち倒し、勝利を誇る……ただ、それだけでいい……アンタはこれからも……その、
ディードは満足気に破顔し、灰となって崩れる。
「間違いなく……人生最高の戦いだった……これでこそ……生きてる意味が、あったってもんよ……」
最期の言葉が虚空に溶け、灰すらもハチドリから滾る炎によって消えて失くなる。
「旦那様……」
ハチドリは膝から崩れ落ちる。
「私は……旦那様が望んだ三千世界を……お見せ出来たのでしょうか……」
全てが過ぎ去った虚空を見つめていると、自身の胸から極彩色の僅かな光が発される。ハチドリは重力に任せるように頭を下げ、胸の中央から一頭の夢見鳥が飛び立つ。それに誘われるように頭を上げていき、残る力を振り絞って両手で迎え、叩き潰すように挟み込む。
「……」
徐ろに手を開くと、夢見鳥は加えられた力の通りに圧殺されていた。ゆっくりとした呼吸に合わせた瞬き、その度に徐々に瞼が重くなっていく。やがて夢見鳥の残骸は液状の金属になって、手から滑り落ちていく。
「あなたの温もりが……恋しい……」
後に残ったものは、何もなかった。
そうだ。
物語はここで終わる。
結局、人間は温もりが欲しいだけだ。
愛情こそが、最大の暴力なのだから。
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